ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

『ビリー・エリオット』特集!見どころ&インタビュー(4ページ目)

世界各国で80以上の演劇賞を受賞し、1000万人以上を動員している大ヒットミュージカル『ビリー・エリオット』。バレエダンサーになるという夢を抱き、逆境を乗り越えて行く少年と周囲の人々の感動のドラマが、遂に日本に上陸します。その見どころを出演者たちへのインタビューとともに一挙公開!*観劇レポートを最終頁に掲載しました*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


ウィルキンソン先生役・柚希礼音さんインタビュー
「一人一人の持ち味を肯定し、輝かせようとする
先生の姿に、深いメッセージを感じます」

柚希礼音undefined大阪府出身。宝塚歌劇団で99年に初舞台、09年に星組トップスターとなり、6年にわたりトップを務める。10年に文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞を受賞。退団後も『プリンス・オブ・ブロードウェイ』『お気に召すまま』等の舞台で活躍。(C)Marino Matsushima

柚希礼音 大阪府出身。宝塚歌劇団で99年に初舞台、09年に星組トップスターとなり、6年にわたりトップを務める。10年に文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞を受賞。退団後も『プリンス・オブ・ブロードウェイ』『お気に召すまま』等の舞台で活躍。(C)Marino Matsushima

――柚希さんのウィルキンソン先生役はちょっと意外でもありましたが、なぜ演じたいと思われたのですか?

「とにかくこの作品に感動してしまったんです。映画版では先生役を貫禄のある方が演じていましたが、舞台版はこれまでいろいろな方がなさっていて、私が観た方は、ハンサムで愛もあって面白い。ぜひ私も演じてみたい、と思ったんです。彼女はおそらく第一線のダンサーを目指していたけど、子供が出来てちょっと休んでいる間に目指すところにいけなくなり、炭鉱の町で子供たちにバレエを教えている。でもそこですごく可能性のある子に出会って、なんとかこの町から出して一流のダンサーに育てようとします。

私自身、ずっとダンスをしてきて、家庭の事情とかいろいろな事情で続けるということがいかに大変かを知っていますし、第一線に行けなかったからこそ才能のある子に一生懸命教えたり、何とかサポートしてあげようと周りが奔走したり、女子9.9割の中でたまに男子が入ってくると“うわっ”となったりといったことも見て経験しているので、すごく共感できるんです。ウィルキンソン先生はテクニックを教えるだけじゃなく、自分自身の表現というものを引き出そうとしているけれど、ダンスというものは本当にそれが大事なんですよね。改めて勉強になることがいっぱいあるので、この作品を通して自分も成長していけたら、と今は思っているところです」

――「Shine」の歌詞に凝縮されているとおり、ウィルキンソン先生はバレエ教師のイメージとは真逆の豪快な人物ですが、実際のところ、彼女のような教え方をされる方もいらっしゃるのでしょうか?
『ビリー・エリオット』稽古より。写真提供:ホリプロ

『ビリー・エリオット』稽古より。写真提供:ホリプロ

「あのナンバーは“めっちゃ”好きですね(笑)。バレエにはいろいろな先生がいらっしゃって、とにかく基本をきっちりやらないとダメという厳格な先生もいらっしゃれば、ウィルキンソン先生のように、パっと輝くものがあればいいんですという先生もいらっしゃいます。先生によって生徒の育ち方も変わってくるんだなあと感じて、私はいろいろな先生に教わるようにしていました。そうすると、“パっと”タイプの先生は、見た目が大きくても小さくても、みんなと違うからこそいいんだよと個性を肯定してくれるんですね。日本では、みんなと違うといじめられたり、流行りの服を着ておけば大丈夫みたいな謎の風潮があるけど、それは違う、と。

それは宝塚を退団してアメリカに行った時にも感じました。みんなと一緒にしておくことは安心かもしれないけれど、本当の表現ってそういうものではないのだ、と。今回、そういうタイプのウィルキンソン先生を演じていて、この作品には深いメッセージが込められているのだな、と改めて感じています」

――いろいろな先生に習われた中で、ご自身にフィットしていたのは?
『Billy Elliot』英国版の舞台より、「Electricity」PHOTOS OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR

『Billy Elliot』英国版の舞台より。PHOTOS OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR

「私は長年“パっと”タイプの先生に習って、その後で基礎をすごく大切にする先生に教えていただいたのですが、どちらの指導も受けたからこそ今の自分があると感じます。前者の先生は、ジャンプを“怖いこと”と感じさせずに、みんながやっているから私も出来る、という気持にさせてくださるような先生で、おかげで何も恐れず挑戦できるようになったんですね。はじめから基礎に重点を置く先生に習った方は本当にきれいな踊りをされるけど、例えば飛びながら回ってジャンプ、というような“応用”ができなかったりするんですよ。二人が並んで、どちらがよりたくさん回れるか対決みたいなことをやっているような教室で、楽しく学んでいけたことは、宝塚に入って“パっ”と踊ることが求められる時にすごく役立ちました。

