2017年も話題作が目白押しのミュージカル界。その中でも“絶対に見逃せない話題作”、そして“きらりと光る小規模公演”を厳選し、稽古場レポートやインタビューを交えながらご紹介していきます。まずは初春の話題作から!(恒例の「ガイド・松島まり乃が選ぶ!ミュージカル・アワード」2016年版は後日、独立記事として掲載します)

【1~2月の注目ミュージカル】
『お気に召すまま』1月4日~2月4日←観劇レポートUP!
『アイランド』1月19~22日
『手紙』1月20日~2月5日←吉原光夫さんインタビュー&観劇レポートを掲載!
『ビッグ・フィッシュ』2月7~28日←赤根那奈さんインタビュー&観劇レポートを掲載!
『クリエ・ミュージカルコレクション3』2月9日~3月5日

【All Aboutミュージカルで特集した作品】

『フランケンシュタイン』1月8日開幕 出演・小西遼生さんを「気になる新星」でインタビュー!
『キャバレー』1月11日開幕 出演・小池徹平さんを「気になる新星」でインタビュー!
『ロミオ&ジュリエット』1月15日開幕 出演・大野拓朗さん古川雄大さん平間壮一さんをインタビュー!

ビッグ・フィッシュ

17年2月7~28日=日生劇場
『ビッグ・フィッシュ』

『ビッグ・フィッシュ』

【見どころ】
ファンタスティック映画の巨匠ティム・バートンの同名映画を、13年にブロードウェイで舞台化。疎遠だった父と子の愛情物語を軸に、父親が語る奇想天外なエピソードの数々を、親しみやすい音楽(『アダムス・ファミリー』のアンドリュー・リッパ)と舞台ならではの演出で描き、大好評を博したミュージカルが日本に初登場します。

嘘とも本当ともつかぬ物語を繰り出し続けるユニークな父、エドワード役を川平慈英さん、そんな父に辟易する息子ウィル役を浦井健治さん、エドワードの妻サンドラ役を霧矢大夢さん、ウィルの身重の妻ジョセフィーン役を赤根那奈さんが演じ、そのほか藤井隆さん、ROLLYさんらが出演。個性的な顔ぶれではありますが、11月の製作発表では演出の白井晃さん(『マハゴニー市の興亡』)が「初めて一堂に会する場では普通、緊張が走るものなのに、今日は皆さんにこやかで、とても空気があたたかい」とコメント。早くも抜群のチームワークが予想されます。おとぎ話と現実世界が不思議にミックスした物語を、日本ならではの繊細さをプラスし、どう舞台化するか。イマジネーション溢れる舞台に、期待が膨らみます。

【ジョセフィーン役・赤根那奈さんインタビュー】
赤根那奈undefined富山県出身。「夢咲ねね」として宝塚歌劇団星組トップ娘役をつとめ、2015年に退団後、『サンセット大通り』『1789 -バスティーユの恋人たち-』に出演。『ビッグ・フィッシュ』の後は17年5月の『グレート・ギャツビー』に夢咲ねねとして出演を予定している。

赤根那奈 富山県出身。「夢咲ねね」として宝塚歌劇団星組トップ娘役をつとめ、2015年に退団後、『サンセット大通り』『1789 -バスティーユの恋人たち-』に出演。『ビッグ・フィッシュ』の後は17年5月の『グレート・ギャツビー』に夢咲ねねとして出演を予定している。

――赤根さんは以前から、映画版をご存じだったそうですね。

「はい、宝塚(歌劇団)にいた頃、外国の女性を演じる参考にと海外の映画をよく観ていて、黄色いお花畑の中に人物がいる『ビッグ・フィッシュ』のDVDパッケージに惹かれ、手に取りました。とても幻想的な映像で、“ありそうで無い世界”という点は宝塚にも共通していて、引き込まれましたね。今回その舞台版のお話をいただいて、夢やファンタジーの世界であるミュージカルにはぴったりの素材で、新しい『ビッグ・フィッシュ』が生まれるのでは、ととても楽しみになりました。資料を読んだ限りですが、舞台版はより人間ドラマの部分が描き込まれている印象です」

