神田沙也加 1986年東京都生まれ。01年CMで芸能界デビューし、翌年歌手デビュー。04年の『INTO THE WOODS』を機に舞台でのキャリアをスタート。近作『1789-バスティーユの恋人たち-』(16)『キューティ・ブロンド』(17)は再演が予定されている。『アナと雪の女王』アナ役(14)では第9回声優アワード主演女優賞を受賞。歌手・女優・声優・ナレーションなど、多岐にわたり活躍中。(C)Marino Matsushima
20世紀初頭、帝政ロシアの時代に身を寄せ合って生きるテヴィエ一家の絆を描いた、ブロードウェイ・ミュージカルの名作『屋根の上のヴァイオリン弾き』。日本でも1967年に初演以来、不動の人気を誇ってきた本作が、市村正親さん主演で今冬、50周年記念公演を行います。
ユダヤの“しきたり”に従って生きようとする父テヴィエを、それぞれの恋模様で振り回す三人の娘たちのうち、次女ホーデルを演じるのが神田沙也加さん。今春、大当たりをとった『キューティ・ブロンド』のヒロイン役とは全く異なるキャラクターに、どうアプローチしているでしょうか。ミュージカル女優としての“原点”エピソードから、これまで演じた諸役の思い出、今後の夢まで、余すところなく語っていただきました。
――先ほど『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表でお話されていましたが、今回、出演の決め手の一つとなったのが原作だそうですね。原作のどんな点が魅力だったのでしょうか?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』
――演じるお役・次女ホーデルについては、どんな印象を持たれましたか?
「自分の意見をとてもはっきり主張する子で、自分に知識があったり、考えを主張できることに対する誇りも持っている女の子だと感じました。これまでの上演ではホーデルはかわいらしいイメージが強かったようなのですが、今回は(三女)チャヴァ役の唯月ふうかちゃんがかわいらしい方なので、ホーデルは従来よりも芯の強い感じで行った方がバランスがとれるのかなと思いながら読んでいましたね」
――本作は、アナテフカという寒村で細々と暮らすユダヤ人たちの物語です。彼らは劇中、ロシア人たちから理不尽に迫害されており、社会派のハロルド・プリンスがプロデュースを務めたのが頷ける作品でもありますが、今もなお“差別”が世界で横行するなかで、神田さんはいわゆる“マイノリティ(少数派)”の方々に対して、どんな思いをお持ちですか?
「おっしゃる通り、『屋根の上のヴァイオリン弾き』はとても社会派な作品で、ユダヤ人という背景があるからこそ響いてくる台詞であったり、意味を持ってくる伏線もたくさんあります。私の周りでマイノリティというと、例えばLGBTの方たちは、少数派として傷つくことも少なくない分、いい意味で繊細で、心が優しい方が多いと感じます。友達になりたいとも思うし、否定的な気持ちは全く無いです。人種や文化が異なる人たちに対しても、私は興味を持つタイプです」
――多民族国家ではない日本で生活していると、生まれた時から差別を受けているユダヤ人の感覚というのはなかなか掴みづらいかもしれませんが、彼らを演じる手がかりにされているのは?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima
――ユダヤ人たちは自分たちの身を守るため厳格な“しきたり”の中で生き、テヴィエも5人の娘たちにその価値観を守って良縁に恵まれることを願いますが、長女ツァイテル(実咲凜音さん)、次女ホーデル、三女チャヴァはことごとく、思いがけない相手を選ぶ。いわば本作は、新旧の価値観が衝突する物語でもありますね。
「おとなしい“本の虫”と思われていたチャヴァが(駆け落ちという)ある意味、一番大胆な行動に出たりもして、親の心子知らずというか、そういう部分は時代に関わりなく、あることなのかもしれないですね。どんなに厳格なしきたりがあっても、最終的に本人が選ぶ生き方というのはその人のものであって、それは力で捻じ曲げられるものではない……というのが、この作品の“裏テーマ”なのかもしれません」
――現時点で、ホーデルをどう演じようと思っていらっしゃいますか?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima
――これまでキャリアを積んで来て、ある程度周りを見回せるようになってきたからこその“バランス感覚”が生かされそうですね。
「そうだったらいいなと思います」
――ホーデルは父が娘たちの家庭教師にと連れてきた学生パーチック(広瀬友祐さん)と恋に落ち、彼が革命運動で逮捕されると、彼を追って流刑地のシベリアへと旅立ちます。この強さ、行動力は先進的なパーチックに影響されてのことでしょうか、あるいは彼女本来の性格でしょうか。
「もともと、そういう素質はあったと思います。正しいと思った道に突き進む、頑固な部分はもともとあって、そこに導火線に火をつけた存在がパーチックなのだろうなと。旅立ちのシーンではテヴィエに『愛する我が家をはなれて』というナンバーを歌うのですが、歌声はもちろん、訴えかける目であったり、それまでの居方を通して、彼女がどういう覚悟で決断を下したか、その重みをお伝えしないといけないなと思うので、難しい役かもしれないと思い始めていますね」
――今回、特に楽しみにされていることは?
『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表会見より。(C)Marino Matsushima
――ご自身の中でテーマにされていることはありますか?
「自分のナンバーを、責任をもって歌い上げたいです。それは見せつけるというような意味ではなくて、役柄に振り当てられたナンバーの責任をきちんと全うする、という意味です。これまで、主演作でたくさんナンバーがあって、歌いながら次はこの曲、次はこの曲と気持ちが移り変わってゆく経験はあるのですが、“一発入魂”的なことはあまり経験がなかったりするので、今回勉強できるのが楽しみですね」
*次頁では神田さんの“これまで”、そして今後のヴィジョンを伺います。ひとめぼれした“あの方”を実際に生で見て以来、舞台の魔力におののき、ひそかに憧れた沙也加さんは……。