必要成分が入っていなくてトクホ取り消し…トクホの信頼性は?
最近やっと耳慣れてきた「トクホ」。詳しくは知らないけど健康によさそう、というイメージを持っている方も多いかもしれません。消費として、どのようにトクホと付き合っていくのがよいのでしょうか。
トクホが誕生したのは1991年。健康食品に偽装が多かったため、当時の厚生省(現・厚生労働省)がきちんと国で審査して商品を差別化し、どの商品が健康のために役立つのかを明示する目的で作られました。その後、2016年10月現在までに1200を超える商品が登録されています。
ところが最近、消費者庁の目をかいくぐり、表示どおりの関与成分が含まれていないにも関わらず、トクホとして販売が継続されている商品があることが分かりました。対象となった6品目はトクホの許可を取り消されるという事態になったのですが、なぜこのようなことが起きたのでしょう。私たちは「トクホ」をどのように利用していけばよいのでしょうか?
「トクホ」の実態は、企業の良心を信じるしかない?
まず最初に、なぜ今回このような事態が起きてしまったのか、原因を考えてみます。そもそもトクホが誕生した1991年には、トクホ商品は2年に1回、審査を受けなおす必要がありました。しかしそれが2年に1回から4年に1回に延長され、1997年には「永久ライセンス」となります。つまり、一旦トクホを取得してしまえば、あとは審査なしでその商品についてはトクホとして販売ができるということです。その後、2009年に「消費者庁」が誕生し、トクホの管轄は厚労省から消費者庁に移管することになりました。その一方で、生鮮食料品も含めた食材や商品は、日々アップデートしています。消費者の嗜好の変化にあわせて、材料の調達具合を見直したり、新しく開発した製法を使うことで、変わっていくのです。お菓子等でよく聞く「リニューアル」という言葉を目にすることがあると思います。もちろん、リニューアルすることが悪いわけではありません。多くの場合、消費者は、企業の努力によってより美味しい製品、より安価な製品、より安全な製品を口にすることができるようになるからです。
しかし、トクホ製品の場合、リニューアルされることによって関与成分の含有量が減ってしまったり、関与成分がまったく含まれなくなってしまうことも考えられます。それでも「永久ライセンス」である以上、消費者庁にはチェックする義務も機能もありません。企業側はリニューアルした際の製法や原材料では表示どおりの関与成分が含まれなくなってしまった場合は失効届を提出し、トクホの許可を取り下げることになっています。しかし、消費者庁への届出は申請時のみですから、基本的に商品の変更後の関与成分の含有量のチェックは企業の良心のみに任されているのが現状なのです。
トクホは「サプリメント」の一部として心得ることが大切
現在では、トクホのほかに「機能性表示食品」という制度もあり、行政の力で「健康によい」ことを強調することができる表示が増えています。トクホと機能性表示食品の違いについて簡単におさらいしてみましょう。
■トクホ(特定機能食品)
「その商品」で実験した結果について、消費者庁で審査を受ける。
■機能性表示食品
その商品に含まれている「栄養成分」に健康効果があることを論文等で調べて消費者庁に届けて受理されたもの。商品については検討されない。
こう比べてみると、その商品自体の結果を見ているトクホの有用性は高いようにも感じられるかもしれません。トクホと「機能性表示食品」については「管理栄養士さんに質問!「食品表示」の注意点は」記事に詳しく解説していますので、こちらもご参照下さい。
そんなトクホですが、「健康になるような気がする食品」と陰口を言う人もいるようです。実際、普通の食材にもトクホほどの濃度ではありませんが、有効成分は含まれています(「トクホの成分は、いつもの食べ物にも含まれています」に詳述)。また、残念ながらトクホは食品なので「1粒で血糖値が正常になる」といったようなことはありません。1粒で血糖値が正常になるなら、薬として使われるべきです。
それでも、「この効果が薬ではなく食品で得られるなら、副作用もないだろうからありがたい」「数十円の差で健康が得られるなら安いものだ」と考える人もいると思います。
人間は不思議なもので、思い込むとその通りになっていくことがあります。病院で眠れないと訴える患者様に看護師がお菓子のラムネを「眠れるようになる薬」と言って飲ませると、本当にすやすや眠ることができた…といったこともよくある話です。もちろん、ラムネに睡眠薬を含ませているわけではなく、「眠れる薬を飲んだから大丈夫」という思い込みで眠りにつくことができるのです。トクホも同じように「血圧が下がる」と書いてある商品を飲んだら実際に血圧が下がるということは十分に考えられます。逆に、効果がなかったとしても「薬じゃないからね」「まだ飲んで日が浅いからね」と自分で解釈できるかもしれません。
だとすれば、トクホは「飲んでいることで安心感を得る」「自分の身体によいことをしたという満足を得る」ことを目的として考え、薬のような効果を過剰に期待しないことが消費者として、最も適したスタンスにある商品なのかもしれません。
そう思うと、トクホは「サプリメントの一部」といった位置づけで考えると、選びやすいのかもしれません。
まったくの余談ですが、私自身はトクホも購入はしていません。「薬を飲みたくないから栄養士になった」人間ですので、食品はできるだけ自然のものを使いたいのです(もちろん、完全に加工食品を使わない生活はできませんが……)。
健康に過ごすこと、は誰しもが願うことですが、健康な身体の基本はまず食事と運動から。ぜひ、この鉄則だけは忘れずに、上手にトクホとも付き合っていってください。