――浦井健治さんとは初共演ですね。

「私が宝塚にいた頃、浦井さんは既に“スター”で、『王家の紋章』『デスノートTHE MUSICAL』、それにストレートプレイの『あわれ彼女は娼婦』と舞台をたくさん拝見していて、“雲の上の方”というイメージがあったので、今回ご一緒できることが信じられないです」

――“雲の上の”とおっしゃいますが、赤根さんもトップ娘役でしたよね(笑)。

「宝塚では何年も同じ組のメンバーとやっていきますが、外の世界ではたくさんの公演が行われていて、その中でいろいろなカンパニーを経験しながら上り詰めて行かれる方って、本当に凄いと思うんです。その中でも浦井さんは“王子様”というイメージがありまして、その方と夫婦役!?、と。

また、今回は以前から、TVドラマで“内面から滲み出るような表現をなさる俳優さんだな”と思いながら拝見していた白井晃さんの演出を受けられるのも楽しみで、自分では気づかないような細やかな表現を引き出していただけるのでは、と予感しています」

――ジョセフィーンという役柄を、現時点でどうとらえていますか?

「嫁という立場なので、家族の芯の部分には入っていけないのですが、だからこそ、父の愛を信じられずに苦しんでいる夫を客観的に見守ることが出来るのかなと思います。そばにいるだけで彼が安らげて、手をさしのべてほしいと思われた時に差し伸べられるような、大きな母性愛を醸し出せたら。そしてお腹に新しい命、夫の父の血を受け継いだ命を宿していて、人間が辿ってきた“道”に加わっている、そういう意味を持った存在であることを表現できたらと思っています」

――宝塚で培った中で今回、生かせそうな部分はありそうですか?
『1789~バスティーユの恋人たち』写真提供:東宝演劇部

『1789~バスティーユの恋人たち』写真提供:東宝演劇部

「12年間在籍した中で、衣裳のさばき方など、体にしみこんでいる部分はありますが、あまり意識しないようにしています。前作の『1789 -バスティーユの恋人たち-』では、稽古で私のお芝居を見た(演出の)小池(修一郎)先生に“やっぱり宝塚の娘役だって(お客様に)思われちゃうよ”と言われまして、自分では宝塚の頃とは声のトーンを変えたりと工夫していただけに、ショックでした。でもそれによって、ガニ股で歩いてみようかな、とか思い切った表現が出来るようになって、自分の中で一つ殻が剥けたような感覚があったんです。リアルな女性の演技に型があるわけではないので難しいけれど、リサーチは大好きなので(笑)、アメリカの女性について調べたりしながら、自分の中で役を作り込んでいきたいですね」

――どんな舞台になりそうでしょうか?

「今回のカンパニーはとても個性の“濃い”方揃いで、皆さんのエネルギーが集まることで、映画版とも、ブロードウェイ版とも違う、新しい『ビッグ・フィッシュ』が生まれるような気がします。お客様が、ご覧になった後に“家族愛”に包まれて、温かな気持ちで劇場を後にしていただけたらとても嬉しいですね」

――宝塚時代から順風満帆のキャリアを築いていらっしゃいますが、今後についてはどんなビジョンをお持ちですか?

「順風満帆なんてとんでもないです。中学生の時に宝塚に憧れて、そこからずっと突っ走ってきたけど、私の中にはずっと“(理想とするパフォーマンスが)できない、苦しい”というコンプレックスがありました。それでも人生のすべてをかけて燃え尽きたことで、退団直後はこれからどう生きたらいいかわからないくらい、自分を持て余してしまったのも事実です。何かはしたい、けれどそれが何かはわからなくて……。

でも、次第に“私がやりたいのはやはりミュージカルなんだ”と思えるようになりました。そもそも宝塚に憧れたのは、こんなにも元気を与えてくれて、幸せにしてくれる世界があるんだと感動したからで、私はそれを作る人でありたい、ものすごく苦しい戦いだけど、それに挑んでいきたいんだと再認識できたんですね。どの作品もそれぞれに難しさがあるけれど、課題に向かって考えながら、どきどきしながら集中していく。そういう作業が私はとても好きなんです。宝塚時代から心がけてきたことではありますが、どんなお役を演じるにしても、女性のお客様が共感できるような“媚びない女性”を演じていけたら、と思っています」

