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知っておきたい、新たな住宅セーフティネット制度の話

「新たな住宅セーフティネット制度」が2017年10月に始まります。住宅の確保が難しい人などを対象にした制度ですが、マイホームを所有している人も無関係ではありません。新たな住宅セーフティネットについて、そのあらましを知っておくようにしましょう。

執筆者:平野 雅之


「新たな住宅セーフティネット制度」と呼ばれる改正法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律)が2017年10月25日に施行される予定です。

家の前に立つ高齢夫婦

人生では何が起きるか分からない。どんなときでも住宅の確保が重要

すでにマイホームを所有している人、あるいはこれから買おうとする人にとって、関係のない話のように感じるかもしれません。

しかし、収入減少や災害によって家を失ったり、配偶者と離婚・死別したり、あるいはDV被害・犯罪被害に遭ったりして、いつ自分自身が「住宅確保要配慮者」になるか分かりません。

また、いまは賃貸経営をしていない人でも、マイホーム以外の住宅を所有して賃貸に出したり、親から住宅を相続したりして、これから住宅セーフティネットにおける提供者側になることも十分に考えられるでしょう。

「新たな住宅セーフティネット制度」とは何なのか、その細かな内容はともかくとして、制度のあらましや政策の方向性については知っておくようにしたいものです。


新たな住宅セーフティネット制度の特長は?

低額所得者、被災者、高齢者、障がい者などの「住宅確保要配慮者」に対する現行の住宅セーフティネット法は、2007年7月に施行されています。この法律では、国による基本方針の策定、国や地方公共団体の責務、居住支援協議会の組織などについて定められていました。

それに対して「住生活基本計画」(2016年3月閣議決定)、「日本再興戦略2016」「一億総活躍プラン」「骨太方針」(以上、2016年6月閣議決定)では、住宅セーフティネット機能の強化や新たな仕組みの構築などが盛り込まれています。

そして、2017年4月に可決・成立し、4月26日に公布されたのが「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律」ですが、民間賃貸住宅や空き家など、既存住宅の活用を打ち出したのが大きな特長だといえるでしょう。

それ以外にも、住宅セーフティネット制度全体で仕組みが見直されています。


住宅確保要配慮者とは?

新たな住宅セーフティネット制度の対象となる「住宅確保要配慮者」とは、法律による規定のほか、国土交通省令による規定、都道府県や市区町村が供給促進計画で定める者などであり、改正前よりも幅広く考えられるようになっています。

【住宅確保要配慮者】
□ 低額所得者(月収が一定水準以下)
□ 被災者(発災後3年以内)・・・法律
□ 大規模災害の被災者(発災後3年以上)・・・省令
□ 高齢者
□ 障がい者
□ 子育て世帯(高校生相当の年齢以下)
□ 外国人等(条約や他の法令で規定する者)
□ 供給促進計画で定める者

都道府県や市区町村が「供給促進計画で定める者」は一律ではありませんが、国の基本方針により、犯罪被害者、DV被害者、失業者、新婚世帯、ホームレス、被生活保護者、中国残留邦人、海外からの引揚者、原爆被爆者、戦傷病者、ハンセン病療養所入所者などが想定されています。


住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の登録・支援制度を創設

従来の制度では、公営住宅や特優賃(特定優良賃貸住宅)、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)などが中心的な役割を果たしていました。それに対して新たな住宅セーフティネット制度では、民間の賃貸住宅などを活用するための登録制度が設けられました。

賃貸人(住宅の所有者など)が都道府県・政令市・中核市に対し、「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅」を登録し、都道府県などがその情報を開示することになります。ただし、不当な内容でないかぎり「入居を認める住宅確保要配慮者」の範囲を限定することは可能です。

なお、登録は集合住宅(マンション、アパートなど)の1戸でも認められますが、いずれの場合でも耐震性能や一定の居住面積、一定の設備(トイレ、キッチン、洗面、浴室など)などの要件を満たすほか、消防法など他の法令にも適合するものでなければなりません。

また、一般的に拒否されることが多い「住宅確保要配慮者」の入居を「拒まない住宅」として登録してもらう代わりに、一定の改修工事に対する補助や融資制度が設けられました。低額所得者が入居する際には、入居時の債務保証料や毎月の家賃などに対する補助などもあります。

さらに、家主の不安を軽減するよう、生活保護受給者による家賃の滞納を防ぐための措置も講じられました。


住宅確保要配慮者に対する居住支援の取り組みも

住宅確保要配慮者が民間賃貸住宅などへ円滑に入居するため、さらに入居後の生活支援をするための仕組みも整えられました。

都道府県や市区町村、不動産関係団体、居住支援団体などが連携して「居住支援協議会」を設立し、さまざまな支援活動をしていくことになります。2017年5月末時点で47都道府県のほかには21市区町しか設立されていませんが、次第に増えていくものと考えられます。

また、今回の改正法によって「居住支援法人」が制度化されています。これは都道府県が指定することにより、入居時の情報提供や相談、家賃債務保証などのほか、入居後の見守りなど生活支援を実施する法人です。


新たな住宅セーフティネット制度で「空き家活用」が進む!?

改正法は、すでにある民間賃貸住宅だけを対象にしているのではありません。空き家となっている一戸建て住宅を活用することも想定し、共同居住型住宅(いわゆるシェアハウス)については特別に登録基準を設けています。

1人の専用居室が9平方メートル以上であること、おおむね5人につき1か所のトイレ、浴室、洗面所があることなどを要件とし、共同居住型住宅に用途変更するための改修工事なども補助の対象になりました。

今後は、空き家だった一戸建て住宅が、高齢者のシェアハウスなどに生まれ変わる事例も少なからず出てくるでしょう。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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