ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

神田沙也加、小さな努力重ねて【気になる新星vol.28】

『アナと雪の女王』のアナ役・吹き替えで全国的な人気を獲得、ミュージカル女優としても快進撃中の神田沙也加さん。今冬、『屋根の上のヴァイオリン弾き』日本上演50周年記念公演に出演する彼女の、凛として安定感抜群の歌声を支えるものとは、そしてそもそも、ミュージカルに興味を抱いたきっかけとは? その過去と現在、未来への思いをたっぷり語っていただきました!*観劇レポートを追記しました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

神田沙也加undefined1986年東京都生まれ。01年CMで芸能界デビューし、翌年歌手デビュー。04年の『INTO THE WOODS』を機に舞台でのキャリアをスタート。近作『1789 ?バスティーユの恋人たち?』(16)『キューティ・ブロンド』(17)は再演が予定されている。『アナと雪の女王』アナ役(14)では第9回声優アワード主演女優賞を受賞。歌手・女優・声優・ナレーションなど、多岐にわたり活躍中。(C)Marino Matsushima

神田沙也加 1986年東京都生まれ。01年CMで芸能界デビューし、翌年歌手デビュー。04年の『INTO THE WOODS』を機に舞台でのキャリアをスタート。近作『1789-バスティーユの恋人たち-』(16)『キューティ・ブロンド』(17)は再演が予定されている。『アナと雪の女王』アナ役(14)では第9回声優アワード主演女優賞を受賞。歌手・女優・声優・ナレーションなど、多岐にわたり活躍中。(C)Marino Matsushima

*最終頁に「屋根の上のヴァイオリン弾き」観劇レポートを追記しました*

20世紀初頭、帝政ロシアの時代に身を寄せ合って生きるテヴィエ一家の絆を描いた、ブロードウェイ・ミュージカルの名作『屋根の上のヴァイオリン弾き』。日本でも1967年に初演以来、不動の人気を誇ってきた本作が、市村正親さん主演で今冬、50周年記念公演を行います。

ユダヤの“しきたり”に従って生きようとする父テヴィエを、それぞれの恋模様で振り回す三人の娘たちのうち、次女ホーデルを演じるのが神田沙也加さん。今春、大当たりをとった『キューティ・ブロンド』のヒロイン役とは全く異なるキャラクターに、どうアプローチしているでしょうか。ミュージカル女優としての“原点”エピソードから、これまで演じた諸役の思い出、今後の夢まで、余すところなく語っていただきました。

――先ほど『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表でお話されていましたが、今回、出演の決め手の一つとなったのが原作だそうですね。原作のどんな点が魅力だったのでしょうか?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』

『屋根の上のヴァイオリン弾き』

「文体ですね。書き出しから、主人公のテヴィエが神様に向けて語り掛けるような独特な文体で、慣れるまでは時間がかかるかもしれないですよ、と演出家の寺崎(山へんに立の崎)(秀臣)さんに言われていたのですが、私は難しいと思ったりということは全然なかったです。モノローグのように進んでいくことによって、一生懸命だけどどこかうまくいかなかったり、(娘の縁談で困ったことが起きたのを)妻にどう話そうかと頭を抱えていたりというテヴィエの人間的な魅力がいっぱい出ていて、市村(正親)さんにぴったりだなと思いましたし、想像が膨らんで楽しかったです」

――演じるお役・次女ホーデルについては、どんな印象を持たれましたか?

「自分の意見をとてもはっきり主張する子で、自分に知識があったり、考えを主張できることに対する誇りも持っている女の子だと感じました。これまでの上演ではホーデルはかわいらしいイメージが強かったようなのですが、今回は(三女)チャヴァ役の唯月ふうかちゃんがかわいらしい方なので、ホーデルは従来よりも芯の強い感じで行った方がバランスがとれるのかなと思いながら読んでいましたね」

――本作は、アナテフカという寒村で細々と暮らすユダヤ人たちの物語です。彼らは劇中、ロシア人たちから理不尽に迫害されており、社会派のハロルド・プリンスがプロデュースを務めたのが頷ける作品でもありますが、今もなお“差別”が世界で横行するなかで、神田さんはいわゆる“マイノリティ(少数派)”の方々に対して、どんな思いをお持ちですか?