【観劇レポート】
ささやかな人生を“英雄の人生”へと変えてゆく
愛と想像力の果てしない物語

『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

いつも物事を大袈裟に語る父エドワードから、“想像力があればお前もヒーローになれる、人生のヒーローになるんだ”と言われ育ったウィル。幼いころはそんな父の物語りを喜んで聞いていたが、成人した今は父の“ほら話”が疎ましいものでしかない。父の病を知り、里帰りしたウィルは、彼が長年抱えていた“ある秘密”を知ることになる……。
『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

CGを駆使しためくるめく映像が圧倒的な映画版に対し、同一の脚本家(ジョン・オーガスト)が手掛けた舞台版は、親しみやすいメロディとダンスがふんだんに盛り込まれ、芸達者なキャストが大車輪の活躍を見せる、ライブの魅力たっぷりの作品。白井晃さんが演出を担当する今回の日本版では、そこにシンプルながら静謐な美を称えたプロジェクション・マッピングと“明と暗”、とりわけ闇を効果的に使った照明が加わることで、とある家族の父、母、息子それぞれの愛、そして(受け継がれてゆく)魂の永遠性をくっきりと描き出します。
『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

その類まれなエンターテイナー・スピリットと巧みなステップ、のびやかな歌声で“アメリカの一地方の親父”エドワードの大ぼら話をチャーミングに物語り、観る者を引き込まずにはいられない川平慈英さんと、力強い歌声、台詞の中に融通の利かない、真面目な空気感を漂わせ、エドワードとの対立を表現するウィル役・浦井健治さん。二人のキャラクター造型が見事なまでに対照的であることで、終盤、そんな二人がとっさに心を合わせ、エドワードのエンディングを、想像力を頼りに創り出してゆくくだりは感動的です。また夫を、息子を静かに見守り、彼らの精神的な支柱となるエドワードの妻サンドラ役・霧矢大夢さんは、愛情深いたたずまいがモノクローム時代のハリウッド映画ヒロインのようなたおやかさで、10代、30代、老年の3つの年代の演じ分けも的確。エドワードの偶像として登場する際には、端正なダンスも見せています。ウィルの新妻ジョセフィーン役の赤根那奈さんも、落ち着いた声の出どころにジャーナリストである彼女の知性を滲ませ、新たな命を宿した重要な役どころに存在感を与えています。
『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

藤井隆さん、JKim さん、ROLLYさんらその他のキャストも、それぞれの味を生かした演技で複数の役を演じ分け、“ほら話”が“現実”になるラストを温かく盛り上げます。涙無しには観られない一つのささやかな、しかし幸福な人生の物語の後味は、この上なく爽やか。不穏で殺伐としたニュースが駆け巡る昨今、“かけがえのない、大切な人”を誘い、観に行きたい舞台です。
『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部

『ビッグ・フィッシュ』写真提供:東宝演劇部


手紙

1月20日~2月5日=新国立劇場小劇場、2月11~12月=新神戸オリエンタル劇場

【見どころ】
『手紙』

『手紙』

殺人者の兄を持つ青年の苦難の日々を描き、ベストセラーとなった東野圭吾の小説『手紙』。この作品を『アラジン』『ノートルダムの鐘』等の訳詞で知られる高橋知伽江さん(過去のインタビューはこちら)の脚本、深沢桂子さんの音楽で舞台化、今年1~2月の初演が大きな話題を呼んだミュージカルが、早くも再登場と相成りました。“再演”という言葉を敢えて使わず、様々にブラッシュアップをほどこす2017年版の舞台では、兄役の吉原光夫さん(過去のインタビューはこちら)が続投のいっぽう、主人公・直貴役の柳下大さん、太田基裕さん(ダブルキャスト)をはじめ、過半数のキャストが入れ替え。カンパニーのカラーの変化にともない、例えば実際に音楽活動を行っているバンド仲間役の藤田玲さん、GO IRIS WATANABEさんにインスパイアされ、彼らのシーンで新曲が登場する(予定)など、それぞれの持ち味がいかんなく発揮される模様です。オリジナル・ミュージカルだからこそのフレキシブルな創作環境で、新たにどんな舞台が生まれるのか、注目が集まります。

【兄役・吉原光夫さんインタビュー】
「生まれたら、生き抜くしかない。そんな人間の“儚さ”を描く作品だと思います」
ミュージカル『手紙』稽古より。(C)Marino Matsushima

ミュージカル『手紙』稽古より、剛志役・吉原光夫、直貴役・太田基裕 (C)Marino Matsushima

――とても重い題材を扱った本作に、吉原さんはなぜ再び取り組もうと思ったのですか?

