『デスノート』(2017)観劇レポート
渾身の音楽と迫真の演技が
人間の“性(さが)”を暴きだし、
一縷の望みを儚く照らす
*“ネタバレ”を含みますので、未見の方はご注意下さい。
『デスノート』2017年の舞台より。写真提供:ホリプロ
現代日本の若者を主人公として、人間の“性(さが)”に迫るテーマがスリリングに展開する本作は初演時、フランク・ワイルドホーンによる渾身の楽曲やミニマリスティックな二村周作さんの舞台美術、人物の内面に肉迫する栗山民也さんの演出と絶妙に融合、センセーションを巻き起こしました。今回の再演では、新たに加わった一部キャストと続投組が興味深い化学反応を起こし、前回とはまた異なる様相を見せています。
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『デスノート』2017年の舞台より。写真提供:ホリプロ
このレムを演じる濱田めぐみさんの、海砂の心中を理解するデュエット「残酷な夢」、そして決意を歌う「愚かな愛」での歌唱が出色。おそらくはワイルドホーンが彼女の、ふくよかにして憂いある声質を生かすべく書いたのだろうしみじみとしたメロディを静謐に歌い、聴くものを“(愚かしい)人間世界に生きることの絶望”から救いあげるのです。男性キャラクターたちが演じる主筋が冷徹なまでに攻撃的・自己破滅的であるだけに、レムと海砂の愛と自己犠牲の物語は人類の微かな希望として、儚くも深い余韻を残します。
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『デスノート』2017年の舞台より。写真提供:ホリプロ
いっぽう柿澤勇人さんの夜神月は“ありえない、しかし絶好の”状況に放り込まれ、はじめは直感的に“正義”に従い、何の野心もなく行動していたのが、いつしか”身の丈を超えた“自分と化してゆく若者の姿を、迫真のリアリティをもって表現。特にLとの対決で勝利を確信するナンバー「最期の時」での悪魔的な雄たけび、そして一転、究極的な状況に置かれてからの“40秒間”のあがきが壮絶です。
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『デスノート』2017年の舞台より。写真提供:ホリプロ
実際に家族が登場する月とは対照的に、本名はおろか家族の有無も不明。実体の不確かさが魅力のこの役に再び挑むにあたり、小池さんは新たな声を開拓したことをインタビュー(4頁)で語っていましたが、なるほど歌唱のところどころに声楽的な幹の太い声があらわれ、彼の表現探究の充実ぶりがうかがえます。
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『デスノート』2017年の舞台より。写真提供:ホリプロ
筆者が観た2公演のうち、先に観た回では随所で歌舞伎舞踊の鬼女のように口から真っ赤な舌を出して見せ、観た方は生涯忘れられないかも、というほどのインパクト。インタビューでは明言されませんでしたが、リュークが好む“リンゴ”が象徴するところについて、終幕の石井さんの演技はその意味を明確に示していますのでお見逃しなく。
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『デスノート』2017年の舞台より。写真提供:ホリプロ
月の父、夜神総一郎を新たに演じる別所哲也さんは手掛かりのない難事件に頭を悩ませる姿が人間臭く、息子に接触するというLに言い放つ台詞には少々の“親馬鹿”ぶりも覗かせており、それにも関わらず知らぬ間に大罪人の父となってしまう夜神の悲劇を強調。同じく月の妹、粧裕を新たに演じる高橋果鈴さんの素直な演技と歌声は、月とリュークの非現実的会話シーンに“現実”の風をすっと吹き込み、効果的です。
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『デスノート』2017年の舞台より。写真提供:ホリプロ