2015年に上演されて話題となった「スーパー歌舞伎II ワンピース」の再演が始まりました! 歌舞伎ガイドが「スーパー歌舞伎II ワンピース」の観劇レポートをお送りします。

漫画から生まれた歌舞伎「ワンピース」

コミックス発行部数3億6000万部を誇る尾田栄一郎原作『ONE PIECE』は、海賊王を目指す麦わらのルフィが、仲間たちと「ワンピース」という秘宝を求めて世界の海を冒険していく物語です。

歌舞伎での初演は2015年10月で新橋演舞場にて。その後大阪、博多と公演は続き20万人を動員し、大成功のうちに幕を閉じました。原作の面白さはもちろん、そこにスーパー歌舞伎の技術、演出、歌舞伎役者の実力の高さが結集して、全世代向けエンタテインメントとして評価されたのです。

初回のスーパー歌舞伎IIワンピース観劇レポートはこちら
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新橋演舞場にワンピースが帰ってきた!

「初演より再演がむずかしい。再演されるような新作を作りなさい」というのは二代目市川猿翁の四代目猿之助への言葉。再演は、観客の共感や支持がなければできないものだからです。それだけ支持を受け、待ち望まれ、2017年10月6日に再演の幕が明けた「スーパー歌舞伎II ワンピース」。しかし、幕開け3日目の10月9日に誰もが思っても見ない展開が待っていました。

猿之助の大怪我により、右近ルフィ誕生

主演の市川猿之助が、カーテンコールで「せり」にのって床下へ降りる際に衣裳が機材に巻き込まれ、左腕を3箇所骨折する大怪我を負い、翌日から降板となったのです。

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入院中の猿之助からの手紙には観客への思いが綴られている


代役となったのは、若きホープの尾上右近。もともと今回は、若手中心の「麦わらの挑戦」という座組が予定されていました。これは、猿之助が「『ワンピース』が、未来永劫続く名作・古典となるように」という思いを込めて今回から企画したもの。尾上右近はルフィ役とハンコック役として、既に前日の8日に一度演じていましたからスムーズに代役を演じることができました。

とはいえ、若手の挑戦としての立場のはずが、全回主役としての重責を担うこととなったのですからそのプレッシャーたるやいかばかりか。しかし、若さ全開手加減なしの全力投球は、右近でなければできないオリジナルなルフィを作り上げていました。奇しくもルフィ後継者第1号として、尾上右近は大いに名声を上げることとなったのです。

さて、2年前の公演初期には、観客は私も含め、おとなしく(というか呆気にとられてと言ったほうがいいかもしれません)観ていたような気がします。千秋楽の博多で全員総立ちとなったと聞き、「へえ~!」と思った覚えがあります。

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初回ワンピースのパンフレット(左)と今回のパンフレット

かくして、今回。観客は私含めて、より「ワンピース歌舞伎」を楽しむことを知ったよう。もちろん演出、舞台装置、役者すべてにおいて進化しているのですが、何よりそこに乗っかり、いっしょに盛り上がる観客のパワーも増しているというような印象を受けました。

ワンピース歌舞伎の魅力はたくさんありますが、そのポイントを無理やり3つにまとめてみました。

その1.観客との一体感がけたはずれ

照明やプロジェクションマッピングを効果的に使って、舞台だけではなく、観客席の壁にまで映像が映し出されます。

その結果、観客はあるときは崩れ落ちる城壁の中に白ひげ海賊団とともに残され、震えおののきます。あるときは、白ひげ海賊団を救うために現れた大海賊船団を麦わらの一味とともに迎えることができ、安堵のため息をつきます。あるときは傷心のルフィとジンベイともに満天の星空を眺め、未来に希望を感じることができました。

また、2幕8場で、斜め宙乗りで観客を見下ろしてマリンフォードに向かうルフィを盛り上げるのが、前回にはなかったファーファータイム。観客は特別タンバリンを叩き、総立ちでルフィにエールを送ります。新橋演舞場の壁には波がどんぶらこと打ち寄せ、宙にはルフィだけではなく、なんと鯨まで悠然と飛ぶのです。

宙乗りルフィは、毎回1階席の観客のひとりをピッと指差し、シュッとタンバリンを観客にパスする。ドッと盛り上がる。さらに懐に手を入れドヤ顔を決めて、もう一つのタンバリンを出す。