「僕は日本で日本人による、日本らしいオリジナルミュージカルの上演がすごく数少ないことに役者をやっていく中で疑問を持っていまして、そんな自分が今回のような作品をやらなくてどうする、という思いがあります。もう一つは(脚本・作詞の高橋)知伽江さん、おけい(作曲の深沢桂子)さん、(演出の藤田)俊太郎というチームとの絆、繋がりが大きいです」

――“日本らしい”というのは?

「海外ミュージカルを日本で翻訳上演すると、決まったメロディに無理やり歌詞をはめ込まなくてはいけなかったり語感の問題というのがあって、演じる側には“後はこれをどう演技とミックスして雰囲気として伝えるか”という難しい勝負があります。これまで出演した『ジャージー・ボーイズ』にしても『グランドホテル』にしても、僕はいつも翻訳の方にお願いして台本を直訳していただき、それを読んでからとりかかるけど、例えば『レ・ミゼラブル』で“心の中にぽっかりとあいた穴”という意味の“void”という言葉が(日本語は英語より多くの音を必要とするため)訳詞だと“闇”という簡潔な語になっていたりして、もとのニュアンスは伝えきれない。それ以前に、欧米の作者がある時代に、彼ら独自の文化や価値観のもとに何かを訴えようと作った作品を日本で上演するとき、どれだけの意図が伝わるのかという問題もあって、海外ものって難しいなと感じるんですよね。

今回のように、日本人の書いた楽曲に日本語が乗ってくると、やっぱり“全てが伝わる”って大事だなと思うし、知伽江さんとおけいさんは(稽古中の)今でも“(メロディに乗ると)聞こえにくいからこの言葉は変えよう”といった作業をされていて、とてもフレキシブル。(原作者)東野圭吾さんが書かれた、加害者の家族の問題という、社会が隠しながらも実は深く渦巻いている日本的な問題を(ミュージカルを通して)提示することも、非常に意義があることだと思います」
ミュージカル『手紙』稽古より。(C)Marino Matsushima

ミュージカル『手紙』稽古より、剛志役・吉原光夫、囚人役・川口竜也(C)Marino Matsushima

――今回の“再挑戦”では、曲の入れ替えなどの他、幕切れの表現が変わったりと、意欲的な変化があるようですね。

「クリエイトが好きな僕にとって、この現場は至福の喜びですね。知伽江さん、おけいさん、俊太郎と集まって、日々いろんなやり方を試しています。完成系を目指すというより、2017年の着地点をお見せするような感じです。

ラストの表現に関しては、出演者含め全員で意見を出し合って、長時間ワークショップをして決めました。今回は俊太郎も俺も、まず“コロス芝居”をやりたいと考えて、最初と最後をコロスが歌い上げます。コロスというのはもともと、古代ギリシャ演劇で今何が起きているかを補足したりするために、客席の中から立ち上がって喋ったのがスタートで、お客さんから代表者、お客さんの心情を継いだ人が出るのが前提なんです。僕たちが描く主人公たちの問題はすぐに解決するようなことではなくて、最終的には一人一人の生命力やパッションにかかっていると思うけど、今回の公演では僕らはこう思っています、ということをコロスを通して言語化しているので、前回よりも明確なメッセージになっていると思います」

――吉原さん演じる殺人犯の剛志は、罪びとであるという点では『レ・ミゼラブル』の持ち役、ジャン・バルジャンとも共通しています。

「自分の中で意識しているものは一緒のような気がしますね。役作りの参考に借りるDVDの傾向は似てきます(笑)。過ちを犯した人間がそれを自覚して、最後に大きなものを乗り越えてゆくという作品はよく観ますね。

