メリー・ポピンズ役(wキャスト)
濱田めぐみさんインタビュー
濱田めぐみ 福岡県出身。95年劇団四季に入団、翌年『美女と野獣』ベル役でデビュー。『キャッツ』『ミュージカル李香蘭』『クレイジー・フォー・ユー』等多くのミュージカルでヒロインを演じ、10年に退団後は『カルメン』『Love Never Dies』『スコット&ゼルダ』等様々な舞台で活躍している。(C)Marino Matsushima
「そうでしょう? あのナンバーは踊りというよりは、タイトルの音の一つ一つに意味を持たせて、それを体であらわしているというか、Rという字は胸に手をあててこういうポーズ、Cは(英語のseeにひっかけて)“見る”しぐさ、Aは山に自分がいる、といった具合で、言葉の代わりに身体表現をしている感じなんです」
――ほぼ全員が同じ動きなだけに、間違えたら大変ですね(笑)。
「明らかにわかってしまうので、間違えたら相当恥ずかしいですね(笑)。気が抜けないです。しかも、それをしながらメリーとバートは歌っているし、お芝居もさることながらぶつからないように移動もしなければいけないし、テレコ(互い違い)で動いたり逆をやったりと、もうやることが山ほどあって……。
私、これまで結構いろいろな舞台に出させていただいてきましたけれど、そろそろ舞台稽古という段階に来てまで“うーん”と唸っているのは、初めての経験ですね。いまだに(自分の中でやることが)溢れかえっている感じです」
『メリー・ポピンズ』公開稽古にて。(C)Marino Matsushima
「例えば動きにしても、メリーには“メリー立ち”という基本形があって、例えばかばんを置くとき、足を後ろに下げてかがみながら置いて戻す、といった具合に、一連の動きが決まっているんですよ。メリーに関しては、アドリブの動きはありません。それをふまえた上で(ダンスナンバーにおける)振りを行わなくてはいけないのが難しいんです」
――ちなみに、この「スーパーカリ~」以外にも(動きに関して)ハードなナンバーはありますか?
「ありますね(笑)。一番動くのは「スパカリ」ですけれど。でも観る側にとっては強烈に楽しいと思います。目がとにかく飽きないというか。舞台版は御覧になりましたか?」
『メリー・ポピンズ』公開稽古にて。(C)Marino Matsushima
「私も10数年前にロンドンで観たけれど、感想は同じで、大きな家が上下するのには“あらまあ!”と驚きましたが、それ以外はあまり印象に残りませんでした。でもそれが(後に)ブロードウェイ公演で、がらっと変わったんですよ。
装置的には、子供部屋のセットが上下はしますが、家ごとではないんですね。それよりも、ダンスナンバーが華やかになったり新曲が入ってきたり、ロンドンで観た時のイメージがセピア色だとすると、今回はパステルカラー。ロンドン初演の時はまず格式のようなものが感じられたけれど、今のミュージカル版『メリー・ポピンズ』は、物語が分かりやすく、深くしみるというか、身近に感じられる舞台になっています」
――公開稽古ではもう一曲、「鳥に餌を」も披露されました。ここでは真のお金の使い方を子供たちに教えるため、メリーが小鳥の餌を売るバードウーマンに2ペンスを渡しますが、彼女は超然としたポーズのまま渡しますよね。日本人的な発想では腰をかがめ、明確に優しさを表現するのが一般的ですが、こういった部分にとまどいはありませんでしたか?
