『52days~愚陀佛庵、二人の文豪~』(新宿公演)
9月27~28日=新宿文化センター大ホール『52days』
愛媛県に“坊っちゃん劇場”という、発信型のミュージカル劇場があるのをご存知でしょうか。地域の歴史や文化を取り込んだオリジナル作品を発表し、ミュージカル役者の誕生するまちづくりをめざそうと、ジェームス三木さんを名誉館長として設立。これまで三木さんの『坊っちゃん!』、横内謙介さんの『げんない』、高橋知伽江さんの『鶴姫伝説』など、様々な作品が誕生してきました。
昨年10周年を迎え、今年5月で総来場者数80万人を達成した劇場がこの秋、夏目漱石生誕150年を記念して漱石山房記念館がオープンするのに合わせ、初めて東京で公演。正岡子規と夏目漱石が松山で同居していた52日間の騒動を、宝塚歌劇団の石田昌也さんがコミカルに、ハート・ウォーミングに描きます。子規役・岩渕敏司さん、漱石役・藤原大輔さん(愛媛出身、元・劇団四季)らオーディションで選ばれたキャストの熱演もあわせ、地方発の意欲作の登場に期待が集まります。
【観劇ミニ・レポート】
『52days~愚陀佛庵、二人の文豪~』より。写真提供:坊っちゃん劇場
病魔に侵されながらも底抜けに明るいノボサンを時にユーモラスに、時に悲哀を滲ませて演じる岩渕敏司さん、几帳面な金之助を確かな歌唱力で演じる藤原大輔さん(二幕冒頭には劇団時代に演じた『ユタと不思議な仲間たち』を彷彿とさせる切れのあるダンスも披露)、バッティングセンターのオーナーを余裕たっぷりに演じる治田敦さんら、キャストも充実。本作は10月4日から再び本拠地の坊っちゃんで連日上演され、1月下旬には新作『よろこびのうた』(作・羽原大介、演出・錦織一清)にバトンタッチ。四国方面に行く際にはぜひチェックしたい劇場です。
『ソング&ダンス65』
10月5日~11月26日=自由劇場『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
劇団のレパートリーを中心に、ミュージカルの名曲・名場面をたっぷりコラージュ、独自の演出で魅せる人気シリーズ『劇団四季ソング&ダンス』。来年の劇団創立65周年を見据え、加藤敬二さんの構成・演出で最新版が登場します。構想段階では“自由”や“祈り”を共通テーマとして、『リトル・マーメイド』『アンデルセン』『ノートルダムの鐘』『ウィキッド』等の名曲が登場する予定。ふつうの“ミュージカル・コンサート”とは全く違う、作り込んだ演出・振り付けとキャストの渾身パフォーマンスが話題の的。シリーズではお馴染みの楽器あしらいでは、今回はマリンバ演奏に挑戦。出演者内でオーディションの上、選ばれたキャストが真剣にチャレンジする様は、通常の演技とはまた一味違った感動を与えてくれそうです。
【構成・演出 加藤敬二さん共同インタビュー
“何が出て来るかわからない”わくわく感を起点に
皆で作りあげた舞台です】
(読みやすいよう、話の順番を少々入れ替え、まとめています)
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
「来年、劇団創立65周年ということで、10年前の55周年の時には宝箱を開けていろいろな宝石が零れ落ちるようなものをイメージして作りましたが、今回は65年間の足跡、これまでの道と65年からの道をコンセプトに掲げました。
一番意識したのは、なるべくこれまでの『ソング&ダンス』と同じ曲を使わないということ。僕の中で(この曲は使いにくいと考え)“逃げた”ものがあるんですね。それも含めて、クリエイターも増えていることですし、いろんなアイディアを出し合おう、“開けてみなきゃわからない”という姿勢で取り掛かり始めました。
僕もわくわくしてましたし、皆もそうだったと思います。僕が一人でやっているときは、いろんなアイディアは出るとはいえやはり一人で考えることが多いのですが、今回は各スタッフが若い人たちに教えながら、彼らも含めて一緒に同じところを向いて作っていく、それがとても良かったと思います。
(中でも面白かったのが)装置デザインの日下部(豊)君が映像関係もやっていたのですが、一つの振付と演出、照明があるとして、そこに映像が加わるとまた全然違うものが生まれるんです。ただ、映像は使いすぎると映像と生の人間のバランスがとれない。使い方だと思うんですが、このショーを作るうえで映像について彼がいろいろなアイディアを持ってきたのが面白かったですね」
――今回新たに、劇団の3人の俳優さんが振付で参加されていますが、その意図と経緯は?