原作を読むと、決して裕福ではなかったけど両親もいて食べるものにも困らずに育った自分は、いかに恵まれていたんだろうと痛感しますね。近所には、実際そういう境遇の子どもたちもいて、一緒に遊んでいましたから。東野さんはおそらく、ある時代に不幸な状況に生まれた人間の“なぜ”と“それでも生きていかなければならない”ことを描いていらっしゃるのだと思う。生きるに値しない世の中に生まれても、自分がどう生きるかがポイントであって、世間のせいにするべきじゃないと。国の制度に守ってもらうというようなことではなく、どう強くサバイバルしていくか。どんな境遇でも、生まれたら、生きるしかない。そういう、人間の儚さまでも描かれた作品だと思います」

――今回、弟の直貴役は柳下大さん、太田基裕さんのダブルキャストです。
ミュージカル『手紙』稽古より。(C)Marino Matsushima

『手紙』稽古より、直貴役・柳下大 写真提供:NO4

「柳下は感受性が強く、ちょっと向こう見ずな感じですね。こうだと思ったら驀進していくけど違う方向に行っても気づかなくて、誰かにとめてもらわないといけない。でも集中力や貫く力が強い。(太田)もっくんは割と直貴に近いところがあって、すごく周りを配慮している。周りの空気をみながら、言っていいこと悪いことを咀嚼して、言葉少なく人と交流してる感じがすごく直貴っぽい。全然違う、二人の直貴を観ていただけると思いますよ」

【観劇レポート】
厳しくも愛情あふるる歌声の束が“今”を生き抜く勇気を与える舞台
『手紙』よりundefined直貴役・太田基裕

『手紙』より 直貴役・太田基裕

五十嵐可絵さん、山本紗也加さんら、それぞれに力強い声を持つアンサンブル(本作では“コロス”と呼ばれる)が世間の非情さを歌いつぐなか描かれる、貧しさに追い詰められて偶発的に人を殺めた兄のため、人生が一変してしまう弟の物語。“犯罪者の家族”である直貴はアパートを追い出され、絶望に打ちひしがれながら息をひそめて暮らすが、工場の同僚・由美子や高校の友人・祐輔らの励ましで、もう一度夢を持って生きようと決意。しかしことあるごとに人々の偏見に道を塞がれ、獄中の兄・剛志から届き続ける手紙(唯一の肉親との絆)を疎ましく思い始める……。

原作に描かれた、“犯罪者の家族はどう生き、社会は彼らにどう接するべきなのか”という、容易には答えの出ない問いを抱えながら、今回の舞台はラストの一曲にこめられた“メッセージ”へと、力強く進んでゆきます。
『手紙』直貴役・柳下大

『手紙』直貴役・柳下大

直貴に“いつ出てってもらえるか”としたでに話しかけていたのが、本心を歌う段になると悪意剥き出しの声にがらりと変わるアパートの大家役、川口竜也さん。刑務所に面会に来た弟に詫び、彼が去った後“どうして生まれてきたのか、俺さえいなければ”と思いを叫ぶ兄役・吉原光夫さんの、はらわたをえぐるような歌声。小此木まりさん演じる由美子が直貴に向かって“あなたの逃げる姿もう見たくないの”と歌う際、“の”の音にピタリと連動して彼女の思いを強調する、土屋玲子さんのヴァイオリン。もがき続けても出口が見えず、社長にとりすがって言う“どうすればいいんですか”に演技を超えた迫真性が滲む直貴役(ダブルキャスト)・太田基裕さん。社会の不条理に対して憤り、決断を下す瞬間に直貴(ダブルキャスト)本来の骨っぽさを覗かせる柳下大さん。直貴の兄がいる刑務所への慰問公演で、なんとか直貴の言葉を引き出そうとし、その飾らない優しさがどん底の人間にも希望があることをうかがわせる友人役、藤田玲さん……。
『手紙』

『手紙』

出演者・演奏者の一人一人が心をこめて物語を紡ぎ、そして到達するラストのナンバーでは、“この世界に~”“たった二人だけの~”とフレーズ最後を伸ばし、その後に来る一語“きょうだい”を際立たせ、と短いセンテンスで多くを表現する日本語独特の豊かさが発揮されつつ(作曲=深沢桂子さん、作詞=高橋知伽江さん)、直貴のみならず観るものすべてに向けたメッセージが発信されます。“負”のテーマが圧倒的な中で、厳しくも愛情あふるる声の束が聴く者の背中を押す。そして“今”を生きる勇気を与える、新生『手紙』です。

*次頁で『お気に召すまま』ほかをご紹介します!