試験の難易度を評価
司法書士試験の難易度評価
この記事では、平成29年度司法書士試験はどのような試験であったかを、昨年度や近年の問題との比較から振り返っていきます。
難易度は、「難・やや難・普通・やや易・易」の5段階です。
午前択一
■憲法第1問(職業選択の自由に対する規制の合憲性判断の手法)は、経済的自由に対する規制についての合憲性判断の手法を問う問題です。公衆浴場の距離制限についての判例の流れ(時代の流れ)が書かれたテキストで学習していた方は、正解できたかと思います。
第3問(条約)は個数問題ですので、間違えてしまった方が多かったと思います。
憲法は「1問は間違えた」という方が多いと思います。司法書士試験の憲法の難易度としては「普通」です。
■民法
ほとんどの方が間違えたと思われるのが、第19問(不当利得)です。不当利得で丸1問出題されることは想定していなかった方が多いと思いますし、聞かれる知識も細かいです。
その他にも、考えさせる問題(ex. 第6問〔消滅時効〕・第13問〔法定地上権〕)はありましたが、昨年度よりは易化しています。司法書士試験の民法の難易度としては「普通」です。
■刑法
ほとんどすべての選択肢が、通常のテキストに掲載されています。また、3問とも過去問のみで正解できます。
近年の刑法の問題の中で、最もとりやすい年度です。司法書士試験の刑法の難易度としては「易」です。
■会社法(商法)
第27問(株式会社の設立)と第31問(補欠の監査役)が難しいです。
形式ですが、会社法は平成18年度~平成27年度は、平成21年度第27問(単純正誤問題)を除いて「組合せ問題のみ」でした。
しかし、平成28年度に、単純正誤問題が1問・個数問題が2問出題され、形式が難しくなりました。平成29年度は、個数問題はありませんでしたが、単純正誤問題が3問ありました。「会社法(商法)は組合せ問題ばかり」という傾向は変わったといえます。
司法書士試験の会社法(商法)の難易度としては「やや難」です。
■午前択一・総評
実際に解いている際はあまり実感できなかった方が多いと思いますが、昨年度よりは易化しました。
形式は、「組合せ問題:30問、単純正誤問題:4問、個数問題:1問」でした。単純正誤問題は、正解しやすい(正解の選択肢がわかりやすい)問題が多かったです(第29問・第34問・第35問)。
午後択一
■民事訴訟法・民事保全法・民事執行法第2問(訴訟費用)が少し難しいですが、あとは取りたい問題です。ただ、第7問(間接強制)は、捨てていた方もいらっしゃるかもしれません。聞いている知識は難しくないため、「捨てていたか、捨てていなかったか」で分かれる問題となりました。
司法書士試験の民事訴訟法・民事保全法・民事執行法の難易度としては「普通」です。
■司法書士法・供託法
司法書士法の第8問(司法書士の業務)は、2択(1・3)までは容易に絞れますが、アかオの知識を知っていたかどうかが正解を分けました。
供託法は、例年どおり3問とも正解できる問題です。ただ、第11問(書類の閲覧又は供託に関する事項の証明)は、もしかしたら論点自体を捨てていた方もいるのではないかと思います。
司法書士試験の司法書士法・供託法の難易度としては「普通」です。
■不動産登記法
午後択一の中で最も難しいです。人によっては、「2問に1問くらい間違えている」感覚だったかもしれません。
近年は、午後択一の中で、不動産登記法が最も難しいという年度が多いです。司法書士試験の不動産登記法の難易度としては「やや難」です。
■商業登記法
不動産登記法とうって変わって、取りやすい問題が多かったです。ただし、午後択一は時間が厳しいので、商業登記法を最後に解いた方は、時間が残っていたかで正解数が大きく変わったと思います。
司法書士試験の商業登記法の難易度としては「やや易」です。
■午後択一・総評
午後は記述があるため、時間との関係で全肢を満足いくまで検討できない、という状況は変わりませんでした。例年どおりといえば例年どおりに大変です。
形式は、「組合せ問題:34問、単純正誤問題:1問」でした。
記述
■不動産登記(記述)第1欄の2件目は、事実関係9の「権利の移転の登記の方法によらずに」という記載から「では更正の登記かな?」と判断した方が多いと思います。自信を持って判断した方は、あまりいないのではないでしょうか。
第2欄が最も難しく、枠ズレ(解答欄がズレてしまうこと)をした方が多かったと思います。第2欄において枠ズレをしていても、合格することは十分可能だと思います。
■商業登記(記述)
公開会社になったことが気づきにくいので、役員変更で間違えた方が多いと思います。
公開会社になったことを落としただけなら、合格することは十分可能だと思います。記述が採点されるレベルの方でも、公開会社になったことを落とした方のほうが多いのではないかと推測しています。ただし、さらに解散したことまで落とすと(存続期間の満了に気づかなかった場合だと)、危険ゾーンに入ります。
「大きな論点の落としが、公開会社になったことを落としただけか否か」が1つのラインになるかと思います。
予想基準点
まず、過去10年の択一の基準点の推移は、以下のとおりです。【択一の基準点(平成19年度~平成28年度)】
*数字は問題数です。午前択一も午後択一も、満点は35問です。
この基準点の推移、および、上記で説明した今年度の難易度を踏まえた、私の基準点の予想は以下のとおりです。
■平成29年度の予想基準点
午前択一:27問or28問
午後択一:24問
記述 :予想できません
記述の採点基準は、発表されていません(解答でさえ発表されません)。そこで、私は、択一の基準点を突破した受験生の方と合格者の方にご協力いただき、記述の開示請求答案(*)をご提出いただき、採点基準を探っています。ここ数年は、100通以上の答案をご提出いただいています。
*行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に基づき、提出した記述の答案用紙(採点前のもの)の開示請求をすることができます。
6年間開示請求答案の分析を続けてきた私の推測ですが、記述は、得点調整がされる年度(ex. 平成26年度)とされない年度(ex. 平成28年度)があります。今年度がどちらになるかわかりませんので、記述の基準点を予想することは不可能だと考えています。
なお、上記の予想はあくまで私の主観的なものです。実際の基準点とはズレが生じることをご了承ください。
受験された方、改めましてお疲れさまでした。
なお、平成29年度司法書士試験の今後のスケジュールについては、平成29年度司法書士試験の基本情報を受験案内から確認をご覧ください。