『ロミオ&ジュリエット』観劇レポート
よりリアルに、痛みをもって描かれる
愛と“対立の克服”ドラマ
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
青空の下、剥き出しの鉄骨がそそり立ち、二組の若者グループが現れる。“ヴェローナ”や“マントヴァ”といった固有名詞が登場しながらも、そこに漂うのは多分に無国籍、かつ(スマホでメールのやりとりもする)現代的な空気感。群舞にマーシャルアーツ的な動きを多く取り入れ、男も女もなく激しい立ち回りを見せることで、今回の日本版『ロミオ&ジュリエット』はまず、二つのグループの「対立」を強調します。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
両者の間に長く存在する憎悪に加え、彼らが抱える個人的な問題への鬱憤も巻き込んだ「対立」は、次第に緊張の度合いを増し、一触即発の状態。その中で生まれた一つの「愛」は、「対立」を溶解させ、街に平和をもたらす可能性を秘めていたが、そのことに気づく者はあまりにも少なかった……。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
岡幸二郎さん(キャピュレット卿)、岸祐二さん(ヴェローナ大公)、坂元健児さん(ロレンス神父)、秋園美緒さん(モンタギュー夫人)らのパッション迸る歌声が「対立」の根深さに説得力を与え、シルビア・グラブさん(乳母)のダイナミックな歌声はどんな世も生き抜くバイタリティを体現。また香寿たつきさん(キャピュレット夫人)の情感と色香に溢れた歌声が繊細な女心を表現……と、大人たちを演じるキャストが作品世界の輪郭を力強く浮き彫りにする中で、若者たちも躍動。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
ロミオの盟友であり世の中を俯瞰でとらえる感性も持ち合わせるこの日のベンヴォーリオ役、矢崎広さんは“やんちゃ坊主”にして“いい奴”の役どころがぴたりとはまり、悲劇の端緒を作ることになるこの日のマーキューシオ役、小野賢章さんはちょっとした動きに切れがあり、危うい空気を滲ませます。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
キャピュレット家の跡取りティボルトを、セクシーな肌見せ衣裳もさらりと着こなしてこの日演じた広瀬友祐さんは、30歳を過ぎてもなお思うがままに生きられない哀しみをモンタギュー家との諍いで爆発させ、キャピュレット夫人ならずとも魅力的。そしてこの日のロミオ役、大野拓朗さんは全くナイーブというわけではない青年が初めて真実の恋に目覚め、猪突猛進してゆく過程を、説得力ある台詞と真っすぐな歌声で演じ切っています。今回が初舞台だというジュリエット役・木下晴香さんは張りのある声で危なげのない歌唱。
『ロミオ&ジュリエット』撮影:田中亜紀
ロミオや街の人々が死を意識するとき、あるいはそれが間近になると現れて舞う“死”役は今回、若者たちの動きがよりアグレッシブな分、静的な印象。この日演じた宮尾俊太郎さん(Kバレエカンパニー)は片足に重心を置く静止ポーズ、そこからゆっくりと変化してゆく姿勢など一刻一刻が美しく、目が離せません。彼が十字架上で最後の瞬間に見せる動きは、果たして何を意味するのか。そこに希望はあるのか、その逆か。彼の動きの残像とともに、いつまでも余韻の残る幕切れです。