食と健康

ココナッツオイルの健康効果はありか、なしか

【管理栄養士が解説】ココナッツオイルは、健康によいだけでなく、エネルギー源になりやすくダイエット効果があるとして人気になりました。しかし「ココナッツオイルは体に悪い」という説も耳にします。実際の健康効果はどうなのか、食品学と栄養学を掘り下げて解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

ココナッツオイルの謳う「健康効果」とは

ココナッツオイル

ココナッツオイルは健康によいと言われていますが、本当でしょうか? 特性を知れば、どう取り入れるのがよいか分かります。

ココナッツオイルの健康効果の解説の前に、まずは「アブラ」について復習しましょう。

アブラは大きく2種類に分けられます。室温で固体の「脂」と、室温で液体の「油」です。固体の「脂」は動物性であることが多く、なるべく控えたいアブラとされ、液体の「油」は植物性であることが多く、身体に有用性の高いものが多いので、「脂」を控えて「油」を摂ることが推奨されています。詳しくは「アブラの多い食事がおいしい理由」をご覧下さい。

それでは、今話題に上がっている、ココナッツオイルについて考えてみましょう。ココナッツオイルは寒い時期は室温でも固体になりますが、植物性です。「脂」なのか、「油」なのか、少し不思議なアブラです。

ココナッツオイルは植物から採れるので「油」だろうと考えられがちですが、実は「脂」に近い性質を持っています。この理由は「飽和脂肪酸」が多いから。しかし、この飽和脂肪酸の種類をみると「中鎖脂肪酸(ラウリル酸)」が多いため、健康によいと考えられ、海外セレブを中心に食生活に取り入れられるようになったようです。

こう説明されても「飽和脂肪酸って何?」「中鎖脂肪酸とは?」と思う人もいると思います。以下、少し難しくはなりますが、丁寧に説明します。
 
アブラの種類

脂肪酸(飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸)の分類


アブラは一般的に「グリセリン」と「脂肪酸」が結合してできています。グリセリンは「脂」も「油」も同じものですが、脂肪酸に種類があり、これによって「アブラ」の性質が決定されます。「油」には「不飽和脂肪酸」と呼ばれる二重結合を持つ脂肪酸が多く含まれており、「脂」には二重結合を含まない「飽和脂肪酸」が多いのです。また「飽和脂肪酸」が多いと、常温で固体になりやすいという特徴があります。

ここでピンと来た人もいると思います。ココナッツオイルは植物性ですが、飽和脂肪酸が多いため、室温で固体なのです。飽和脂肪酸が多いのであれば、身体にいいと言われるのは不思議ですよね?

脂肪酸は炭素がいくつも連なった構造をしているため、この炭素の数によって長さが決まります。長さによって「短鎖脂肪酸」「中鎖脂肪酸」「高級脂肪酸(長鎖脂肪酸)」に分かれます。飽和脂肪酸であっても、中鎖脂肪酸は体脂肪として蓄積され辛く、エネルギー源になりやすいといわれています。

さらに、中鎖脂肪酸は高級脂肪酸と代謝経路が異なっているため、他の脂肪酸よりもエネルギー源として消費されるスピードが速いことが分かっています。そのため、太りにくいと考えられているのです。

ココナッツオイルには中鎖脂肪酸の仲間である「ラウリル酸」が多く含まれています。ここにセレブたちが注目したのです。

ところが、アメリカ心臓協会から「Saturated fats: Why all the hubbub over coconuts?(英文)」と、ココナッツオイルが身体に悪いという発表が出されるなど、ココナッツオイルはそもそも本当に身体によいと言えるのか、疑問視する声も出てきました。
 

ココナッツオイルの中鎖脂肪酸は健康によいのか、悪いのか

上記のように中鎖脂肪酸は、控えたい脂肪酸である「飽和脂肪酸」の仲間でありながら、エネルギー源として利用しやすいことから、「体脂肪をためない」と考えられ、セレブに愛用されました。実は病院の食事でも、「エネルギー源になりやすい」という性質を期待して中鎖脂肪酸を利用することがあります。

どのような患者様に対してかというと、
  • 手術後の患者
  • 未熟児
  • 低栄養
  • 摂食障害
  • サルコペニアの高齢者
  • 腎臓病
などです。これらの疾患はどれも低栄養で迅速なエネルギー補給が必要であったり、エネルギー補給の比率を変えるために通常の食品だけでは無理がある場合です。

この中で最も使用頻度が高いのは、腎臓病食です。腎臓病食は、「腎臓病治療食の人でも生でOK! 低カリウム野菜」で紹介したように、たんぱく質の制限があるため、糖質(炭水化物)か脂質でエネルギーを摂取しなければエネルギー不足でやつれてしまいます。炭水化物で摂取すると嵩(かさ)が増えてしまったり、意図しない甘さが追加されてしまったりして食べ辛いのです。

そのため、味が変わりにくい中鎖脂肪酸100%の中鎖脂肪(medium chain triglyceride:MCT)をお粥に混ぜたりおかずに混ぜたりして提供することはあります。腎臓病食は治療食の中でもかなり特殊な食事療法です。また、低栄養の食事もカロリーアップを狙った食事です。

中鎖脂肪を多く含むココナッツオイルを食べてはいけないということはありませんが、健康な人がココナッツオイルを使うことに健康的なメリットはほとんどないように思います。

むしろ中鎖脂肪酸は飽和脂肪酸の一種ですので、飽和脂肪酸は悪玉コレステロールであるLDLコレステロールを増やし、心臓疾患のリスクが上がるということは一つの事実です。今回、アメリカ心臓協会からのニュースが和訳され、「ココナッツオイルはお勧めできない。体に悪いから」として記事が注目を受けたことでも広く知られるようになりましたが、日本動脈硬化学会のQ&Aの中でも、同様の注意が促されています。
 

ココナッツオイルの上手な使い方

以上のことから、ココナッツオイルはすばやくエネルギーとして使うことができるため、低栄養や腎臓病の患者様にとっては「身体にいいアブラ」と言ってよいと思います。使用量を医師や管理栄養士に確認しながら上手に利用していただくとよいと思います。

一方で、元気で働ける年代の健康な人、ダイエットをしたいと考えている人などは、エネルギーの摂取は控えたいわけですから、ココナッツオイルを使ってエネルギーを強化する必要はありません。管理栄養士として考えると、身体の潤滑油として必要な不飽和脂肪酸を多く含むオリーブオイルやごま油などを選ぶようにするのがよいのではないかと思います。

個々人の身体の状態やライフスタイル等に合わせて、上手にアブラを選びたいものですね。

【関連記事】
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます