漢方における健康の定義とは

健康

漢方において健康には気・血・津液・精の充実が欠かせない

突然ですが、皆さんは「健康の定義を教えてください」と聞かれたらどう回答しますか? 「健康診断で特に何も言われなかったら健康」「毎日、元気にランニングがこなせたら健康」「おいしく食事が摂れて、しっかり寝れていれば健康」などなど、十人十色の健康像があると思います。

ちなみに著名な辞書の広辞苑で「健康」を引いてみると「身体に悪いところがなく心身が健やかなこと」となっていました。身体だけではなく、しっかりと心の状態にも気を配った隙の無い定義になっていますね。

漢方の世界において健康とは「気(き)・血(けつ)・津液(しんえき)・精(せい)が質的にも量的にも充実している状態」と考えます。一方でこれではやや堅苦しいので、より簡単に表現すれば「気・血・津液・精がたくさんあって、身体の中をスムーズに巡っている状態」といえます。

ここで登場した気・血・津液・精は漢方において身体を構成する最も基礎的な物質であり、健康を支えるものです。本記事では気・血・津液・精のはたらきを中心に解説していきます。

「気」は生命エネルギー

「あの人はいつも元気だ」「今日は気力が出ない」といったように、日常生活のなかでもしばしば登場する「気」という言葉。皆さんが想像する気のイメージは、漠然とした生命エネルギーのようなものではないでしょうか。
気

中国の哲学である陰陽論では気は活動的な「陽」、血と津液は静的な「陰」に属する


この「気=生命エネルギー」という発想は漢方においても同じです。一方で漢方ではより細かく気の作用を規定しています。具体的には、気が満ちていれば身体は活発にはたらき、カゼなどにもかかりにくくなります。漢方では主に下記のようなはたらきを気は担っていると考えます。

  • 身体を活性化したり、血や津液を身体中に巡らす作用
  • 身体を温める作用
  • カゼに代表される感染症から身を守る作用
  • 血や津液などを身体内にしっかりと保持する作用

気が豊富にあると下記で登場する血や津液がスムーズに身体の中を巡っていきます。したがって、血や津液がしっかりと機能するためにも気は欠かせない存在といえます。

私の営んでいる一二三堂薬局にはしばしば「朝起きたばかりなのに身体が重だるい……。1年に何回もカゼや膀胱炎にかかってしまう」という方がいらっしゃいます。このような方は多くの場合、冷え性(冷え症)や胃腸虚弱も伴っています。そしてこれは典型的な気の不足した状態といえます。

「血」は身体を栄養し、精神を安定化する

血のイメージも皆さんが想像されるものとほぼ同じだと思います。血は身体を栄養することで健康を維持します。この点は西洋医学における「血液」の作用と漢方の「血(けつ)」の作用はよく似ています。

血は全身を栄養しますが、特に眼・髪・爪・肌・月経の良好な状態維持に関係しています。女性が気にしやすいポイントが多く含まれているので、血の充実と美容には密接な関係があるといえますね。

血

血は身体を栄養する以外に、メンタル面の充実にも強く関係している

血のもうひとつの大切なはたらきに精神状態を安定化させるというものがあります。この点は西洋医学的な血液と大きく異なりますね。血が充実することでしっかりと意識が保たれ、良質な睡眠がとれるようになります。

津液は身体に潤いをもたらす

津液

津液が不足してしまうとドライアイやドライマウスといった乾燥を伴う病気の原因になることもある

気や血と違って日常生活で聞くことのない津液(しんえき)。津液には身体に潤いをもたらす作用があり、しばしば「水(すい)」とも呼ばれます。イメージとしては身体の中に存在する血以外の水分となります。

津液が存在するおかげで肌、眼、口の中などはみずみずしい状態が維持されます。他にも津液は血と協力して適度に身体をクールダウンさせるはたらきも担っています。これは気の身体を温める作用に適度なブレーキをかけているといえます。

精は身体に宿る「資源」

精

人間は精を消費することで成長・発達し、子孫を繋いでいきます

精もまた津液と同じように直感的な想像が付きにくい存在かもしれません。精からは気や血が生み出され、生命活動の基礎を固めます。さらに精を消費することで人間は成長・発達し、さらには生殖活動が営まれます。

気や血を現代社会に必須の「電気」と例えれば、精は電気を生み出す「石油」や「石炭」といった資源のようなイメージかもしれません。

漢方薬は気・血・津液・精の乱れた状態を戻すもの

ここまでざっと、漢方における身体を構成する4つの物質を解説してきました。上記で挙げた気・血・津液・精が充実していれば、人間は健康な状態が保たれるのです。換言すれば、何らかの原因で不足が生じたり、身体の中をうまく巡らず滞ったりすると「病気」になってしまうのです。

そしてここで登場するのが漢方薬です。漢方薬は主に気・血・津液・精の不足を補ったり、スムーズに巡るよう手助けすることで病気の状態から健康な状態へ導くのです。

以前、当薬局にご相談に来られた方から「失礼ですが、本当に気なんてモノがあると思っていらっしゃるんですか?」という、とてもパンチの効いたご質問を受けたことがあります。

非常に答え難いご質問でしたが、少なくとも気・血・津液・精といった存在が「ある」と考え、それに基づいた理論で漢方薬を服用すれば実際に効果も「ある」わけです。自分としてはそれだけで気や血の存在意義はあるかと感じています。

未病(みびょう)とは……健康でも病気でもないグレーゾーン

上記では漢方における健康と病気について解説してきました。これにくわえて完全に病気ではないけれど、気や血の不足や滞りなどが進み、健康体から病気の状態に近づいている状態を未病(みびょう)といいます。
未病

長時間労働が常態化している現代において、多くの人が未病の状態に陥っています


具体的には体調がすぐれないのに病院の検査で異常は発見されず、特になにも病名が付かないようなケースといえます。当薬局でしばしば遭遇するのが慢性的な疲労感や気力の低下であり、これらは典型的な未病の例といえます。疲労感などに有効な漢方薬については「4タイプ別!疲労回復に効果的な漢方薬の選び方」をご参照ください。

本記事のまとめ

本記事では漢方の視点から「健康」について解説してきました。心身を良い状態に保つには気・血・津液・精の充実が鍵となります。一方で長時間労働や食生活の乱れで現代人はこれらのバランスが崩れがちで、知らず知らずのうちに未病の状態に陥っている方も少なくありません。

漠然とした体調不良に悩まされている方はまず、睡眠時間の確保や日頃から軽運動を行うなどの生活スタイルの見直しが第一となります。それでも「まだ体調がイマイチ……」という方は漢方薬の使用もご検討して頂ければ幸いです。

くわえて、「漢方で解く病気の原因……外因・内因・不内外因とは」の記事では健康を脅かす原因について、よりくわしく漢方の視点から解説しています。あわせてご参照ください。
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