絵本作家・ミロコマチコさんの作るダイナミックな絵本の世界

ミロコマチコさん写真

おなじみEテレ「コレナンデ商会」で主に歌の絵を担当しています

一度見たら忘れられないほど、圧倒的なエネルギーを持つ生きものたちの絵と、シンプルだけれど印象的なことばでできた、ミロコマチコさんの絵本。ミロコさんの絵本を開くと、においや音・空気までもが、グンと身体の中に入ってくるかのように感じられます。

ミロコさんは、国内外で数多くの絵本賞を受賞している絵本作家ですが、大型作品の制作やライブペインティングも行う画家でもあります。2014年には、伊勢丹クリスマスキャンペーンのメインビジュアルとディスプレイを担当し、大きな話題となりました。

そんなミロコさんに伺ったお話を交えながら、ミロコさんの絵本をご紹介していきます。まずは、最新作『まっくらやみのまっくろ』から、どうぞ!
※この記事の取材は2017年10月にしたものです。記事は日付を更新して再掲載しております
   

変化を恐れずに進みたい『まっくらやみのまっくろ』

ミロコマチコ『まっくらやみのまっくろ』

『まっくらやみのまっくろ』作・絵 ミロコマチコ

何よりも真っ黒で、自分が一体なんだかわからない「まっくろ」。でも、身体の真ん中は熱い。ふつふつ力がみなぎってきて、まっくろは、サイに、ホロホロチョウに、カメにと、爆発的に変化をし始めます。緊張感と気迫に満ちた絵に、ページをめくらずにはいられません。

やがて、穏やかで静かな気持ちになったまっくろは最後にこう問いかけました― 「こんにちは まっくろたち きみたちは なにに なるの?」
『まっくらやみのまっくろ』ラフ表紙

こちらはラフ(下書き)。真っ黒な表紙が、強い印象を残します。カバーと表紙は違うデザインなので、ぜひめくってみてくださいね!

『まっくらやみのまっくろ』は、朝顔のタネから生まれた絵本です。ミロコさん曰く、「タネの中の変化は、外からは見えないけれど、面白いと思って」。

ミロコさんは、絵本の対象年齢を全く意識していないそうですが、この絵本は小さなお子さんだけではなく、中学生や高校生の心にも響いています。

心身に渦巻く、自分でももて余してしまうようなエネルギーと将来に対する不安。「何にでもなれるのに、何にもなれない気がする」と感じていたある高校生は、「ぶくぶくぶー」「ぽかーん」「ぶらららららーん」と変わっていくまっくろに、涙が止まらなかったと言います。

『まっくらやみのまっくろ』の帯のことばは「なんでもないなら なんにでもなろう」。ミロコさんの絵本からはみ出してくるような大きなエネルギーは、読み手の水になり光になるのではないでしょうか。

【書籍データ】
書名 『まっくらやみのまっくろ』
作・絵 ミロコマチコ
出版社 小学館
価格 1512円  

ミロコマチコさんの絵本に共通する「エネルギー」

『まっくらやみのまっくろ』からも分かるように、ミロコさんの絵本は強い生命力に満ちています。ミロコさんご自身にも「強く生きたい」という思いがあるそう。生きていることに集中している、動物や植物といった生きものたち。「生きる上で、何が大切かわかっている」― その強さを描きたいと思って描いているうちに、自分も生きものになっていくのでしょうか。
ミロコさんアトリエ(本棚)

アトリエの棚には、動植物に関する本が数多くあります

「描くことはアウトプットだけのように見えるかもしれないけれど、私の場合はアウトプットしながらインプットしているような気持ちがあります」
循環するエネルギーが、そのまま、絵本に表れているのかもしれません。

それでは、ミロコさんの、躍動感に満ちた絵本を一気に見ていきましょう。
 

におう絵本『けもののにおいがしてきたぞ』

ミロコマチコ『けもののにおいがしてきたぞ』

『けもののにおいがしてきたぞ』作・絵 ミロコマチコ

ここは、けものみち。「びるびるびるびる むるむるむるむる」「むおん むおん ぐねれ ぐねれ」 そんなふうに、この道を通るのは誰?

