中古住宅・中古一戸建て

築50年超の共同住宅再生にみる中古住宅取得の注意点

我が国には世帯数を上回る住宅があります。そこで、中古住宅をリフォームやリノベーションで再生し、有効活用しようという動きがありますが、この記事ではそれをさらに一歩進めた「リファイニング」という取り組みについて紹介。それを通じて、中古住宅を巡る現状や問題点、再生のあり方などについて理解をしていただける内容です。

田中 直輝

執筆者:田中 直輝

ハウスメーカー選びガイド

大変難しい老朽化した共同住宅の再生

今、我が国では「家あまり」の状態にあります。少子高齢化により人口と世帯が減少局面に入っているからですが、その中で余っている中古(ストック)の住宅や建物を有効活用するための動きが広がりつつあります。リフォームやリノベーション(大規模なリフォーム)のほか、建て替えにも近い大規模な取り組みも始まっています。今回は築50年の共同住宅の事例を紹介しつつ、中古住宅の再生の動向やあり方について考えていきます。中古住宅やその取得に向けた問題点や注意点も理解できるはずです。

実例紹介の前に中古の住宅や建物を巡る動きを紹介します。まず、戸建てについては国や自治体が補助金を出すことにより、耐震性や省エネ性の向上、間取りの変更などを行うリフォームやリノベーションを推進しています。今や新築より優遇されているくらいです。

団地

典型的な「団地」の外観事例。1970年代を中心に全国各地で建てられ、当時のファミリーの住まいの受け皿となってきたが、現在では老朽化や住民の高齢化で住みづらさが増している(クリックすると拡大します)


一方、分譲マンションや賃貸住宅、公共住宅など共同住宅でも補助金などにより同様の方向性があるわけですが、戸建てとはちょっと様相が異なります。共同住宅ですから、そこに住む人たちの同意形成や権利関係の調整に問題が生じやすいのが大きな問題点です。

例えば公共の共同住宅、いわゆる「団地」再生。1960~80年代に全国各地で数多く建てられましたが、そこに住む方々の高齢化が目立っています。再生しようにも所得の問題で引っ越すことが難しかったり、新たな家賃を払いづらいというケースもあります。

階段

団地の階段部分。上層階に住む住民の方々にとってはこの階段を毎日上り下りするのは大変な苦労となり、引きこもりの原因ともなってるといわれる(クリックすると拡大します)


住戸ごとの意見を聞くのも大変。「できればここにこのままでずっと住みたい」などという方がいる一方、上層階(大抵は4、5階建て)の方は「毎日の階段の上り下りが大変。何とかして欲しい」という方もいます。

後者のような方々へ対応するため、エレベータを設置するケースもあります。古い団地の建物は内階段であるケースが多いのですが、そこに設置するわけです。ただし、昇降口は踊り場になり、バリアフリー性などの点で問題を抱えていることもあります。

ハウスメーカーがマンション建て替え事業に参画する例も

分譲マンションも戦後すぐに建てられた建物で同様のことが起こっています。最近は、ハウスメーカーなども含めマンション再生に取り組んでいますが、これも合意形成や権利調整が大変で計画から建て替えまでに10年単位の時間を要するケースがあります。

ダイニング

団地の住戸部分の様子。設備や間取りが現代人のライフスタイルに適していないことは言うまでもないだろう(クリックすると拡大します)


高齢の住民の方々には建て替えの費用を工面することが難しいことが多いわけです。これまでの住戸を売却することで賃貸住宅に移ったり、建て替え後の建物の従来より狭い住戸に入居する、といった手法がとられています。

要するに、それにより余裕ができたスペースを分譲住戸とすることで建て替えの費用をまかなおうというわけです。等価交換方式と呼ばれる高度な手法ですが、東京の中心部など地価や利便性が高い限られた地域でしか実現できないなど難しい側面があります。

国領

旭化成ホームズが等価交換方式により建て替え事業を行った「アトラス国領」(旧国領住宅)の外観(クリックすると拡大します)


ちなみに、老朽化した賃貸アパートの建て替えも結構大変です。この場合も高齢で所得が少ない方が暮らしている場合、所有者の都合で建て替えをするといっても対応が難しいことがあるためです。法律では、入居者がそこに居住する権利も保証されていますから、そうならざるをえないのです。

分譲マンションと老朽アパートの件はあくまで建て替えの事例ですが、今回ご紹介するのはあくまで大規模な改修・再生です。これは前述した団地タイプの建物を有効活用するもので、全国に広がる可能性があると考えられています。具体的には以下のような建物に対して実施されます。

ミサワホームが取り組む老朽共同住宅の再生

場所=東京都渋谷区
旧用途=宿舎(北海道旧初台公宅)
建設年=1963年(昭和38年)
築年数=53年
構造=鉄筋コンクリート造(RC造)
規模=地上4階建て
住戸数=18戸
建築面積=265.75平メートル
延床面積=1017.26平方メートル

躯体

「北海道旧初台公宅」解体現場の内部の様子。すでに床部分などが取り払われていた(クリックすると拡大します)


