ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2016年11~12月の注目!ミュージカル(4ページ目)

早くも年の瀬。様々なイベントで気ぜわしいこの頃ですが、まだまだ見逃せない演目が続々登場。人間の内面を深く掘り下げた再演舞台『貴婦人の訪問』『Play a Life』から新作『マーダー・バラッド』『わたしは真悟』まで、目の離せないミュージカルを厳選、ご紹介します。随時追記する観劇レポートもお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

嵐の中の子どもたち

12月23日~1月9日=自由劇場
『嵐の中の子供たち』

『嵐の中の子どもたち』

【見どころ】
81年に初演、全国公演などで上演を重ねてきたファミリー・ミュージカルが、自由劇場に初登場。アイバン・サウスオールの『ヒルズ・エンド』(嵐によって孤立することになったオーストラリアの子どもたちのサバイバル物語)とヘンリー・ウィンターヘルトの『子どもだけの町』(子供たちのいたずらのせいで大人たちが町からいなくなってしまう物語)を原作とし、嵐に見舞われた村で生き抜く18人の子供たちの姿を描きます。

近年、様々な天災に見舞われている日本では決して“遠くない”身につまされるテーマでもありますが、対立を乗り越え、「友情」「信頼」「思いやり」など、人としての“根っこ”を少しずつ学び、心を合わせて困難に立ち向かってゆく子供たちの姿からは、きっと明日を生きる「勇気」が湧いてくることでしょう。子供たちを体当たりで演じる劇団四季の若手(新人)俳優たちの奮闘、そして終演後ロビーでの、彼らによる「お見送り」も楽しみな舞台です。

【観劇ミニ・レポート】

『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

幕が開くと、そこでは村の開拓記念日を祝う人々が集まり、楽しくダンス……と思いきや、二つの子供グループの喧嘩が勃発。『ウェストサイド物語』さながらのスリリングな立ち回りを皮切りに、本作では対照的な二組の子供たちが、“子供だけで村に取り残され被災する”という絶体絶命の状況を機に、対立から協力、再び対立、そして……と、少しずつ成長してゆく姿を、台詞や歌のみならず、ふんだんなダンスを通して描いてゆきます。

他のファミリーミュージカルと比べても動きが多く、ハードに見える本作ですが、演じる若手俳優たちはいたって溌溂。振付(山田卓さん)に頻出する、20人近い子供たちが舞台に一列に並び、同じ動きを行う場面での息の合い方、客席に放たれる“気”は圧倒的です。特に乱暴者(と思われている)“山賊団”のリーダー・ボブ役、田邊祐真さんの気概溢れるダンスは、見どころの一つ。二つのグループの仲がひどくこじれてしまった瞬間に「すてきな仲間」を歌い、和解を訴えるビッキ―役、長谷川彩乃さんのまっすぐな歌声も光ります。
『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

『嵐の中の子どもたち』撮影:下坂敦俊

天災がモチーフの一つとなっているだけに、本作には“かわいらしい児童文学”の枠におさめてはならないシリアスさがありますが、この子供たちが終盤に起こす一つの奇跡は、様々なシチュエーションで絶望の淵にある人々にも、小さな希望を見せてくれるのではないでしょうか。

なお、重いテーマを扱っているだけに小さい子供にはどう見えるだろうと思いつつ、今回、筆者の6歳の子を連れていったところ、“ダンスがたくさんで楽しかった”と、自分の好きな要素を中心に楽しんでいた模様。また子供役がたくさん出てくるのがツボで、上演中、舞台と手元のパンフレットの人物紹介イラストを懸命に見比べながら、“私のお気に入りさんは……”と、終演後の“お見送り”で握手していただくお目当てのキャラクターを探していました。シェイクスピア劇や蒸気機関車の操作に関する台詞などもあり、文学や考古学、理科への興味も少しずつ刺激してくれる作品です。

【今月上映の話題の映画】

戦火の馬』(ナショナル・シアター・ライブ)

11月11~16日=TOHOシネマズ(日本橋、六本木ヒルズ、梅田、天神ほか)
『戦火の馬 War Horse』(C) Brinkhoff Mo?genburg

『戦火の馬 War Horse』(C) Brinkhoff Mögenburg

【見どころ】
マイケル・モーパーゴの小説を3人遣いのパペットを取り入れて07年に英国ナショナル・シアターが初演、世界的なセンセーションを巻き起こした舞台が、1週間限定で日本の映画館でも上映。飼い主の少年から引き離されて戦地へ送られた馬ジョーイと、彼に関わる少年、英国兵、ドイツ兵、そしてフランスの農家の少女たちの運命が描かれます。

等身大の馬のパペットを滑らかに操作するパペット遣いたちの動きも迫真のカメラワークで堪能できますが、劇中折々に登場する「ソングマン」にもご注目。直接的な“ナレーション”ではなく、場面の時代を彩るオリジナル曲をアイルランド民謡風に無心に歌う歌手が素晴らしい。幕間の「おまけ映像」として作者モーパーゴと演出家マリアンヌ・エリオットも登場、ユーモアを交えてポイントを語ってくれます。

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