“なんとなく”入った芸能界で歌に目覚め、演技に目覚める。
『十二夜』写真提供:東宝演劇部
「凄い遡りますね(笑)。僕は、スカウトがきっかけでした。高校の時に自分の学校の文化祭で。そのころちょうど高校生ブームで、学園祭が注目されてたんですよ。人気校でもあったので、そこにスカウトの人が来ていたんです。事務所に入るといっても、僕の側には”なんだか楽しそう”くらいの意識しかなかったですね。俳優とか歌手を自分ができるなんて思っていなかったから、事務所に入っても具体的に何かできるわけではないと思っていました」
――もともと、どんな少年だったのでしょう? 表現に対して興味はあったのですか?
「小学生の時はやんちゃだった記憶があるけど、中学になると静か目な人間だった気がしますね。表現には全然興味がなかったけど、20歳になってギターを弾くようになって、急に興味が出てきました。当時アコースティック・ギターで歌う音楽が流行っていて、僕も自分で曲を作っては、ライブハウスに電話をしていましたね。10枚で1万円みたいなチケットノルマがあって、それさえこなせばだれでも出られるので、月に3,4回ぐらいそういうところを見つけて歌っていました。誰かに聴いてほしいというより、とにかく歌うことが楽しい、仲間とセッションするのも楽しいという理由で、ストリートで歌うこともありました。そういう経験が僕の中には芯のようになっていて、それがすごく楽しかったから今の仕事に取り組むようになったのかなと思います」
――そして小西さんの名前を一躍広めたのが、TVの特撮ドラマ『牙狼』。アクションシーンが豊富な番組でしたが、オーディションではアクション審査もあったのですか?
「ありましたね。後で当時の記録映像を見たら、とてもアクションと呼べるようなものではなかったけれど(笑)。キャスティングって、いかに適役を見つけるか、じゃないですか。『牙狼』の監督はキャスティングについて明確なビジュアル・イメージを持っていて、ご自身もイラストを描く方で、実は審査以前に、(僕の写真を見て)既に決めていらっしゃったそうです。そういう“縁”に引き寄せられたことを、後で痛感しました」
――(13年の映画版まで)『牙狼』には何年も携わっていらっしゃいましたが、ご自身にとっては得るものも大きかったですか?
「そうですね。一番大きかったのは、この番組にはモノづくりのプロフェッショナルがたくさんいて、監督、照明、音響とすべてのメンバーが凄かったんです。深夜放映なのに、深夜番組の規模、もっと言えばテレビの規模を遥かに超えた映画並みのものを2クール、24話分作っていて、毎日朝6時から翌朝の6時まで撮影という生活が半年間続きました。自分は主役だから常に出番があったけれど、キャストは出番がない日もある。でもスタッフの方は各セクションに一人しかいないから、ものすごい仕事量だったと思います。でも、仕事という緊張感はあっても、何よりその仕事が好きだから、やりたいから、楽しいからやっているという方ばかりで。モノづくりの基本というものを教えていただいた気がします」
『レ・ミゼラブル』との、運命の出会い
――そのままテレビでスターになる道もあったかと思いますが、小西さんは07年に『レ・ミゼラブル』でミュージカル・デビュー。敢えて新たな分野に挑戦されたのですね。『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部
でも、よくわからないけど、舞台という世界には稽古があるのはわかっていて、漠然と、そこでなら勉強できる場がある。自分を鍛えて少しでもうまくなれるんじゃないか、というイメージを抱いていたころ、たまたま友達に誘われて初めてミュージカルを観に行ったんです。それが『レ・ミゼラブル』で、その場である役を“やりたい”と思い、すぐ事務所に“オーディションが無いか確認してください”とお願いしたら、半年ほどしてオーディションの知らせをいただいたんです」
――まるで運命に導かれるような展開ですね(笑)。その時“やりたい”と思ったのが、実際に演じたマリウスだったのですか?