元々は、北海道が所有していた職員向け住宅。ミサワホームが保有物件として活用するという提案を行い事業者選定を受けたものです。同社では、「リファイニング建築」と呼び、そのノウハウを持つ青木茂建築工房と業務提携し、再生に取り組んでいます。

7月に現地で解体現場見学会が行われたため、現地で取材をしてきました。一言でいうと、再生と建て替えの中間のような位置づけです。具体的には、構造体の一部を再利用しながら、補修が必要な部分を補い、必要な部分は新たにするという手法といえそうです。

耐震性、耐久性の低下だけにとどまらない問題点

建物の問題点としては大きく、(1)耐震性の低下、(2)耐用年数の低下、(3)現行法規への不適用、(4)現在のニーズに合わない間取り、(5)エレベータがない、(6)防犯性が低い、などとなっています。

建物内部に入って見学できたのですが、築53年の建物の再生の難しさを具体的に目の当たりにできました。例えば構造体は、鉄筋がさび付いており、その影響でコンクリートがはがれ落ちている様子がみられました。

このほかにも、窓枠回りなど所々でコンクリートが欠損しているなど、53年も経つと建物へのダメージは大きく、これでは耐震性や耐久性という最も重要な部分の信頼性は担保されないと思われました。

ほうき

躯体の鉄筋コンクリートの中から覗いているほうき(?)の先っぽ。内部にあるべき鉄筋も一部露出している(クリックすると拡大します)


コンクリートの表面には木片が張り付いていたり、中には建設中に使ったほうき(?)の一部が露出している箇所も見られました。そもそも53年前と今とでは建設事業者のモラル、施工管理の姿勢が異なっているわけです。

ちなみに私は、学生時代(90年代初頭)にアルバイトでマンションの施工現場の警備員のアルバイトをしていたことがありますが、その時も軍手やタバコの吸い殻などを現場に捨てている光景を見ていた経験があります。

今ではこのような行為は絶対に許されないことですが、バブル期直後あたりまでこのような作業が行われていたわけであり、このあたりも中古住宅や建物の再生や再利用の難しい点といえるのではないでしょうか。

コストや環境保全などの点で優位性

この建物ではコンクリートの強度の確認や鉄筋の探査、不同沈下の有無、ひび割れなどの躯体調査を行い、問題点や問題箇所を特定。一方で、建物そのものは旧耐震基準であるため補強計画を策定しています。

補強

解体前に建物の詳細な調査を行い、既存の耐力壁を取り払い、新たに耐力壁を取り付けるなどの取り組みが行われている(クリックすると拡大します)


このような経緯を経て、「物理的な耐用年数50年延長」、地上4階、住戸数21戸(1ルーム4戸、1LDK17戸)、エレベータの設置、オートロックなどの防犯性の向上といった現代の生活に適した共同住宅になる計画です。

では、なぜこの建物は建て替えではなく、リファイニングという手法をとったのでしょうか。一つは、建て替えをすると、法規上の問題から現在の4階建てを維持できないからです。それでは事業コストと建設コストのバランスが取りづらい側面があるのです。

建て替えよりコストの面で有利というわけです。また、既存の建物を再利用することにより廃材を大幅に削減することができ、環境面でも有利というメリットも生まれるそうです。このほか、工期も短くなるそうです。

今回ご紹介したような建物は全国に数多く存在します。特にコスト面での有利さは、行政効率を良くするための街づくり、それによる地域の再生に取り組む地方自治体にとっては財政的にもメリットがあり、ですからこのような取り組みが求められるのです。

ハウスメーカーが中古住宅(建物)に関わる意義とは!?

ところで、ミサワホームのようなハウスメーカーがこのような事業に取り組む意義とは何でしょうか。彼らは、実績がある住宅事業者であり、耐震性や耐久性の確保、再生後の住戸の快適性などを確保するノウハウがあります。つまり、事業者としてある程度の信頼性があるといえるわけです。

マンションの改修

分譲マンションの改修の様子。その事業に悪質なコンサルタントが入り、トラブルが発生しているケースもある(クリックすると拡大します)


近年、分譲マンションの改修にノウハウや経験が乏しい悪質なコンサルタントが関わり問題化していることを考えれば、信頼できる事業者がこのような事業に関わることの重要さをおわかりいただけると思います。

戸建てのリフォームやリノベーション、共同住宅の建て替えや大規模改修などは、建設業界関係者にとっては新たな分野ですが、そこにはあまり素性がよろしくない事業者も入り込む余地があるのです。


中古マンションを含む、中古住宅取得の注意点

中古住宅と一言でいっても管理や点検の状況や劣化などの具合はそれぞれで一様ではありません。取得にあたっては、上記のような中古住宅が抱える問題点を、しっかり知っておくことが必要となりそうです。

特に、第三者がしっかりと評価し、中古住宅の再建においてどのような処置がとられたのか、信頼できる事業者が施工を行っているのか、などをよくチェックしていただきたいと思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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