「これまでずっと(私が)一人で振り付けてきましたが、もっとクリエイターを育てなければいけないと思ったのです。(思い返せば)自分自身、初めて振付をさせてもらったのが『ユタと不思議な仲間たち』で27、28歳の頃。現役でバリバリ踊っている人がどんどんやらないといけないと身をもって実感しておりますので、今回新しい企画で挑戦しようと。(結果的に)思ったよりも個性的で面白いものが出てきて、今後の劇団の財産になっていくと思っています。
『ソング&ダンス 65』より「彼はお前の中に生きている(『ライオンキング』)」(C)Marino Matsushima
例えば、松島勇気君は以前、(2000年、『ソング&ダンス』第二弾の)「オーヴァー・ザ・センチュリー」で「パリのアメリカ人」をお願いしたことがあるのですが、前のナンバーの「アメリカ」(『ウェストサイド物語』)からパリに移ると説明した時に、僕は(アメリカの)ストリート・ダンスからダンスが変わってゆくというつもりでコンセプトを渡したのですが、松島君はそれを全部マイムにしてきたんです。で、それを(次のナンバーである)『壁抜け男』に繋げていった。
それと以前、横浜で『キャッツ』をやったときにも、クリスマスイベントでダンスキャプテンだった彼にカーテンコールをお願いしたことがあるのですが、その時のステージングがとてもドラマチックだったので、彼には今回、ドラマ性のあるナンバーをお願いしました。
『ソング&ダンス 65』より、フラメンコ(C)Marino Matsushima
――これまでとは異なる作り方をするうえで、苦労した部分は?
「正直に言うとですね、僕はこう思うのに、違う方向に行ってしまったということがあって、明らかにこちらのほうがいいと思っても、そこでダメとは言えない。それでどんどん彼らがぬかるみにはまっていくのを見ていて“いつ言おうかなぁ”と一か月半前からずっと思ってて、もう限界かなと思って一昨日変えました(笑)。そういう戦いもありつつ、若い人に冒険もしてもらい、いろんなことがありましたね。そういう意味での作り方の違いはありましたし、時間との勝負もありました。
そういえば今回はいつもの倍の8週間をかけていましたが、(それは決して長くはなく)本作にはそれぐらい必要だったと思います。とても念入りに、5回同じ箇所を直したこともありました。こちらからの提案もあったり、スタッフからの提案もあったり、ああしようこうしようといろんなアイディアがごちゃまぜになって現在に至る。そうしたプロセスは大事なことだと思います」
――劇団四季だから出来るんだぞと思える部分は?
『ソング&ダンス 65』より、『アンデルセン』オーヴァーチュア。壮絶なエピソードとは裏腹に(?!)皆さん実に楽しそう。(C)Marino Matsushima
常識的に考えて無理というものを乗り越える。僕ら、いつも海外作品をやっていると、現地スタッフから必ず驚かれるんですよ。“こういうものが必要だ”となると、翌日必ず用意されている。それはありえない、と。例えば『アラジン』の早替えのシーンはブロードウェイでもすったもんだの大騒ぎでぎりぎりまでやっているそうなんですが、僕らは難なくこなしている。向こうのスタッフはその様子をビデオに撮って、向こうに持って帰って見せるんだと言っていましたね(笑)。開幕に向けて、お客様にいいモノをお見せするということを先輩からずっと叩き込まれてきているので、厳しさと、でもそれが俳優たちの歓びでもあるんです。だからどの作品でもまとまっていくんですね」
――若い俳優さんに言っていることは?
