誰かの、何かの“きっかけ”になれる
俳優を目指したい
『リトル・マーメイド』(2013年)撮影:下坂敦俊
「演出補の方は、1幕はアリエルが中心の物語だが、2幕はエリックの心の成長物語なのだとおっしゃっていました。確かに2幕では、エリックの心の持ちようがガラッと変わるんですね。「一歩ずつ」のナンバーで、がらりと。それを動きと歌で示しなさい、ということを振付の方もおっしゃっていました。エリックの求めていたものが何だったのかがわかるから面白いんだよ、と。ファンタジー世界の物語ではありますが、エリックの悩みについては共感できる部分もありましたので、ファンタジーだからやりにくいというのはありませんでした。自分の引き出しから引き出せたような気がします」
――この作品は劇団四季のレパートリーの中でも、最も小さい女の子の観客が多い演目のような気がします。
「そうですよね、かわいいですよね。カーテンコールで女の子たちが手を振ってくれたり、時々アリエルの扮装をした子もいたりして、舞台からかわいいなあと思って見ていますね」
――昨年は『コーラスライン』でポールとマイクの二役を演じました。筆者はマイク役を拝見しましたが、役を獲得しようと熱心に取り組む姿がとてもリアルで良かったですね。
『コーラスライン』(2015年)撮影:下坂敦俊
いっぽう、ポールも魅力的な役で、マイクとは正反対の役でしたが、全く苦にはならなかったですね。もちろん役作りでは悩みましたが、いい悩みだったと思います。この二役と自分を比べると、はじめは僕はポール寄りかなと思っていたけど、全国ツアーで先輩方といろいろ話していると、“一哉は本当は陽の部分が多いんだよ。でも、何かしなきゃいけない、きちんとしなくちゃいけない、というのが多いんじゃない?”と言われて、そうか、僕はマイク寄りなのかもしれない、と思えるようになりました。どちらも挑戦させていただけて、本当に有難かったですね」
『コーラスライン』(2015年)撮影:下坂敦俊
「これまでやっていないので、ストレートプレイをやりたいです。これまでいろいろな作品をやらせていただいて、毎回多くの発見があるのですが、まだまだだと感じますので、さまざまなタイプの役をやって、いろんな面で成長したいですね。自分で言うのは変かもしれませんが、まだまだ伸びしろはある、と思っています(笑)。今回も周囲からは“リフ役?”と驚かれたりしましたが、例えばコミカルな役とかもやってみたいですね」
――劇団四季で在籍11年。このカンパニーの良さをどう感じていますか?
「劇団員のメリットは大きいと思います。一流の先生方のレッスンを受けることが出来ますし、なにより、レベルの高い先輩方がたくさんいらして、ご一緒にお稽古して同じ舞台に立てる。僕はまだまだ先輩方が走っていらっしゃる後を追いかけている途中で、まだその背中は大きくて超えられませんが、追いかけつつも同時に切磋琢磨できるというのが、劇団の良さなのかな。目標とするものが身近にあるので、ここにいて本当に良かったと思いますし、僕自身、まだまだ成長していきたいです」
――今後について、どんなビジョンを抱いていらっしゃいますか?
「これまで有難いことにいろいろやらせていただいて、東北に行かせていただいたり、子供たちとも触れ合ってきたなかで、改めて、僕はご覧くださったかたの“きっかけ”になれたら、と思っています。時々、お手紙をいただいて“私も頑張ろうと思いました”とか“このお芝居を観てダンスを始めたくなりました”と書かれていたりするのですが、どんな小さなことでもいいので、ご覧になった方の何かのきっかけになれたら。こんな僕でも舞台で頑張っているよという姿を見ていただいて、それがその方の何かのきっかけになれば。舞台人としても一人の人間としても、そうありたいと願っています」
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作品のテーマなど、大きな質問に対しては「うーん」と真剣に悩み、「簡単には言葉にできないです」と語っていた上川さん。“誠実そのもの”の姿勢、そしてこの上なく優しいまなざしはエリック王子にぴったりですが、そんな彼が演じるからこそ、『ウェストサイド物語』のリフ役にはこれまでにない、“放っておけない弟分”の風情が色濃く漂い、新鮮です。今回の役柄で一つ、役の幅を広げた彼が、今後どのように、さらなる成長を遂げてゆくか。好青年だけどちょっと能天気、ダンス力必須で名曲もたくさん歌う“あの”四季レパートリーのお役など、いかがでしょう? これからが楽しみな“ホープ”です。
*公演情報*
『ウェストサイド物語』上演中~5月8日=四季劇場「秋」、6月25日~=全国公演