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土砂災害防止法について知っておきたいポイント

毎年のように発生する大規模な土砂災害。とくに梅雨の時期から秋の台風シーズンにかけて警戒が欠かせません。また、住宅を選ぶ際には「土砂災害防止法」について知っておくことも大切です。その主なポイントをまとめました。

執筆者:平野 雅之


土砂災害の現場

土砂災害対策では地域住民への周知も大きな課題に

梅雨の大雨、台風、集中豪雨……それらに伴う大きな土砂災害は毎年のように日本のどこかで繰り返されています。

土砂災害には土石流、がけ崩れ、地滑り、地盤の崩壊などいくつかの類型があり、大雨だけでなく雪解け水や地震などによって引き起こされる場合も少なくありません。

もちろん、人命や住宅などを土砂災害から守るためにさまざまな対策がとられており、法律面では「砂防法」「地すべり等防止法」「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」の、いわゆる「砂防三法」があります。

そして、砂防三法とは別に定められているのが「土砂災害防止法」(正式名称:土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律)です。今回はこの「土砂災害防止法」について、知っておきたい主なポイントをまとめておくことにしましょう。


土砂災害防止法への対応が進まないうちに新たな大規模災害が発生

人命や住宅を巻き込んだ大規模な土砂災害として、2014年8月に起きた広島市北部での被害が記憶に新しいところです。しかし、広島では1999年にも大規模な土砂災害(広島災害)が発生しており、これを契機に定められたのが「土砂災害防止法」(2001年4月1日施行)です。

2003年に全国初となる土砂災害警戒区域などの指定(13か所)が広島県でされた後、何度かの法改正を経て、2013年3月31日時点では全国で土砂災害警戒区域が309,539か所(うち、土砂災害特別警戒区域が169,890か所)に達しました。

ところが、全国に約67万か所あると推定される危険区域の全体からみれば、その調査や指定が遅れていたうえ、地域住民への周知も十分にされていませんでした。

そのような状況のなかで2014年に発生したのが広島市の土砂災害であり、その反省から国が都道府県に対して「緊急周知の要請」をしたり、調査・指定の促進が図られたりしています。

また、従来は調査が終わり土砂災害警戒区域などの指定が済んでから地域住民へ知らせることになっていたのを改め、原則として危険区域を特定するための基礎調査が終わった段階で(警戒区域などの指定前に)住民へ周知するようになりました。

2017年4月30日時点では、土砂災害警戒区域が489,066か所(そのうち土砂災害特別警戒区域が332,601か所)になり、4年前の2013年時点に比べて急ピッチで指定が進められているようにも感じられます。しかし、2016年度までに基礎調査が完了したのは22府県にすぎません。

基礎調査の完了予定年度をみると、2017年度が2県、2018年度が4都県、2019年度が19道県となっており、全国で住民への周知や警戒区域などの指定が終わるのは、まだだいぶ先のことになりそうです。


土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域とは?

上の説明で「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」という用語が出てきましたが、これらがどのようなものなのかを簡単にみておきましょう。

まず「土砂災害警戒区域」(通称:イエローゾーン)とは、土砂災害によって「住民の生命や身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域」であり、市町村地域防災計画で避難体制に関する事項を定めたり、ハザートマップによる住民への周知徹底が図られたりします。

また、高齢者や障がい者、乳幼児など自力避難が困難な「災害時要援護者」が利用する施設への情報伝達などについても対策を講じることとされています。

そして不動産業者は、土砂災害警戒区域内の宅地や建物を売買または貸借する際に、「警戒区域内である旨」を重要事項として説明しなければなりません。

それに対して「土砂災害特別警戒区域」(通称:レッドゾーン)は、土砂災害によって「建築物に損壊が生じ、住民の生命や身体に著しい危害が生じるおそれがあると認められる区域」です。土砂災害警戒区域よりも危険性の高い区域と考えればよいでしょう。

土砂災害特別警戒区域では、一定の開発行為が制限される(許可制になる)ほか、建築物に対して構造規制も適用されます。

また、建築物の所有者、管理者、占有者に対して、土砂災害特別警戒区域から安全な区域へ移転するよう都道府県知事が勧告をしたり、移転や建物の補強などに対して支援や補助をしたりする措置が講じられています。

土砂災害特別警戒区域内において新たな建築などが一律に禁止されるわけではなく、土砂災害を防止するために必要な技術基準に従っているものは許可されます。

しかし、特定の開発行為にかかる宅地や建物の売買などをする際には、都道府県知事からの許可を受けた後でなければ、不動産業者はその広告も売買契約の締結もできません。土砂災害特別警戒区域内である旨や、その許可に関することを重要事項として説明することも当然です。


土砂災害警戒区域などに指定されていなければ安全、ではない!

前述したとおり土砂災害の危険性について都道府県による基礎調査そのものが遅れぎみなうえ、調査が終わった後で地域住民が警戒区域の指定に反対するケースも少なくありません。

特別警戒区域などに指定する必要があるにもかかわらず、調査が終了してから何年もの間、指定されないままになっている区域も、全国でかなりの数にのぼるようです。

また、国(国土交通省)や都道府県による緊急調査は「おおむね10戸以上の人家に被害が想定される場合」にかぎられ、それよりも人家がまばらな場所は調査が後回しにされがちです。

そのため、現時点で土砂災害警戒区域などに指定されていなければ安全な宅地、というわけではないことに注意が必要でしょう。

さまざまな事情で山あいの住宅地や急傾斜地、がけの上、がけを背にした住宅などの購入を検討する際には、周囲の状況をよく観察することや、地盤のリスクなどに関する資料を確認することが大切です。

いざというときにはどうすればよいのか、情報入手や避難の方法について、普段からしっかりと意識しておくことや、危険が迫ったときには一刻も早く避難行動をとれるように準備をしておくことが欠かせません。


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