ページをめくるたびに、虫や、鳥や、獣たちが、目の前を通過してきます。けものみちがあるのは、生い茂る木々やうねるように咲く草花を隔てた、手の届きそうなところ。「トラがこっち見た!」と叫ぶ子どもの声も、自然と小さくなります。

不思議な音、動物たちの息遣い、熱帯雨林を思わせる暑さと湿り気は、息苦しいほど―。

実は、『けもののにおいがしてきたぞ』は、ミロコさんが「本来におわない絵本を、におわせたかった」と挑んだ作品。文字も、今までの絵本では唯一ミロコさんの手描きで、波立つ空気をより強く伝えます。

ある山でミロコさんが実際に嗅いだけもの臭は、カラリとした晴天を、曇りだと感じさせるほどの強さを持っていたとのこと。「においで世界が変わるんだ」と知ったミロコさんが表現するけものみちは、鮮烈なエネルギーと緊張感に満ちています。

ぜひ、声に出して読んでください。けものたちの野生に刺激され、子どもも大人も、身体に力が満ちてきます。

【書籍データ】
書名 『けもののにおいがしてきたぞ』
※ブラティスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ(2017年)金牌受賞作
作・絵 ミロコマチコ
出版社 岩崎書店
価格 1728円  

大地の歌を歌おう『つちたち』

ミロコマチコ『つちたち』

『つちたち』著 ミロコマチコ

「おはよう つちたち」「おはよう おはよう おはよう たいよう」「くろいの ちゃいろいの きんいろの みんな つちたち」

『つちたち』の主役は「土たち」。根っこの周りの湿り気がひんやりと気持ちよくてうっとりしたり、ミミズが横を通るとくすぐったくて笑ったり、恐竜に踏まれると変な形にへこんだりする、その土たちです。

普段あまり気にかけることはないけれど、人間が誕生するずっとずっと前から、地球を覆っている土。『つちたち』の土は、一粒一粒に顔があって、くるくると変わる表情がなんともかわいいのに、恐竜が絶滅しても生き残るほど強いのです。
『つちたち』中ページ

鮮やかな色と勢いのある筆致に、つちたちだけでなく、生きものたちの「はじまり」のエネルギーを感じます

「ざっばざっば どんどこどん ばっさばっさ どんどこどん」おおらかでリズミカルな文章は、まるで古くから伝わる歌のようで、読んでいると、大地のエネルギーを受け取れるような気がします。

【書籍データ】
書名 『つちたち』
著 ミロコマチコ
出版社 学研教育出版
価格 1512円  

こんなお布団で眠りたい!『ぼくのふとんは うみでできている』

『ぼくのふとんはうみでできている』著 ミロコマチコ

『ぼくのふとんは うみでできている』著 ミロコマチコ

「ぼくの ふとんは うみで できている」「なみが ザーン ザーン と おとを たてる」。ねこになり、パンになり、そしてまた海にと、夜ごとに姿を変える「ぼく」の布団。そんな不思議な布団で寝たら、もちろん、不思議なことが起こるに決まっていますよね。

夜になり、夢の中で遊び、朝を迎えるという繰り返しが、実に自由にのびのびと描かれていて、ぼくも動物たちも、たとえピンチであっても、なんだかとても楽しそう。読み終えると、「今日のお布団は何でできているかな?」という会話が自然と生まれます。

もちろん、夢は楽しいものばかりではありません。ソロリソロリと近づいてくるワニに、身をすくめる子もいるかもしれません。でも、大丈夫。希望に満ちた朝の光と、いい匂いのするおいしい朝ご飯が待っているのですから。

「ワニの目って、ネコの目に似ているんです」とミロコさん。思わぬ発見に、ふふっと笑いがこぼれます。

この絵本を読んだ次の日は、朝、パンを食べたくなるので、ご注意ください。

【書籍データ】
書名 『ぼくのふとんは うみでできている』
※第63回小学館児童出版文化賞受賞作
著 ミロコマチコ
出版社 あかね書房
価格 1512円  

どうして絵本作家になったのですか? 再会した絵本が教えてくれたこと

さて、数々の賞を受賞し国内外の評価も高いミロコさんの、絵本作家への道はどこから始まったのでしょうか?

