ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

ウエンツ瑛士、喜劇を究める【気になる新星vol.27】(2ページ目)

2014年のトニー賞で作品賞他4部門を受賞した話題作『紳士のための愛と殺人の手引き』が、豪華キャストで日本初演。物語の起点となる青年役をダブルキャストで演じるのがウエンツ瑛士さんです。マルチに活躍中の彼がユーモア・センス全開で取り組むドタバタ喜劇、どんな舞台になりそうでしょう?ご本人の並々ならぬ決意を伺いました!*観劇レポートを掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


プレッシャーとの戦いだった
9歳でのミュージカル初出演

『天才執事ジーヴス』写真提供:ホリプロ

『天才執事ジーヴス』写真提供:ホリプロ

――ウエンツさんはモデルや子役をされていた9歳の時に劇団四季『美女と野獣』の日本初演(1994年)でチップ役を演じたのですよね。ご自身の中で“ミュージカルをやってみたい”という思いがあったのですか?

「いえ、あの頃はお仕事の一つ一つを楽しいなとは思っていたけど、いかんせん全部オーディションで決まる世界なので、やりたいと思ったものが全部できるわけではないことはわかっていました。だから自分から“こういうものをやりたい”と思ったことはなかったですね。

オーディションに受かってからは、ミュージカルの楽しさよりも、プレッシャーを感じることのほうが多かったかな。チップはダンス力が求められる役ではないので動けない僕も受かったけれど、僕以外の合格者たちは、ミュージカルがやりたくてダンスや歌のレッスンを積み重ねてきた子ばかり。稽古でウォーミングアップしたりすると、その差は歴然でした。僕はテレビ番組のレギュラーもやっていて、スケジュールがぱんぱんだったので新たにダンス・レッスンに通うこともできず、そんな中で頑張るというのは正直、なかなかプレッシャーでしたね。この出演がきっかけでミュージカルが特別好きになった、ということは無く、その後は親に連れられて『キャッツ』を観にいったくらいでした」

――当時は将来について、どんな夢を抱いていたのですか?

「9歳の頃は特に夢といったものはなく、この仕事を一生やるのかなとうっすら考え出したくらいでした。10歳くらいから憧れたのが、競馬の騎手です。友達に牧場主の子がいまして、しょっちゅう遊びに行くうち、馬が物凄く好きになったんですよ。馬に携わる仕事がしたいと思っていたところ、騎手と言う仕事があるよ、と言われて日曜の昼間にやっている競馬の中継を見たりしていました。

でも結局その道に進まなかったのは、騎手になるには中学から全寮制の学校で学ばないといけないと聞いたからです。当時TVのレギュラーや舞台の仕事をさせていただいている中で、その選択肢を取ることは、僕にはできませんでした。不可能ではなかったかもしれないけれど、大人の人たちも大勢関わっていることはわかっていたので」

初舞台から20年後、『天才執事ジーヴス』で
ミュージカルに“回帰”

――それから20年の歳月を経て2014年、『天才執事ジーヴス』で久々にミュージカルに出演されました。

「まさか自分がミュージカルに出演させていただくことになるとは思っていませんでしたが、何かをやってほしいと言われたらそれには全力でこたえたいと思う性格なので、ぶつかりにいきました」

――古き良きイギリスの時代感が漂う中で、お笑い芸人の方々はじめ、様々なジャンルの方々が団結し、ほのぼのとした舞台を作り出されていましたね。

「ありがとうございます。でも自分としてはミュージカルが(大人になってからは)初めてで、楽しかったけど何もできなかったというのが一番の感想ですね。主演なのであちこちに気が回らないといけないのに、台本に書いてあることをこなすので手一杯でした。ミュージカルという世界でのやることの多さにとまどいながら、ご迷惑をいっぱいおかけしつつ、なんとか皆さんに支えていただいてゴールに辿り着いたという感じでした」

――作曲はロイド=ウェッバーでした。

「そのことすら、忘れていましたね。後々、ミュージカルの音楽をいろいろ聴くなかで、ロイド=ウェッバーってこういう音楽を書く人なんだと改めてわかりました」

――翌年はフィッツジェラルドと妻ゼルダの愛憎を描いた『スコット&ゼルダ』に主演しました。
『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘

『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘

「『~ジーヴス』の反省を踏まえて、準備をしたうえで臨んだつもりではありました。『~ジーヴス』で振付を担当された前田清美先生が“うちでダンスのレッスンをやっているから来なさい”とおっしゃってくださり、そこに通っていましたし、『スコット&ゼルダ』は鈴木裕美さんが演出されると聞いて裕美さんの作品も観にいっていました。そのうえで稽古に入ったのですが、物語自体も肉厚でしたし、『ジーヴス』以上に歌の意味合いが強いミュージカルで、本当に苦労しましたね。今でも時折“もっともっとやれることはあったんじゃないか”という思いに駆られることがありますが、とにかく全力でぶつかりにいった3か月でした」

――あの舞台で鮮烈だったのが『華麗なるギャツビー』の執筆シーン。ウエンツさんは鬼気迫る表情でタイプを打ちながらタップを踏んでいらっしゃり、作品の“生みの苦しみ”が凝縮されたナンバーとなっていました。

「あのシーンでどうタイプを打ってどういうタップを踏むかは、僕とダンサーの加賀谷一肇君の二人で考えてください、と振付家に言われて、かーくんに任せきりのところもありましたけど(笑)、二人で組み立てていきました。こういう作り方もあるんだな、と新鮮でしたね」

“終わりのない螺旋階段”の感覚に浸りながら
ミュージカルに“恩返し”をしていきたい

――これまでのところ、ミュージカルの醍醐味をどうとらえていらっしゃいますか?
『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘

『スコット&ゼルダ』撮影:渡部孝弘

「やればやるだけ返ってくる、というのがミュージカルの醍醐味ですね。“返ってくる”というのはお客様の拍手であったり、御覧になった方からの感想であったり。そうしたものは僕を奮い立たせ、終わりのない螺旋階段に入ったような感覚を抱かせてくれます。これはテレビでは得られない感覚ですね」

――WaTでデュオを組まれていた小池徹平さんも、ミュージカルで頭角をあらわしてきています。互いに触発される部分もあるのでしょうか?

「無くはないと思いますが、演じている役のタイプも違いますし、話したことはないけど、目指している地点も彼とはおそらく違うような気がします。僕は“古き良きアメリカのミュージカル”が好きで、現代のロック調であったり、王子様系の役どころよりかは、古き良き時代の下町の青年であったり、タップが踏めるミュージカルに興味がある。現状としては日本で上演頻度は多くないけれど、そういう作品に出演していけたら、と思っています」

――ということは、今後もミュージカルには積極的に出演を?

「僕は“TVの人間”という感覚を持っていますが、そんな自分がこれまで歌をやってきたこと、世間に名前を知っていただいていることでミュージカルでも使っていただけ、そのおかげでこれまで、素敵なものに巡り合い、多くを学ぶことができました。子供のころからミュージカルを志し、トレーニングを積んでこられた方がたくさんいらっしゃるなかで大事なポジションを任せていただいている自分としては、ぜひともミュージカルに恩返しをしたい。まずはTVの視聴者たちを劇場に引っ張ってきて、ミュージカルの幅広さ、奥深さを知っていただきたい。そうしたことで、自分がミュージカルに出演させていただく“意味”を見出してゆけたら、と思っています」

*****
作品世界や演じる役どころだけでなく、カンパニー全体における自身のポジションを俯瞰でとらえ、動こうとする点においても、己を見る目の厳しさにおいても、さすが若手ながら芸歴の長い彼ならでは、と思わせるウエンツさん。クラシカルな世界がお好きで、笑いのセンスにも喉の強さにも定評があるだけでなく、作品の中での立ち位置をしっかりと分析済みの彼を擁した『紳士のための愛と殺人の手引き』日本初演、いっそう待ち遠しくなってきました。

そうそう、上記の小池徹平さんについての彼の回答は素っ気なく聞こえるかもしれませんが、今回お目にかかってご挨拶をしたときに開口一番、彼が言ったのが、「この前、小池徹平のインタビュー記事を書いてくださったんですよね。有難うございます」。まるでご家族の方みたいですね、と笑うと「そうです、ね」と、ウエンツさん。友情と家族愛、同志愛を合わせたような特別な絆がお二人の間にあることがうかがえ、温かなものが感じられた瞬間でした。

*公演情報*『紳士のための愛と殺人の手引き』 2017年4月8~30日=日生劇場、5月4~7日=梅田芸術劇場メインホール、5月12~14日=キャナルシティ劇場、5月19~21日=愛知県芸術大ホール
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