「おお!」。場内は笑顔笑顔笑顔の満艦飾です。ニューカマーランドのオカマちゃんたちがずらりと出てきて観客席に入り、各々タンバリンを交換し合うのもまた恒例となりました。

ファーファータイムは、ワンピースの主題歌を作ったゆずのコンサートで、ゆずが観客と一体となっている様子を猿之助がみて、取り入れたそうです。

ゆずの北川悠仁が猿之助に「なにかやっちゃいけないことはありますか?」と聞いて「やっちゃいけないことは全部やっちゃってください。ははっ!」と笑う猿之助がテレビに映し出されていましたが(2年前の様子です)、まさに型破りの猿之助です。もちろん基本の「型」がしっかりあっての「型破り」なのは言うまでもありません。

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ワンピースグッズもいっぱい

その2.最先端の技術と演出を、「歌舞伎」の底力が支える

さて、もう一つのポイントは、やはり最先端の技術と演出を支える「歌舞伎」という底力でしょうか。

「ワンピース歌舞伎」というとどうしてもプロジェクションマッピングやバルーン、本水といった派手な演出に目が行きがちですが、その唯一無二の素晴らしさは、やはり歌舞伎という「土台」があってこそだと筆者は思います。
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第2幕の本水のあと、後始末をするスタッフたち

・名乗り
麦わらの一味が一人ずつ名乗りをあげるところは、なぜあんなに格好がいいのでしょう。

歌舞伎では、ズラリと並んで一言ずつ自己紹介を述べる「名乗り」があります。特に有名なのは白波五人男です。五七五の調子のいいセリフを言って見得を切れば「●●や」と声がかかります。ああいう場面でゾクゾクしてしまうのは、日本人としてのDNAの成せる技なのかもしれません。

・見得
歌舞伎俳優が体幹強くしっかりした腰でどっしりと身構え、決まるポーズの格好良さはどうでしょう。ふらつかないのは日頃の鍛錬のたまもの。ロロノア・ゾロ、ボン・クレー、スクアードの三役をこなした坂東巳之助は
「ボン・クレーのオカマ拳法はバレエを新しく勉強するのではなく、歌舞伎と日本舞踊をやってきた自分の経験値の中でどう表現するのかということが重要でした。だから初演後は古典への舞台への向き合い方がより充実したと思います」(パンフレットより引用)

と述べています。ボン・クレーのあのエキセントリックな動きも歌舞伎あってなのです。

・飛び六法
ボン・クレーがルフィを守るためにインペルダウンに残り、敵と戦いながら花道に引っ込むところがなぜあんなに格好がいいのでしょうか。あの引っ込み方は「飛び六法」といって歌舞伎の勇壮な荒事で使われる伝統的な引っ込み方なのです。

・早替わり
おどろくほど早い早替わり、ルフィとハンコックの早替わりは、いつ何があってどうなっているのでしょう。早替わりという演出方法は、もともと歌舞伎の世界にあるのです。それにしても早いですね……。

白ひげがどうしてあんなに格好いいのでしょうか。それは
”歌舞伎のありとあらゆるイメージを古典から引っ張りだしている”(パンフレットより市川右團次)
からです。ヤリを何本も受けて立ち往生するさまは弁慶であり、海賊として戦い死んでいく平知盛であり、衣裳、長刀、戦い方、死に様など、さまざまな歌舞伎の世界の登場人物からヒントを得て、作られています。それは白ひげばかりではありません。

このように、ワンピースはしっかりとした歌舞伎の約束やその基本に忠実な動きをする役者があって、はじめて成り立っています。宙乗りも飛び六法も、さまざまな歌舞伎の演目で見ることができますので、ぜひほかの歌舞伎も見てくださいね。

こういった歌舞伎の素晴らしさを「もっと現代語で」「もっと派手に」「もっと観客を感動させて」と追求したのが、猿翁の「スーパー歌舞伎」であり、その発展系が猿之助の「スーパー歌舞伎II」なのです。

その3.新メンバーがハツラツとして要所を締める

今回、新たに入ったメンバーがいます。それは、ナミとサディーちゃん役の坂東新悟と、チョッパー役の市川右近クンです(尾上右近とは別)。父親は白ひげを演じる市川右團次。