ミロコさんは、小さい頃たくさん読んでいた絵本から、成長するにつれて少しずつ遠ざかるようになりました。けれど、15歳くらいの頃、絵本との再会を果たします。手に取ったのは、長新太さんや片山健さんの絵本。「絵本ってこんなに自由なんだ!」とそれまでは、教訓のある、型にはまったものばかりだと思い込んでいた絵本の可能性に気付いたそうです。

「こんなに大きなものが詰め込めるんだなあと驚きました」 それから、絵本を作りたいと思うようになったそうです。そして、2012年、ミロコさんは『オオカミがとぶひ』で絵本デビューを果たします。
 

今日はどうして風が強いの?  『オオカミがとぶひ』

『オオカミがとぶひ』著 ミロコマチコ

『オオカミがとぶひ』著 ミロコマチコ

「きょうは かぜが つよい びゅうびゅう びょうびょう ふきぬける」「だって オオカミが かけまわっているから」「とおくで カミナリが なっている ゴロゴロ ドンドン なっている ああ そうか ゴリラが むねを たたいているんだ」

「ぼく」の雨の日は、動物たちの気配で満ちています。時間も空間も飛び越えて、どこからともなく現れる動物たち。本棚に読みたい本がないのも、眠れないのも、いつの間にか近くにいる、この動物たちの仕業!?

大判の画面いっぱいに描かれた動物たちは、ダイナミックで迫力がありますが、どこか優雅。やがて、悠々と絵本を抜け出して、子どもたちの元へもやってきます。

雨が降るとチーターの訪れを感じ、夜になると闇の中に大きなクジラがいないかを探す― 『オオカミがとぶひ』を読んだ後、子どもたちが教えてくれるのは、日常のあちこちに潜んでいる動物たちの姿です。

【書籍データ】
書名 『オオカミがとぶひ』
※第18回日本絵本賞大賞受賞作
著 ミロコマチコ
出版社 イースト・プレス
価格 1512円

 

ミロコマチコさんと猫たち

空前のネコブームに、愛猫家として知られるミロコさん。笑ったり思わずホロリ涙をこぼしたりしてしまう『ねこまみれ帳』が知られていますが、猫好きの皆さんに愛される、けれど、猫が特段好きでない方にも読んでいただきたい絵本があります。
   

大好きな猫、大好きな人がいる、全ての人に届けたい『てつぞうはね』

ミロコマチコ『てつぞうはね』

『てつぞうはね』著 ミロコマチコ

「てつぞうはね わたしのねこ しろくて ふかふかのねこ すわると おにぎりみたい すっごく でっかいおにぎり」

てつぞうは、誰もが恐れる暴れねこですが、そのふるまいは、どれもこれもかわいらしくて面白い。たとえばマットにうんちをしたら、なんとマットを折りたたんでうんちを隠すのです。「てつぞう、やるなー」とニヤニヤしながら続きを読めば、飼い主の「わたし」は叱るどころか「てつぞうはね かしこいんだ」とちょぴり得意げ。ああ、なんて幸せな2人!