「おっしゃる通り、『屋根の上のヴァイオリン弾き』はとても社会派な作品で、ユダヤ人という背景があるからこそ響いてくる台詞であったり、意味を持ってくる伏線もたくさんあります。私の周りでマイノリティというと、例えばLGBTの方たちは、少数派として傷つくことも少なくない分、いい意味で繊細で、心が優しい方が多いと感じます。友達になりたいとも思うし、否定的な気持ちは全く無いです。人種や文化が異なる人たちに対しても、私は興味を持つタイプです」

――多民族国家ではない日本で生活していると、生まれた時から差別を受けているユダヤ人の感覚というのはなかなか掴みづらいかもしれませんが、彼らを演じる手がかりにされているのは?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima

『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima

「今まで観てきた、『アンネの日記』や『椿姫』を原作とした『マルグリット』といった作品をヒントにしています。昨日までは普通に仲良くできていた相手を、ユダヤ人だとわかった途端、急に迫害し始めるというのはどういうことなのだろう、人間の中にどういうメカニズムで“もう嫌だ、受け付けない”という心理が生まれるのだろう、と考えてしまいますね。過去の紛争であったり、宗教の問題が背景にあるのかもしれないけれど、それよりもその人とそれまで過ごしてきた時間に目を向けることはできないのかな、と思ったりもしています」

――ユダヤ人たちは自分たちの身を守るため厳格な“しきたり”の中で生き、テヴィエも5人の娘たちにその価値観を守って良縁に恵まれることを願いますが、長女ツァイテル(実咲凜音さん)、次女ホーデル、三女チャヴァはことごとく、思いがけない相手を選ぶ。いわば本作は、新旧の価値観が衝突する物語でもありますね。

「おとなしい“本の虫”と思われていたチャヴァが(駆け落ちという)ある意味、一番大胆な行動に出たりもして、親の心子知らずというか、そういう部分は時代に関わりなく、あることなのかもしれないですね。どんなに厳格なしきたりがあっても、最終的に本人が選ぶ生き方というのはその人のものであって、それは力で捻じ曲げられるものではない……というのが、この作品の“裏テーマ”なのかもしれません」

――現時点で、ホーデルをどう演じようと思っていらっしゃいますか?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima

『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima

「私は一人っ子で、テヴィエ一家のような“大家族”の経験は無いのですが、ホーデルは次女ということで、“バランサー”的な存在なのではないかなと思っています。長女がいいことも悪いことも先に経験していてくれるので、その後をゆくホーデルとしては、ある程度処世術を身に着けているし、長女と三女の中間でしっかりと立つ、柱みたいなポジションにいるべきなのかなと思いますね。演技の面でも、ただただ自分を主張するのではなくて、長女役の実咲さん、三女役の唯月さんのお芝居を観ながら組み立てていければと思っています」

――これまでキャリアを積んで来て、ある程度周りを見回せるようになってきたからこその“バランス感覚”が生かされそうですね。

「そうだったらいいなと思います」

――ホーデルは父が娘たちの家庭教師にと連れてきた学生パーチック(広瀬友祐さん)と恋に落ち、彼が革命運動で逮捕されると、彼を追って流刑地のシベリアへと旅立ちます。この強さ、行動力は先進的なパーチックに影響されてのことでしょうか、あるいは彼女本来の性格でしょうか。

「もともと、そういう素質はあったと思います。正しいと思った道に突き進む、頑固な部分はもともとあって、そこに導火線に火をつけた存在がパーチックなのだろうなと。旅立ちのシーンではテヴィエに『愛する我が家をはなれて』というナンバーを歌うのですが、歌声はもちろん、訴えかける目であったり、それまでの居方を通して、彼女がどういう覚悟で決断を下したか、その重みをお伝えしないといけないなと思うので、難しい役かもしれないと思い始めていますね」

――今回、特に楽しみにされていることは?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima

『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima

「市村さん、(母ゴールデ役の)鳳(蘭)さんとご一緒することですね。いつかはご一緒したいなと思っていたお二人と、両親役ということで密接なお芝居ができる役をいただけてすごく嬉しいです。市村さんは私が以前演じた『SHE LOVES ME』の初演で涼風真世さんと共演されていて、すごく参考にさせていただいたのですが、ちょっときまらないヒーロー像が大好きでした。今回もきっとかわいらしさのあるテヴィエを演じられるのではないかな、と楽しみです。鳳さんはお綺麗であるだけでなく、歌ったり踊ったりされる時の豪快さもあって、この二つが両立するって凄いことだと、とても憧れています。お二人との共演ではきっと勉強することばかりだろうと思いますね。(今回の製作発表前に)裏でお二人のフリートークを聴いていても笑いが絶えなくて、あの柔軟さがそのままお芝居にも滲み出て、その時初めて起きたことのようにビビッドに演じられるんだろうなと予感しています。お二人を360度見て勉強しようと思っています」

――ご自身の中でテーマにされていることはありますか?

「自分のナンバーを、責任をもって歌い上げたいです。それは見せつけるというような意味ではなくて、役柄に振り当てられたナンバーの責任をきちんと全うする、という意味です。これまで、主演作でたくさんナンバーがあって、歌いながら次はこの曲、次はこの曲と気持ちが移り変わってゆく経験はあるのですが、“一発入魂”的なことはあまり経験がなかったりするので、今回勉強できるのが楽しみですね」

*次頁では神田さんの“これまで”、そして今後のヴィジョンを伺います。ひとめぼれした“あの方”を実際に生で見て以来、舞台の魔力におののき、ひそかに憧れた沙也加さんは……。
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