住宅を売却する際には、まず仲介業者が価格査定をします。土地や一戸建て住宅の場合なら、周辺事例だけでなく地形や道路の状況その他さまざまな要素を組み合わせて価格をはじき出しますが、中古マンションの場合は同じ棟内の他の部屋の事例に左右されることも多いでしょう。
あるとき、東京都内の郊外エリアに建つ某マンションを調べていたところ、そのマンションの売り出し事例が周辺マンションに比べて異様に高いことが分かりました。
もちろん、グレードや設備、環境などによって同じエリア内でも価格が突出したマンションというのは存在します。確かにそのマンションも築年は新しく、それなりに優れた物件でしたが、事例に表れた価格差に相当するような要素がみつかりません。
関係者への聞き取りも含めてあれこれ調べてみると、そのマンションの分譲時に購入した世帯は似通った家族が多く、住宅ローンの借り入れ額もだいたい同じくらいとのこと。
そのために、ある一定額以上で売却しなければ、どの世帯も残っている住宅ローンを返済できないので、売り出されている部屋はどれも「売れないと分かっている価格」で表に出さざるを得ない、という状況が判明しました。
その当時は中古マンションの値下がりが目立つ時期だったのですが、価格を下げて売り出してしまうと、「それが事例となって周りが迷惑する」という配慮が優先された結果でしょう。考えてみれば、ここだけではなく他のマンションでもありそうな話です。
「表向きの価格」とは異なる価格で成約しても、このような状況の物件では成約価格が意図的に隠され、データとして残らないこともあるでしょう。
不動産の売り出し価格にはさまざまな裏事情がからんでいるケースも少なくないため、「あの家がいくらで売り出されているから、自分の家もこれくらいで売れるだろう」と単純に自己判断すれば失敗の要因にもなりかねません。
売却にあたり価格査定を受けたときには、なぜその価格になるのか、実際に売れるのはいくらなのか、といった説明をしっかり聞くことが大切です。
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(この記事は2006年11月公開の「不動産百考 vol.5」をもとに再構成したものです)
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