映画『月と雷』の高良健吾さんに直撃インタビュー
ドラマ「ごくせん」で俳優デビュー以来、数々の映画やドラマに出演してきた高良健吾さん。2005年のデビューから毎年出演作があり、主演・助演両方で大活躍、キャリアを重ねてきました。
最新作『月と雷』では、幼なじみの泰子の元に20年ぶりに現れる智(さとる)という青年の役。いろんな男の家を転々として暮らす母・直子(草刈民代)のもとで育った智は、ずっと地元で地味に暮らしてきた泰子の人生に変化を与えます。そんな智のこと、役者人生のこと、家族のことなど、様々なお話を聞いてきました。
転校生だった自分と智の人生を重ねあわせて
―智の役を演じるにあたって、彼に対してどんな思いで向き合って演じましたか?
高良健吾さん(以下、高良):脚本をいただいたときは、智を演じることが決まっていたので、彼の心に寄り添いながら読みました。彼の行動など理解できないと思うことはありましたが、逆に理解できないからこそ大事にしようと、僕は智を好きになり、味方でいてあげようと思いました。
智は男性の家を転々とする母親とともに暮らし、成長していきますが、あんな生活をしていたわりに素直に育ったと思います。彼は決して悪い男じゃないから、嫌な奴に見えないように演じました。
―母の直子さんと智との関係についてはどうでしょう。高良さん自身のお母様との向き合い方など参考にされましたか?
高良:智にとって母は大きな存在ですが、あまり自分と母親との関係に重ねあわせて考えたりはしなかったです。というか僕は基本的に私生活と役を重ねることは好きではなく、役への共感ありきで役作りはしていません。智に関して言えば、彼は母のことが大好きなんですよ。その気持ちを大切にしました。
ただ、母と一緒にいろいろな土地を転々としていた智の生活については、僕も転校が多かったので、似ているとは感じました。転校が多いと、その場所に合わせる自分を瞬時に演出するというか、少し無理をして合わせようとするのです。
それは自分にとって嫌なことだけれど、その土地で生きていく上では必要なことだったし、幼い頃のそういう経験は自然と身についていくものです。だから、智も転居する先々で、自分をそこに合わせて生きてきたんだろうなと思いました。それが彼の生き方なのだと思います。
普通じゃない生活の中で大切にしたい普通なこと
―この映画で、智は突然、泰子のところに帰ってきて「泰子ちゃんとなら普通の生活が送れると思う」と言いますが、高良さんが考える普通の生活とはどんなものでしょう?
高良:普通の生活……難しいですが、僕が俳優になっていなかったら、きっと20代で結婚して、子供もいて、熊本で生活していたんじゃないかと思います。それが僕の考える普通の生活。
でも10代でこの世界に入ってから、そういう生活とはズレてきて、それが怖いと思ったこともありました。でもそうしないと生きていけない世界だし、芸能界は普通じゃないけれど、僕は普通でいたい。普通じゃない世界だからこそ、普通のことは大切だと思います。
―初音映莉子さんや草刈民代さんとの共演はいかがでしたか?
高良:初音さんとは7年ぶりくらいの共演になりますが、かっこよかったです。女優さんにとってラブシーンはヌードも要求されることもありますから、かなり覚悟や勇気が必要だと思うのですが、この映画の撮影では、初音さんの覚悟が伝わりました。かっこよかったし、僕も智としてしっかり存在したいと強く思いました。
女優・初音映莉子の魅力は、切ない存在感。そこに立っているだけで切なさが伝わってくる、そういう雰囲気を持った女優だと思います。
草刈さんもかっこいい女優です。バレリーナとして、ずっと体で表現することを続けてきた草刈さんが女優として心も表現するようになり、凄い先輩だなと思いました。この映画では初音さんと久々に共演できたこと、草刈さんと出会えたことがとてもうれしかったです。
演技できない自分が悔しくて息苦しかった10代の日々
―10代のときにドラマ「ごくせん」で俳優デビューされて、今年30才になりますが、これまでのキャリアを振り返って、ターニングポイントになった作品や出会いはありますか?