「はい、無知ゆえのまっすぐさで(笑)、“やりたい”というより、“絶対やる”と思っていました。なぜこの役かというと、舞台を観た時に、マリウスという役のキャラクターが自分が根本的に持っているものとすごく似ているんじゃないか、と思えたんです。恋に対してまっすぐな部分……もそうだけど、それ以上に、自分が生きる道が見えていないところ(笑)。そのなかでいろいろと考えあぐねていたり、いろんな局面でしてゆく選択の仕方も自分と似ていて、“あの役、やる!”と心に決めていました。オーディションには物凄い気迫で臨んだと思いますが、自分がどれだけできないかを認識していなかったから、ある意味最強なんですよね(笑)。でもいざ演じることになったら、大きな壁がいっぱい出てきて、自分の無力さに打ちのめされました。でも今の自分もそうだけど、僕は“今はできなくても、本番までに出来るようになればいいんだ”と、ちょっと先の自分に希望を持つようにしてました。その希望さえ消えそうになって、自分がここに立ってちゃダメなんだと思うくらいの挫折を味わうことも度々ですが(笑)。それは自分の良いところであり悪いところで、昔から変わらないですね」
――客観的であり、批評的な方なのですね。
「技術的な部分であれば、例えばある音が出れば課題はクリアされますが、演技に関してはどれが正解、というものがなくて、どうすればいいんだろうと当時は本当に迷いがありました。当時の自分に“もっと楽観的にやっちゃえばいいんだよ”と言ってあげたい気もするし、当時考えに考えていた自分を“えらいよ”と言ってあげたい部分もあったりして……複雑なんですよね」
――これまではシリアスな作品、役を演じることが多かったと思いますが、それはご自身で求めていたことでしょうか?
『ブラック メリーポピンズ』(C)Marino Matsushima
僕は欲求が多くて、ミュージカルをやっていれば台詞劇をやりたくなるし、お芝居をやっていると歌が歌いたくなる(笑)。でも、いろいろなジャンルがあっても、それらを繋ぐ“輪”、共通点ははっきりとあるんですよ。その輪に乗れたら、なんでもできるようになるんじゃないか。それはすぐに見つかるものではなくて、きっと何年もかけて探し続けるものなんだろうと思いながら、今は一つ一つの舞台に取り組んでいます」
――観客の側からしても小西さんが舞台に来てくださったことは嬉しい限りですが、ご自身としても、舞台への挑戦は本当に良い選択だった、のではないでしょうか?
「そうですね。作品、脚本、そして演出家との出会い……。得るものが多いですね。舞台だけにこだわってるわけではないですけど、舞台は否が応でも集中して、向き合って観ていただくものなので、演じる側はごまかしがききません。そういう世界で得られる“出会い”は、僕にとってはすごく大きいと思って、大事にしています」
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ひょんなことから芸能界入りし、表現の楽しさ、そして“プロの仕事”に目覚め、“長くやってゆく実力”をつけようと舞台の世界に飛び込んだ小西さん。長期的なヴィジョンを胸に一つ一つの作品に取り組む姿勢には頼もしさが溢れ、いつの日か彼の言う“輪”を探り当て、自由自在の表現者となってゆかれるのでは……と、期待がいや増します。そんな彼が現在、幕が開いてもなお試行錯誤を続け、丁寧に練り上げている『フランケンシュタイン』の二役。アンリが身代わりを決意した理由を歌うナンバー「夢の中で」で、ビクターへの思いを語りながら時折と覗かせる少年のような純真さ、そして本稿でもたびたび登場する怪物と少年のシーンで、“神と自然”に“創造主ビクターと被創造物の自分”を重ね合わせるかのように星空をじっと見上げる哀しくも美しい姿は、特に必見ポイントだとお伝えしておきましょう。
*公演情報*
『フランケンシュタイン』16年9月の製作発表記者会見より。(C)Marino Matsushima