食と健康

加工肉は体に悪い?「ハムは発がん性がある」は本当か

【管理栄養士が解説】「ハムやソーセージは健康に悪い」「ウインナーなどの加工肉には発がん性のリスクがある」といわれることがあります。実際、これらの説は根拠があるものなのでしょうか? 食品添加物についての正しい知識と、WHOの発表の適切な読み方、実際のがん予防に有効なことについて解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

加工肉は危険? 「ハムやソーセージには発がん性がある」説の根拠

日常の食卓にもなじみのある、ハムやソーセージなどの加工肉。「発がん性リスクがあると聞いたから、食べないようにする」というのは正しい判断なのでしょうか?

日常の食卓にもなじみのある、ハムやソーセージなどの加工肉。「発がん性リスクがあると聞いたから、食べないようにする」というのは正しい判断なのでしょうか?

「ソーセージやハムを食べるとがんになる」。食の危険性でしばしば話題になる「加工肉の発がん性リスク」。多くの方が耳にしたことがあると思いますが、この説は何を理由にここまで広まったのでしょうか?

そもそもこの説は、肉を加工する際に使われる亜硝酸ナトリウムや硝酸カリウム、硝酸ナトリウムなどの食品添加物に発がん性があるため、これらを使った加工肉、すなわちハムやソーセージなどを食べることは危険であると考えられたのが始まりのようです。

ここに追い討ちをかけるように発表されたのが、WHOが2015年10月26日に出した「IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat(英語)」という報告です(日本経済新聞社による当時の日本語訳記事はこちら)。

この報告の中では「加工肉を毎日食べた場合、50gごとに大腸がんを患う確率が18%上昇する」と記述されており、たった50gで18%もリスクが上がるのか?とセンセーショナルに報道されたのも、この説の恐怖を煽った一因かと思います。

ソーセージやハムの発がん性は何度となく繰り返し報道されたり、騒がれたりしています。しかしソーセージやハムは本当に危険な食べ物なのでしょうか?
 

「食品添加物=危険」は誤り! 安全性についての厳格な規準

まず、そもそも「食品添加物」の発がん性について、正確な知識を持ち、その安全性・危険性について考える必要があるでしょう。

上記のような説や報道がセンセーショナルに広まった後は、「食品添加物が入っている」と聞いただけで、使用されている添加物がどれくらいの量・どのような種類のものかも知らずに、安全性に不安を感じる人が増えたように感じます。

実は、日本には食品添加物に関する非常に厳しい基準があります。日本食品添加物協会の「安全性に対する考え方」などでもわかりやすく解説されていますが、安全性の基準を決める上では、食品添加物をラットやマウスなどに食べさせて、どのくらいの量までであればその動物の健康を害さないかが調べられます。

そしてそれらの動物に全く害のなかった量から、さらに「100倍以上の安全率」を見込んで、人間が一生食べ続けたとしても絶対に安全だと確信できる量を決め、その量を超えない範囲での使用が認められているのです。

日本国内で市販されている食品はこのルールに則って食品添加物を使用しているため、通常販売されている食品に添加物が使用されていることが記載されていても、人体への危険性はなく安心して食べられると言うことができるのです。
 

ハムは健康に悪い? 日本人の加工肉摂取量を見て、冷静に判断を

日本人はWHOが懸念するほど加工肉を日常的に食べていない?

日本人はWHOが懸念するほど加工肉を日常的に食べていない?

次に、多くの人が気になるであろう上記のWHOの発表についても見てみましょう。WHOは「加工肉を毎日50g以上食べると大腸がんのリスクが18%増える」と指摘しています。

しかしそもそも日本において、毎朝毎晩、お皿に並べたハムやソーセージをメインで食べ続けるような食生活を送っている方はあまりいないのではないでしょうか。

厚生労働省による「令和元年国民健康・栄養調査」によると、日本人のハム、ソーセージ類の消費量は1日あたり13.4g。「加工肉を毎日50g以上食べたとき」という前提条件にも当てはまらない消費量です。日本人はWHOが懸念するほどの量のソーセージやハムを、そもそも日常的に食べていないのです。

それでは、日本人の発がんリスクについてはどうかというと、少し古いデータになりますが、「国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループ」が2011年に発表した「赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて」という報告があります。

これによると日本人の場合、男性は「肉」を1日100g以上、女性は「赤身肉」を1日80g以上食べている人は、結腸がんのリスクが高くなることが示されています。日本人に限定して考えると、加工してある、していないに関わらず肉の摂取量が増えることで大腸がんのリスクは上がると考えてよいようです。

さらにまとめとして「飲酒、肥満は大腸がんリスクを増大させ、運動はリスクを低下させることが確実と評価されています。これらの生活習慣に気を配ることが、肉の過剰摂取を避けることと合わせて、大腸がんの予防には大切です」とあります。

日本人にとっては、ハムやソーセージを口にすることを避けたり、いたずらに食生活から排除しようと制限したりする以上に、もっと気をつけなければならないことがあるというわけですね。
 

日本人に効果的ながん予防法・大切な6つの要素

最後に、日本人が積極的にがん予防を考えたときに、根拠なく特定の食品を避けたりするのではなく、より現実的で有効だと考えられる方法についても考えてみましょう。

国立研究開発法人国立がん研究センター予防研究グループによる「日本人のためのがん予防法」によると、がん予防には6つの大切な要素があります。
  • タバコを吸わない
  • お酒を飲むならほどほどに
  • 食事はバランスよく
  • 身体をしっかり動かす
  • 中肉中背が◎
  • 肝炎ウイルスなどの感染に注意
どの項目を見ても、一般的にテレビなどで報道されているような常識的な内容にも感じられますが、実際に実行するとなると難しいものもあるのかもしれません。

例えば「食事はバランスよく」という項目の一つにある食塩の摂り過ぎに関しては、発がんリスクを上げること以外にも、脳卒中、心筋梗塞といった死に直結するような病気のリスクも上げることが知られています。

日本の食文化は塩とともにあると言っても過言ではないくらい、私たちの食文化には食塩が欠かせず、「減塩」生活をすぐに実行するのはなかなか難しいものです。できるところから気を付けて、取り組んでいく必要があります。

また、「日本人のためのがん予防法」の中には、「欧米の研究だけに基づく情報の場合には、日本人ではリスクやその意味合いが変わる可能性がある」という一文も見られます。

これは、諸外国の人種の違う人たちの結果が、日本人に当てはまらないことがあるということを意味しています。上記の「加工肉」に関するWHOの見解がよい例でしょう。

諸外国の一部では当たり前のように毎日1日50g以上の加工肉が食べられているのかもしれませんが、日本人で1日50g以上の加工肉を食べている人はかなり少数派です。それなのに「加工肉を食べると……」などと、心配をするのはもったいない。

ソーセージやハムも美味しい食品なのですから、普通に楽しめばよいのです。もちろん、どんな食材でも極端な食べ過ぎには注意が必要ですが……。

心身ともに健康的で豊かな食生活を送れるように、日本人の食事の内容に見合った正しい情報を適切に選べる力を身につけたいものです。

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