でもその後、もう一歩足りないような気がしてバーレッスンや基礎を大切にという先生についたら、これってこういう意味だったんだとか、やっぱりここをちゃんとやっておくと確実に出来るようになるんだということが分かって、やっぱりいろんな先生に教わるのがいいんだと痛感しました」

――ビリーもまさに、“パっと”タイプのウィルキンソン先生に学んだあと、次のステップに進もうとします。
『ビリー・エリオット』稽古より。写真提供:ホリプロ

『ビリー・エリオット』稽古より。写真提供:ホリプロ

「もう一回基礎からやり直す。それがまたいいんだと思います。あんなにみんなに反対されて、むかっとしたときにダンスで発散するほど、ダンスで自分を表現することができるようになったビリーなので、この後、基礎を学びなおしたらすごいダンサーになってゆくのではないかと思います」

――今回、ご自身の中でテーマとされているのは?

「もう何度も稽古を観ているだけに、演じながら感動してしまったりするのですが、演出家からは“そういうものは無しで演じてください”と言われています。例えば、ウィルキンソン先生はビリーを指導し始めてまもなく、彼にダンスの原動力になるよう、宝物を持ってこさせるのですが、その中に亡くなったお母さんからの手紙があるんですね。個人的にはここは絶対泣いてしまうポイントなのですが、先生としては知り合ったばかりの少年の家庭の事情にまでは入り込みたくなくて、“うわ、手紙か、ここまで重いものは持ってきてほしくなかったなぁ”と思っている。ポーカーフェイスにしていなくちゃいけないのが難しいです(笑)。この先生はいろいろな失敗を経て人生をあきらめかけていて、めったなことでは涙も出ないし、感情豊かに人にやさしくもしない。傷つきたくないから自分にふたをしてきたのが、最後の最後に溢れ出す。作品を観て感じたままに演じてしまうのではなく、あくまで先生目線で演じていかないと、と思っています」

――今回はたくさんの子供たちと共演されます。子供たち、いかがですか?

「やんちゃで面白いですよ。これまでの舞台でもけっこう子供たちとは絡んでいるのですが、今回は子供を“子供扱いしない”ところに魅力があるのだろうと思っています。優しく“~よ”みたいな台詞は全くありません。一人の人間として接しているので、子供たちに対してかがんだりもしないんです。でも、自分が小学生だった頃も、自分のことはそれほど“子供”として意識していなかったので、彼らも子供扱いは嫌なのではないかな。ひとりひとりに普通に接したいと思っています」

――ビリー役はほぼ出ずっぱりでダンス・ナンバーも多く、見るからにハードなお役ですが、柚希さんから見ていかがでしょうか?
『Billy Elliot』英国版の舞台より。PHOTOS OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR

『Billy Elliot』英国版の舞台より。PHOTOS OF LONDON PRODUCTION BY ALASTAIR MUIR

「バレエも器械体操もタップも、演技も歌も…と全部できないといけないので、ビリー役って本当に大変だと思いますが、ビリー役の子たちはみんなちゃんと出来てきていますね。それに“また踊るの?! どんな体力があったらこれができるんだろう”というくらい、ずっと歌って踊ってお芝居をしていて、私から見てもただただ“すごい”です。でも、ただ単にダンスを何曲も踊るのであれば、これほどのことはできないと思うんですね。やっぱり彼らがビリーになりきって、ビリーの内面から迸るものがあるからこそあそこまで動けるのではないでしょうか。バレエを踊ってタップを踊って、バック転をして、それでいてかわいい(笑)。ここまで主人公が踊るミュージカルはなかなかないので、特にダンスが好きな方にとっては、必見な作品ですよ」

――宝塚を退団後も、ハロルド・プリンスとお仕事をされたりオリジナル作品に主演されたりと、素敵にキャリアを築いていらっしゃいますが、今回の作品は柚希さんの中で、どんな位置づけになりそうですか?

「退団後は海外の方とやることが多く、海外スタッフが進めていく稽古場にだんだん慣れてきていますが、演出、ダンス、歌、タップなど、それぞれ専門の先生方が詳しく教えて下さったり、“僕たちは俳優のサポートをする役目だから、やりづらかったら一緒に考えよう”と言って下さりながらサポートして下さることに感動しています。今回は5月に稽古が始まり、11月まで公演期間がありますので、この期間で多くを学び、役柄的にもこれまでやってきたような女性の役とはまた違う役ですので、勉強しながら自分自身も成長していければ。宝塚時代から“柚希礼音はこういう人”と一つの色に染まらないことをモットーにしてきたので、今回も新たな色に染まれたらと思っています」

*公演情報* 『ミュージカル ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』7月19~23日(プレビュー)、7月25日~10月1日=TBS赤坂ACTホール、10月15日~11月4日=梅田芸術劇場メインホール

*次頁に観劇レポートを掲載しました*
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