漢方・漢方薬

漢方で解く病気の原因……外因・内因・不内外因とは

【漢方専門薬局の薬剤師が解説】漢方において人間は気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)・精(せい)から構成されていると考えます。これらの要素のバランスが崩れたとき、人間は病気になってしまいます。健康を蝕(むしば)むバランスの崩れをもたらす、外因・内因・不内外因について解説します。

吉田 健吾

執筆者:吉田 健吾

薬剤師 / 薬・漢方・医療ニュースガイド

気・血・津液・精の充実が健康をもたらす

元気

元気に過ごすことができるのは気・血・津液・精が充実している証拠でもあります

皆さんがご自身の健康を意識するのはどのようなときでしょうか? 元気にスポーツを楽しんでいるときや、精力的に仕事をこなしているときに意識する方もいるでしょう。その一方で多くの方は病気や体調不良に陥ってしまったときに健康の大切さを実感するのではないでしょうか。

本記事では漢方の視点から、なぜ人間は病気になってしまうのかを解説していきます。まず、病気を知る前に健康についておさらいしてみましょう。前回の記事「気・血・津液・精とは……漢方的な健康の考え方」では、漢方の視点から健康とは何かを解説しました。

漢方の世界観において人間は気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)・精(せい)という要素から構成されていると考えます。ここで簡単に気・血・津液・精のはたらきをおさらいすると……

  • 気……イメージとしては「生命エネルギー」であり、身体を活発に動かしたり、温めたり、抵抗力の源にもなります。
  • 血……身体を栄養する他に精神状態を安定化します。血が充実するとしっかり意識が保たれ、良い睡眠がとれます。
  • 津液……身体に潤いを与えます。気の熱性が過剰にならないように血などと協力して適度に身体をクールダウンする作用もあります。
  • 精……成長や発育、そして生殖活動を行うために必要とされます。精からは気や血も生まれ、「生命エネルギーの結晶」と呼べる存在です。
気・血・津液・精のはたらきは、簡単に解説すると上記の通りです。そして、気・血・津液・精が十分に備わって、身体の中をスムーズに巡っている状態を、漢方では健康な状態と考えます。

病気の原因は気・血・津液・精のバランスの崩れ

では、漢方において病気の状態とはどのような状態なのでしょうか。主に慢性病のケースで考えると、気・血・津液・精の量的・質的なバランスが崩れた状態といえます。よりわかりやすく表現すると、気・血・津液・精の不足や滞った状態が病気の状態といえます。

天秤

病気とは気・血・津液・精の適切なバランスが崩れている状態

ここで具体例を挙げてみたいと思います。身体を栄養する血は冷えや精神的ストレスなどによって流れが悪くなりやすい性質があります。このような血がしっかりと巡らない状態をオケツと呼びます。くわえて、長引く大病や出血を起こすと血が不足して血虚(けっきょ)に陥ってしまいます。

前者のオケツは血における質的なトラブルであり、後者の血虚は量的な問題となります。このように漢方の描く病気のイメージはシンプルであり、気・血・津液・精の適切なバランスの崩壊によって病気に陥ってしまうと考えます。なお、完全にバランスは崩れていないけれど、崩壊に近づいているグレーゾーンを未病(みびょう)と呼びます。

上記のような病気像はバランス感覚や「和を以て貴(とうと)しとなす」の精神を大切にする日本人の感性で理解しやすいのではないでしょうか。

下記ではより具体的にどのような要素が気・血・津液・精のバランスを崩してしまうのか、病気を引き起こす原因について解説したいと思います。キーワードは外因(がいいん)内因(ないいん)、そして、不内外因(ふないがいいん)です。

病気の原因となる「外因(がいいん)」とは

外因とは身体の外側の環境からもたらされるマイナス要因と言えます。主には身体にダメージを与えるような気候を指します。このように書くとなんだか難しそうですね。外因の具体例としては身体にとって負担となる過度な暑さ、寒さ、乾燥、湿気などが含まれます。

