凶器を手にすることが実は“怖い”
少年たちを、美しくもリアルに歌い踊る
『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊
「いやあ、まだまだです。ジョーイさんからは“ダンスにするな”と口を酸っぱくして言われていたのですが、どうしても僕は踊りになってしまうのが課題でして。でもこの作品はバレエの要素が強いので、バレエの美しさを基本にしつつも、踊るという意識をなくさなくちゃいけないのかなと思います。“振付”ではなく、感情が動きになるというようにしたい、とジョーイさんはすごくおっしゃっていました」
――今日のこのシーンでは、ジェット団もシャーク団も開幕直後より重心を低めに据えて踊っていらっしゃり、社会の中で抑圧されている少年たちの空気が感じられました。
「各ナンバーの各振付にいろんな意味がこめられているのですが、腰から上で表現しているとすごく軽くなってしまうので、僕らとしては常に下に、下にという意識があります。ですので今日、そういうふうに見えたなら我々としてはすごく嬉しいですね」
――素朴な質問で恐縮ですが、リフはしばしば、ぱちんと指を鳴らしますよね。その意味するところは?
「リフが指を鳴らすと、ジェット団の皆にはいろいろなことが伝わるんです。『クール』というナンバーで指を鳴らす時は“落ち着け”、と鎮静剤的な意味合いなのですが、同時に火種を含んでいて、それをみんなに伝染させてゆく意味もある。“来い”という指示の時もあるし、リフが鳴らすことで、みんなは次にどうするかがわかるんです。言葉を集約させたもの? ある意味、そうですね」
――いい音で鳴らしていらっしゃいますね。
「でも、どうしても鳴らない時もあります(笑)。歴代のリフ役経験者の方々もそうだったとおっしゃっていますね。克服するには“練習”を積むしかないです。皮がめくれるまで練習だ、とリフ役経験者で、今回のスーパーバイザーの(加藤)敬二さんにも言われました」
『ウェストサイド物語』撮影:下坂敦俊
「リフは17歳なのですが、それぐらいの年齢の不良って、“ナイフ”“拳銃”と口には出しても、実際はすごく怖い。あそこでナイフを出しても、決して命の取り合いをする意図はないんです。ベルナルドに向かってナイフを振り上げますが、次の瞬間には寸止めにするはず。でもそこにトニーが止めに来て、“何するんだよ、離せ”ともがいて、もう一度……となったところに事故が起こり、そこで悪い連鎖が始まる……という流れであって、あそこでは互いに殺すという意図はなかったんです」
――この作品をご覧になった方に、どんなことを感じて欲しいですか?
「僕もすごく考えるんですが、あまりにテーマが大きくて、安易には答えられないです。“人種差別をなくそう”とか“ラブ&ピース”というふうに、簡単に言ってしまうことには抵抗がありますね。日本に住んでいるとこういう社会問題はそれほど身近ではないかもしれないけど、世界的にみたら切実な問題でもあるわけですし。『リトルマーメイド』や『アラジン』とは違って決してハッピーエンドではない作品ですが、ご覧になった方が一人一人、何かを感じていただければと思います」
――出演されている今、ご自身的には何を日々の課題とされていますか?
「今回の舞台では、新演出ということでいろいろなことが変わりました。装置も衣裳も変わりましたし、暗転を少なくしてキャラクターの感情の変化をより見えやすくしたとジョーイさんはおっしゃっていましたね。そんな中で、僕が演じるリフについてもプロローグからの心の流れというものがあるので、それをどう、リアルに見せるか。いっぽうで、あまり感情的になりすぎて作品テーマを損なわないように、意味ある言葉として一つ一つの台詞を伝えたい、ということを常に思っています」
*次頁からは上川さんの“これまで”をうかがいます。人に勧められて受験した劇団四季。オーディション当日、初めて触れた“プロの世界”に愕然とした彼でしたが……。