高良:10代のときに出会った作品はすべて印象に残っているし、ターニングポイントと言えます。特別といえば『M』(2007年/廣木隆一監督作)ですが、でも何もわからない10代のときに出演した撮影現場の数々や、この世界の先輩たちからもらった言葉や、教えてもらったことは、全て今の自分を作っていますし、「真剣にやらなくては」と思いながらやってきました。
でも正直、俳優は一生の仕事だと思ってはいませんでした。とにかく悔しかったんです。できない自分が凄く嫌で、悔しさとストレスで息苦しかった。もっと呼吸しやすい場所で生きたいと思ったりしていました。今もときどきそう思うことあります。
悔しさはモチベーションにも繋がりますが、「やめたい」という気持ちの引き金にもなりますから、そのせめぎ合いの中でやっているのかもしれません。
―息苦しいと感じながらも、ここまで続けてこられた。役者の醍醐味は何でしょう。
高良:僕はトーク番組とかに出ても、自分のことをうまく話せないと感じることがあるんです。素の自分を出す恥ずかしさも手伝っていると思うのですが。
でも役者の仕事は、セリフと状況と役を与えられているから素の自分じゃないけれど、演じているときに、自分の中で引っかかっていたことや嫌だなと思っていたことを吐き出せる瞬間があり、そういうときに面白くて不思議な仕事だなと思ったりします。
あと自分の考えをしっかり持った、刺激的な人に出会える喜びもあります。外から見ると普通じゃない世界だと思われるかもしれないけど、真面目に情熱的に仕事に取り組んでいる人が多いし、そういう人と一緒に仕事できることは醍醐味というか喜びですね。
―数多くの作品に出られていますが、作品選びの基準はありますか?
高良:僕は役に共感できないから断るということはありません。10代の頃は「この役は僕じゃない」と思ったりすることはありましたが、今は、出演作品の決め手が変わってきて、脚本を読んで「この1行をどう言うか、どう演じるか懸けてみよう」と思って決めることもあります。基本的に僕にとって、つまらない役というのはないです。自分が苦手な分野だったら「苦手だからやってみよう」と思うこともありますから。
いい映画を見たあとは歩いて帰りたくなる
―オールアバウト映画ガイドなので、高良さんの好きな映画について聞きたいのですが、思い出の映画とか最近見て良かった映画などがあったら教えてください。高良:幼少時代から映画館にはよく行っていました。母は、僕と兄を連れて映画館へ行き、僕らが映画を見ている間に買い物したりしていましたから(笑)。その頃の映画の記憶は、父と兄と3人で見た『ゴジラ』ですね。男の子らしく怪獣シリーズはよく見ていました。
今は話題作だから見るというより、興味のある監督や役者さんが出演しているから見に行ったりします。自分で何かを見つけたり、傷つけられたり、エグられたりする映画に惹かれますね。最近見て良かったのは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016年/ケネス・ロナーガン監督/ケイシー・アフレック主演)。あれは傑作です、エグられる映画でした。
自分から幸せになろうとしない男の人生を、あの映画はちょっとずつ何かを進めていくのです。時間の進め方、人生の進め方が良くて、『月と雷』にも似ています。自分が嫌いな事を受け入れたり、苦手な事を受け入れたりすることで、何かが進むことがあるということを伝えている、人にやさしい映画。そういう映画が好きです。
いい映画を見たあとはなぜか歩いて帰りたくなります。タクシーには乗りたくない。どこまででも歩いて行けそうな気がします(笑)。
――『月と雷』はどんな人に見てほしいですか?
高良:どんな人というより、多くの人に見てほしい。何をどう伝えても、見てもらわないと何もないことと一緒だから。お客さんに見てもらおうという目的で映画は作られているので、とにかく『月と雷』を多くの人に見てほしいです。
高良健吾(こうら・けんご)
1987年11月12日、熊本生まれ。2005年ドラマ「ごくせん」で俳優デビュー。2006年映画『ハリヨの夏』で映画初出演。その後、映画『蛇にピアス』(2008)『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010) 『横道世之介』(2013年)『悼む人』(2015)など出演作多数。ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(2016/フジテレビ)ほか、最新作としてWOWOW連続ドラマW「バイバイ、ブラックバード」が2018年放送予定。
『月と雷』
(2017年10月7日より、テアトル新宿ほか全国ロードショー)
泰子(初音映莉子)が幼い頃、母は出ていき、家には父(村上淳)の愛人の直子(草刈民代)と幼い息子の智が転がり込んできました。しかし、半年で出ていってしまった二人。20年後、泰子のもとに大人になった智(高良健吾)が突然現れます。「一緒に暮らさない?」という彼を泰子は受け入れ、そのときから泰子の人生に変化が訪れるのです。
監督:安藤尋 出演:初音映莉子、高良健吾、草刈民代、藤井武美、黒田大輔、市川由衣/村上淳、木場勝己