より厳密には暑邪(しょじゃ)・火邪(かじゃ)・寒邪(かんじゃ)・湿邪(しつじゃ)・燥邪(そうじゃ)・風邪(ふうじゃ)に分けられ、総称して六淫(りくいん)の邪と呼ばれます。

寒邪

寒邪は気血の流れをせき止めて、頑固な痛みやしびれを起こすこともある

例えば秋から冬になると全国でカゼが流行りだしますね。寒気が強くて身体がブルブルし、水っぽい鼻水やクシャミが出るようなカゼは身体に寒邪(かんじゃ)という病邪(びょうじゃ)が外から侵入してきた結果と考えます。ちなみにこのようなケースには身体を温めて寒邪を追い出す作用がある葛根湯(かっこんとう)が有効です。

ここまでくると皆さんも直感的に外因と季節には密接な関係があることがわかるかと思います。一方で私の営む漢方薬局には真夏でも寒邪(かんじゃ)の悪影響を受けてしまったと考えられる方が多くいらっしゃいます。

その原因は多くの場合、過剰なクーラーの使用や冷え切った清涼飲料水などの摂り過ぎです。このようなケースに陥るのは気が不足がちで体力があまりなく、細身の女性に多い印象です。

気が不足している方は病邪に対する抵抗力が低下しています。くわえて、気の身体を温めるはたらきも弱くなっているので季節に関係なく身体の冷やし過ぎは寒邪の格好のターゲットになってしまいます。

このような方には気を補う力に優れている補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や、身体を内側から温める人参湯(にんじんとう)などが有効です。

西洋医学の誕生によってカゼやさまざまな感染症を引き起こすのはウイルスや細菌が原因であるとわかりました。一方の古代中国人は症状の現れ方によって異なる外因が存在すると考えたといえます。

病気の原因となる「内因(ないいん)」とは

内因には先天的な虚弱体質や精神的なストレスによって生じる心身の変調が含まれます。精神的ストレスには怒り、過度な喜び、思い悩み、悲しみ、恐怖などが含まれます。厳密には怒・喜・思・悲・憂・恐・驚に分けられ、これらは内傷七情(ないしょうしちじょう)と呼ばれます。

憂うつ

サービス業など精神的なストレスが強い仕事は内因による体調不良につながる

仕事や家庭などでトラブルが続き、深く悩んでいるときはあまり食が進まないという経験はありませんか?これは積み重なった思い悩みによって脾(「ひ」と呼び消化器全般を指します)のはたらきが悪くなった結果です。

精神的ストレスは現代社会において避けて通ることはとても困難です。したがって、どのような体調不良にも内因が関係している可能性を疑う必要があります。

病気の原因となる「不内外因(ふないがいいん)」とは

不内外因には外傷、食べ物や毒物による中毒、暴飲暴食、喫煙、過労、環境汚染による悪影響などが含まれます。大昔に比べれば衛生環境の改善は進みましたが、長時間労働や運動不足といった積み残しになっている不内外因は少なくないことがわかります。

なお、文献によっては不内外因を排して上記の病因を外因や内因に再分類しているものもあります。本記事ではあえて理解促進のために不内外因を設定して解説しました。

漢方における病因のまとめ

前回の記事では漢方の視点から健康の姿を解説し、今回は病気とはいかなる状態なのか、そしてどのような原因で病気となってしまうかを解説しました。六淫の邪や内傷七情など聞きなれない言葉もたくさん登場しました。

一方で耐えるのが難しいほどの気候変化や精神的ストレスが病気に繋がるという点は無理なく受け入れられるでしょう。漢方において人間もまた宇宙を構成する一要素であり、常に自然環境の影響を受ける存在と考えます。

「宇宙」や「自然」という言葉を持ち出すと、日常生活とは切り離された遠い世界のように考えてしまいがちです。しかしながら、今日の気温や湿度、天気、住んでいる自宅や職場の環境、食事の内容、さらには人間同士の繋がりといった営みもまた宇宙の一部です。

日々、忙しく過ごしていると自分の体調や環境の変化に鈍くなりがちです。そのような時は手の届く範囲の日常生活がいかに健康(と病気……)に関係しているかを意識して頂ければと思います。
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