「よく言うのが、背もたれから背中を離して観ている人がいたら、それはその作品が面白いということ。もたれかかっていたら終わりだ、その距離を俳優たちにわかってほしいなと思っています。お客様が時間を気にされるような舞台にはしたくないですから。お客様の様子は、客席が真っ暗でも空気ではっきりわかりますね。少しでも明かりがあれば表情でも伝わりますし。今作はお客様との交流がダイレクトなので、(俳優たちにとっても)学ぶいいチャンスなのではないかと思います」
――キャスティングのポイントは?
「これまでは比較的固定されていたので、今回は若い人を含め、初めての人も、ということを意識しました。例えばフラメンコを踊る多田は『アラジン』の稽古でよく見ていて、彼女だったら面白い表現ができるんじゃないかと思ったんです。「みにくいアヒルの子」を演じている宮澤聖礼(せいら)は『ウェストサイド物語』で全国をまわっている時、ものすごくいいものを持っている、磨けば光ると思ってあえてここに抜擢しました。
『ソング&ダンス』より「リフレクション(『ムーラン』)」久保佳那子(C)Marino Matsushima
(これ以降は筆者・松島が質問)
――今回、新機軸として映像を多用されていますが、ほとんどは抽象的な映像です。その意図は?
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
本当は映像を使えば俳優とのコラボなど、もっともっと面白い演出が可能で、世界中でもそういうものがいっぱい出てきていますが、僕らは映像を(第一に)見せているわけじゃない。ミュージカルから抜粋した曲と、劇団四季ならではのアレンジが消えない程度に使いたい。やっぱりどんなきれいな照明を当てても、生のダンサーに勝つものはないと思うんです。筋肉の筋が見えたほうがよっぽどきれいだと僕は思う。だからなるべく想像が広がる抽象的な映像にしています」
――(ネタバレ要素がありますので、未見の方はご注意ください)具体的な演出についてうかがいますが、『アラジン』「フレンド・ライク・ミー」の最後の演出は、某ランドのエレクトリカル・パレードがヒントになっていたりしますでしょうか?
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima「フレンド~」の該当シーン写真は後日、観劇レポートと共に掲載。かわりにご紹介するこちらの方々、何のお役か当ててみてください。ちなみにジェット団ではありません。答えはこのページ最後で。
――もう一つ、『オペラ座の怪人』の趣向も面白いですね。
「いつもは怪人とクリスティーヌが一対一で歌っていますが、今回は彼女が怪人に包まれているということをいろんなところから声が聞こえることで表現したいと思いました。はじめは“分身の術”みたいに、大勢の怪人が……ということを考えていて、20分くらいのナンバーであればそれも出来たと思うのですが、4分しかないので、ああいう形でやってみました」
【観劇レポート】
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
シンプルな舞台上で女性シンガー(久保佳那子さん)が、「Somewhere」(『ウェストサイド物語』)を美しくも力強く歌う。歌唱が終わると白い敷物とカーテンがさっと捌け、劇団のレパートリーの宣伝ビジュアルが映し出され、「ヴァリエーション23」(『ソング&ダンス』)が流れる中でダンサーが抽象的な映像とともに躍動します。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
劇団きってのダンサー、松島勇気さんによる振付はコンテンポラリー・ダンス色が強く、加藤敬二さんが演出・振り付けを担当していた従来の『ソング&ダンス』シリーズとは一味異なる作品であることが印象付けられます。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
全編を通して今回、顕著だったのが、加藤さんがインタビューで“分身の術”と呼んでいたところの、“複数人一役”による“人間の多面性の表現”です。
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
『ソング&ダンス 65』(C)Marino Matsushima
*インタビュー最後に掲載した写真は『リトルマーメイド』より。西尾健治さんたちは(ジェット団ならぬ)船乗りですね。(簡単すぎたでしょうか?!)
*次頁で『レディ・ベス』をご紹介します!