世界中で空前の大ブームを起こしているポケモンGO
スマートフォンのポケモンが世界中で大ブームって、なんだかそれだけですごい話です
また、毎日のようにポケモンGOにまつわる珍事が話題になっています。ポケモンをたくさん出現させるアイテムを使ったレストランで大変な売上があがったり、格闘家のミルコ・クロコップが空港でポケモンを探す動画がInstagramにアップされたり、果てはまだリリースもされていない日本で内閣官房セキュリティーセンターが遊び方の注意を呼びかけるなど、もうなんだかわけのわからない状態になっています。
この大変な熱狂ぶりを受けて、任天堂の株価も急上昇しています。7営業日で株価は2倍以上に膨れ上がり、時価総額は4兆5000億円ほどに。1日の売買代金が7000億円を超えて個別銘柄としての過去最高記録を更新。このとき東証一部の全体の規模が約3兆円だったので、任天堂株だけで2割以上を占めているという、なんだかとんでもない話です。
さて、日本でもまもなく公開されると言われているポケモンGO。もしかしたらこの記事が配信されるタイミングではもう公開されているかもしれません(編注:7月22日、日本でも配信が開始されました)が、今回は、そのビジネス的な影響についてお話してみたいと思います。任天堂の取り組みとして考えた時のポケモンGOは、他のゲームソフトの販売とはちょっと意味が違います。そしてそれは、岩田前社長が生前掲げていた任天堂の方針と強く結びついています。
ポケモンGOの配信元は任天堂ではない
ポケモンGOは現実世界とリンクした地図を頼りに、実際に自分が外に出かけて行ってポケモンを探すゲームです
なぜなら、ポケモンGOの配信元は任天堂ではないからです。ポケモンGOを配信しているのはNianticという企業で、これは元々Googleの研究チームでした。ポケモンGOのもとになっている、Ingressというゲームがあります。地図情報や位置情報をもとに、現実世界にある場所の陣地取りをするというゲームで大変にヒットしました。これを開発したのがGoogleのNianticラボで、このNianticラボが独立して、Nianticという企業になったのです。
Nianticは元々ラボのあったGoogleだけでなく、ポケモンと任天堂からも出資を得ていますし、ポケモンGOはNiantic、ポケモン、任天堂の3社が提携して配信したアプリですから、任天堂の業績にも良い影響を与えるはずですが、冒頭紹介したような膨大な売り上げがそのまま任天堂の売上なる、というわけではありません。
任天堂が担当するポケモンGO Plus
モンスターボールのようなデザインは、ポケモンが好きなユーザーからすると、それだけで欲しくなる人もいそうですね
ポケモンGOというゲームは、現実の世界の中で地図を頼りに近くにいるポケモンを探して捕まえるわけですが、このポケモンGO Plusは、アプリと連動して近くにポケモンがいると振動と光で教えてくれる、という装置なんです。ボタンを押すことでポケモンを捕まえるといった基本操作も行えるということで、歩きながらスマートフォンの画面を見ていて事故に遭ってしまう、ということが無いように遊べる道具なんですね。
これを聞いてなんとなく思い浮かぶのは……やっぱり妖怪ウォッチですよね。ポケモンGOが爆発的に流行ったとき、このポケモンGO Plusも人気が出て品薄になるのでは、ということは誰でもちょっと考えます。
実際、イギリスでは、任天堂による公式サイトにて予約を開始したところ、あっという間に申し込みが殺到して品切れになってしまった、という報道も出ています。
ポケットモンスター サン・ムーンへの影響
ポケモンGOというキラーアプリによって、ポケモンというブランド全体が盛り上がっていきます
ポケモンシリーズというのは、大人のユーザーももちろんたくさんいますが、メインターゲットは子ども層です。しかしポケモンGOはスマートフォン向けのアプリです。このスマートフォン向けのアプリが、史上稀に見る規模とスピードでダウンロードされ、そして課金されているということを考えると、これは現在アクティブなポケモンユーザー以上の、相当規模の大人層が遊んでいることは想像に難くありません。
彼らはかつてポケモントレーナーだった少年少女かもしれませんし、大変な話題に引き寄せられてポケモンを始めた新米トレーナーかもしれません。
ポケモンシリーズ最新作の「ポケットモンスター サン・ムーン」ではポケモンGOとの連動も予定されています。ポケモンGOを機会に久々にポケモン本編をやってみようと思うユーザーもいるかもしれませんし、お父さんがスマートフォンでポケモンGOをしているので、子どもにはニンテンドー3DSのポケモンを買ってあげて親子で楽しもうと思う人もいるかもしれません。
ガンホー・オンラインエンターテイメントがスマートフォンでパズル&ドラゴンズをヒットさせた後、ニンテンドー3DSで「パズドラクロス」を発売してスマートフォンで取り切れない子ども層を狙いにいきました。ポケモンGOはその逆で、本編のポケモンから卒業した大人たちに再びリーチするゲームとなっているかもしれません。
そしてもし、ポケモンGOが盛り上がることで、ポケットモンスター サン・ムーンも盛り上がっていくのであれば、それは、亡くなった任天堂の元社長、岩田聡氏が掲げていた任天堂のこれからの方向性を実現するものになるかもしれません。
IPを積極的に活用して、接触機会を増やす
ポケモンが好きな人が増えるだけで、それが力になります(イラスト 橋本モチチ)
その岩田氏が生前掲げていた任天堂の方針の中に、IP(知的財産)の活用とスマートフォンなどのモバイル端末の進出がありました。
経営方針説明会などでたびたび説明されてきたことは、これまで消極的だったゲームのキャラクターや世界観といったIPの活用に関し、適切なパートナーを探して積極的に行っていくということ。そして、スマートフォンなどを通してより強くユーザーと関係を作っていくことを考えていて、その為であれば自社のキャラクターを使うことも、ゲームアプリを開発することも行っていく、ということでした。
そういった中で、任天堂のキャラクターを使ったゲームと連動するフィギュアの「amiibo」が誕生したり、Miiを使ったモバイル端末向けアプリのMiitomoがリリースされたりしてきました。そしてポケモンGOは、任天堂、ポケモン、Nianticという、これ以上ないぐらいに強力かつ、ゲームの魅力を十二分に引き出せるチームが、スマートデバイス上で新たなポケモンの世界を、新たなポケモントレーナーたちを作ろうとしています。
ポケモンGOの世界的な熱狂は、岩田氏が思い描いていた次の時代の任天堂の第一歩であるように思います。ポケモンGOのような形で、モバイル端末向けの分野においても新しくて驚きのあるゲームで、ユーザーと強い繋がりを持つことができるのであれば、それは非常に大きな価値をもたらすかもしれません。
ゲームのような業界においては、ポケモン超盛り上がってるじゃん、任天堂面白いことやってんな、とたくさんの人が思うだけで、それはものすごい力になるのです。
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