小学校1年生の右近のチョッパー役はかわいくて、「ルフィ。体が冷たいよ。お肉食べて。あつく燃えて」というセリフのときには、花道近くの女性陣がみな「ウンウン、ウンウン、かわいい」とハンカチ片手にうなずくのが遠い席からもはっきりと見えました(笑)。

そして、特筆すべきは坂東新悟。首の傾け方やスタイルの良さは漫画の世界から抜け出たのでは?と思うほど。魅力的なナミとサディーちゃんをみせてくれました。この他炎のアクロバット隊も4人から6人となり、ますますその迫力を増していました。

また、マルコは、「もっと活躍させて」というファンの要望が多く、猿之助がマルコ登場の宙乗りシーンも合わせて出番を増やしたそうです。

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2幕が終わったあとは興奮さめやらず。それでもまだまだ終わらない
 

原作ファン、アニメファン、歌舞伎ファンの化学反応が起こるとき

さて、興奮の終演後、観客の皆さんに話を聞いてみました。

「ワンピースアニメが大好きです。歌舞伎ははじめてで、なにを着ていこうかなと思うくらいでした(笑)。迫力が想像以上でびっくり! 笑いどころもいっぱいで楽しかったです。ロロノア・ゾロ、ボン・クレー、マーシャル・D・ティーチがアニメのキャラに、声や雰囲気が似ていました! いろいろアレンジしているけれど、やっぱりここぞ!というところのセリフは原作通りでうれしかったです」(2階席にて。20代女性)

「家族と来ました。マジで予想を超えてやばかったです。原作は40巻くらいまでしか読んでいなかったけれど、頂上決戦を読まなくっちゃと思いました。歌舞伎俳優ってすごいですね」(2階席にて。20代男性)

「3年程前に歌舞伎を見てから、右近さんのファンです。今回のワンピースも5回目。最初のBGMとシャンクスとルフィのシルエットを見るだけで、猿之助さんと右近さんにダブって涙が出ちゃって!右近さん、頑張って欲しいです」(3階席にて。20代女性)

「目を凝らして見ていたけれど、シャンクスとルフィの早替わりはいつ替わったのかしら。全くわかりませんでした。あのすごさって外国人の方にはわからないですよね。誰かちゃんと説明しているのかしら」(ロビー近くにて。50代女性)

「白ひげがかっこよかったなあ」
「原作では、白ひげ海賊団、めっちゃ弱いのにね。全然ダメージ与えられなくてフルボッコにされちゃうの」
「そうなんだ~」(出口付近にて。30代女性おふたり)

通常の歌舞伎より、小さい子連れの家族や、男性客が多いのもうれしいこと。原作を知る人は饒舌に麦わらの一味について語り、歌舞伎を知る人はワンピースに見る歌舞伎らしさを教え、そこかしこで多くの会話が生まれていました。

もちろん歌舞伎ガイドとしては、これをきっかけに歌舞伎を見る人が増えることを望んでやみません。

明日への希望を感じるワンピース

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ルフィを見ると元気が出る人も多いのでは


ワンピースをみて、感じることは人それぞれ。

毎日を無為に過ごしている人には「150%の力をだしてみて。きっと得られるものは大きいよ」と教えてくれるでしょう。いわれのない差別や生きにくさを感じている人は「男も女でも関係ない。自由に生きることが大切。なれたい自分になればいい」というメッセージを感じるでしょう。照れくさいながら「やっぱり友情っていいよな」と再確認した人もいるかもしれませんね。

それぞれの思いを胸に秘めて、いっしょに冒険の旅に出ていきましょう!
「夜明けが来たら、新たな日々の始まりだ!」
イエイ♪

なお、10月の千秋楽のカーテンコールでは、サプライズで元気な姿を見せた猿之助。本格復帰はまだ未定とのことですが、11月以降はいつから猿之助ルフィになるのかも含め、今回のワンピース歌舞伎からも目が離せそうもありません。

<スーパー歌舞伎II ワンピース>
上演:新橋演舞場
期間:2017年10月6日(金)~11月25日(土)
チケット代:3000円~17500円 麦わらの挑戦2500円~15500円
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順次大阪松竹座・博多座で上演予定




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