どのページからもあふれてくる、わたしからてつぞうへの、てつぞうからわたしへの、深い深い愛情。その分、てつぞうとの別れには、胸を突かれます。
鉄三

こうして見てもふかふかのてつぞう

そして、ソトとボウとの出会い。新しい猫たちとの生活のそこここに、てつぞうの気配が満ちています。「寂しいけどかわいいね」と、まだ死を経験したことのない子どもでも、静かに穏やかに絵本を見つめます。
ボウ

こちらボウちゃん。アトリエのあちこちにかわいらしい足跡がありました。

ミロコさんが「泣きながら、向き合いながら、かみしめて描きました」という『てつぞうはね』。生きものと暮らしている人はもちろん、誰にでも「私のてつぞう」は存在するのではないかと思います。流れる涙は、流した人をきっとあたためてくれるでしょう。

【書籍データ】
書名 『てつぞうはね』
※第45回講談社出版文化賞絵本賞受賞作
著 ミロコマチコ
出版社 ブロンズ新社
価格 1512円

 

めまいがするほどのエネルギーに身をゆだねて『オレときいろ』

ミロコマチコ『オレときいろ』

『オレときいろ』作 ミロコマチコ

猫のオレの元に、突然やってきた、きいろ。つかまえようとしているのに、逃げたり、騒いだり、ぐんぐん生えたりする。必死できいろを追いかけるオレ。さあ、つかまえられるかな?

きいろの出現に戸惑いながらも、強く惹きつけられるオレは、表情豊かで愛らしく、きいろの渦は、ページの間からこぼれてきそうなほど明るくてパワフル。

天井や壁に描くような大きな絵が印象的なミロコさんですが、絵本の絵を描くときは「気持ちまで縮こまらないように」気を付けているとのこと。特にこの『オレときいろ』は、なんと踊りながら描いたそうです。

幼稚園の子どもはオレと一緒に駆け回り、大学生の女の子は「これは、恋だ」と興奮し、お母さんはきいろの訪れを待っている― それぞれの楽しみ方はあるけれど、黄色で満たされた黒い木に寝転び、「きいろと なかよく やっている」オレに、よかったね、と言いたくなります。

【書籍データ】
書名 『オレときいろ』
※ブラティスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ(2015年)金のりんご賞受賞作
作 ミロコマチコ
出版社 WAVE出版
価格 1620円

■鉄三が絵本になるまでと、ミロコさんと愛猫たちの暮らしについてのインタビュー
→ ilove.cat 「絵本作家・ミロコマチコ × ソト&ボウ — 命は繋がっていく」

■ミロコさんと猫たちの暮らしを描いたマンガ→ ミロコまんが

 

ミロコマチコさんに聞く、ミロコ絵本の楽しみ方とこれから

「自由に想像して、世界を広げていってくれたらうれしい」

親子でどんなふうに絵本を楽しんでほしいかという質問に、ミロコさんは、こんなふうに答えてくれました。読み手が想像できるように、ことばはなるべくシンプルにすることを心がけているそうです。

絵本を開くと、大きなエネルギーや熱や音が、あふれ出してきて、いつの間にか絵本の世界に連れていかれてしまう― そんなミロコさんの絵本。

けれど、ミロコさんはこう続けます。「絵本には、もっとすごい可能性があって、もっと何かできるはずなんです。それを探したいと思っています」― もっと絵本と戯れたいのだと笑顔になるミロコさんの、これからの絵本、ますます楽しみですね。 

ミロコさんの個展情報は、オフィシャルウェブサイトやTwitterをご覧ください。
→ オフィシャルウェブサイト
→ Twitter

 

ミロコマチコさん雑貨情報

ほぼ日ティーテーブル

伊勢丹にいたウサギ氏上方に飾られているのは、ミロコさんデザイン「ほぼ日のティーテーブル(アルマジロ)」

文房具やファッション小物など、様々な雑貨が出ています(残念ながら、現在までミロコさんが携わった雑貨を一覧できる媒体はないそうです)。限定販売のものも多いので、こまめなチェックをおすすめします。
 

※この記事の取材は2017年10月にしたものです。記事は日付を更新して再掲載しております



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