「最初はありました。子供たちに対しても、日本人的な感覚で体をかがめて相対すると、(海外スタッフから)“メリーは家庭教師であり乳母であって、友達ではないから、体をかがめることはしないでください”と指摘されるんです。
『メリー・ポピンズ』公開稽古にて。(C)Marino Matsushima
バードウーマンもメリーとは旧知の仲で、子供たちに何かを教えに来ている人物。メリーは子供たちに“(彼女を)指さすのはやめなさい、それにあの人は全然気味悪くなんかありません。外見の奥を見ることをいつになったら覚えるの?”というようなことを言うんですね。チャリティ精神、慈愛というものを体現しているのがバードウーマンであって、彼女に2ペンスを渡すことで、メリーは生きていくうえで大切なことを見せる。子供の目線でしゃべるけど同化はしない。必ず一定の距離を持っているのがメリーという存在なんですね。
『メリー・ポピンズ』公開稽古にて、バードウーマン(鈴木ほのかさん)。(C)Marino Matsushima
――今まで演じたことのないタイプのキャラクターでしょうか。
「全くないですね。人間的になるとメリーではなくなってしまいますから。
人間の感情もわかるし、感じている。ただ、それで動くのではない。いろいろ模索した時期もありましたし、メリーの“居どこ”を見つけるのには時間がかかりましたが、今は、メリーは大人になったジョージの中に“傷ついた子供”の部分、その妻のウィニフレッドの中には“困っている女の子”を見ていて、そうした子供の部分と接している、といったもの(前提)が、私の演じるメリーの中にはあります。大人に対するのと、子供に対するのとで態度を変えるというより、人格に対して接している、というふうに感覚が変わってきて、そうすると居方が変わってきたんですよね。今は、ある意味(その人格と接するという)原始的な感覚が強いのかな、と思っています」
――自称「完璧な人」でもありますよね。
『Mary Poppins』 Photo:Johan Persson
もう一つ、メリーはもともと自惚れが強くて、きれいなもの、いい香りのものも好きということで、ある意味、wミーニングで“ミス・パーフェクト”という言葉を使っているのかもしれません。ただ、日本語の“完璧”と英語の“パーフェクト”のニュアンスはちょっと違っている可能性もあるので、原語の時点で“パーフェクト”はどう定義されていたか、確認したいと思っています。私は海外ミュージカルに出演することが多く、『アイーダ』や『ウィキッド』の時もそうでしたが、疑問が沸くとなるべく原文に立ち返るようにしてきました。“これはこういうふうに訳してあるけど、ほんとはどういうニュアンスなのかな”と確認すると、発見も多いんです」
――会見では、メリーについて、ご自身と似てる部分もあるとおっしゃっていましたね。
「これはうまく言葉にできないのですが、感覚的に匂いが似ているというか、“この人、私に似てる”という、フィットする部分があるんですね。なんとなく似ているし、手の内に入りやすい役だなという感覚があります。
これと対照的だったのが、『メンフィス』のフェリシア役。今でも、ですが、フェリシアにはわからない部分があって、ずっと(主演で、再演では演出も手掛けた)山本耕史さんに“これでいいですか?合ってますか?”と聞いて、ぴったり山本さんに寄り添って演じていました。私の中ではメリーのほうが、次元を超えたところで、心地よい感覚があります」
――ではオーディションを受けられる際にも、メリーという役に対して強い思いをお持ちだったのですか?
『Mary Poppins』 Photo:Johan Persson
――本作の音楽はいかがでしょうか?
「難しいですね、やっぱり。(メロディーは易しく聴こえても)メリーとして歌うとなると、ここは胸声で、とか、メリーとしての音色を出さなくてはいけません。音域でなく、音色の幅を広く使わなくちゃいけなくて、歌詞の音色を要求されるんです。それに子供たちを先導しながらであったり、一連のお芝居の中に歌があるので、普通に(独立したナンバーとして)は歌えません。音程のことを考えていると、“台詞から歌に入るときのギアチェンジをもうちょっとスムーズに”と指摘されます。でも、メロディはやっぱり楽しいしきれいで躍動感もあって、素敵ですね。「鳥に餌を」なども心に染み入ります」
――ディズニー作品らしさは感じますか?
「すごく感じます。とにかくわくわくさせてあげるよ!というのがあふれ出ていますね。(海外スタッフから)ここでこう盛り上げるのがディズニーらしさなんだと言われると、確かにそうだなと頷けます。最後にもう一押し、みたいなものはディズニー的な曲の作り方だなぁと思います」
――今回、メリー役は平原綾香さんとのwキャストです。やることは同じでもかなりカラーは変わりそうでしょうか?
「私とあーや(平原さん)はもともと持ち味が真逆ではありますが、今はまだ(やることが多すぎて)全員が大変な状況で、相手がやっているときに動きや音程をチェックしたりとか、ずれていたら“あそこの立ち位置がこうなっていたよ”と教え合ったりと、お互いフォローしあっている段階です。バート役もたぶんそうだと思いますので、みんなで底上げをしてる最中で、お互いに“こういうメリーだね”と言葉にする余裕がないです(笑)」
――ではそのあたりは本番のお楽しみということで、最後に、今回の『メリー・ポピンズ』はどんな舞台になりそうでしょうか?
『Mary Poppins』 Photo:Johan Persson
また、この舞台では舞台のあちこちで、いろんなキャラクターがそれぞれ魔法を繰り広げています。一度観ただけではわからない部分もあると思いますので、ぜひ何度でもご覧いただけたら嬉しいです!」
*次ページでバート役・大貫勇輔さんインタビューをお送りします!