『ノートルダムの鐘』公開稽古&演出家・キャスト共同インタビューレポート

『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より、カジモド、フィーバス、フロローが同時にエスメラルダを見染める瞬間。(C)Marino Matsushima


2016年12月11日の初日に向け、着々と準備の進む劇団四季『ノートルダムの鐘』。11月24日午前、あざみ野の稽古場では演出家を始めとする海外スタッフを交えた抜き稽古が取材陣に公開、続いて演出家スコット・シュワルツ、主人公カジモド役3名の俳優の合同インタビューが行われました。衣裳をつけての稽古は臨場感に溢れ、取材陣は束の間、中世の荘厳な世界へといざなわれました。

“声の厚み”と“濃厚な人間ドラマ”が圧倒的
『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より、カジモド(海宝直人)。(C)Marino Matsushima


「54年ぶりの雪」で交通網にも支障が出るなか、ほとんどの取材陣が集合時間前に集まり、注目度の高さがうかがえた本日の稽古。はじめに劇団四季・吉田社長より「2か月前より日本人のみで、1か月前から海外クリエイティブ・チームを交えて稽古をはじめ、今週から(オリジナル演出家の)スコット・シュワルツさんを迎えての稽古が始まったところです」と挨拶があり、早速稽古がスタート。披露されるのは物語前半、カジモドが鐘楼で外の世界への憧れを歌うナンバー「光の中へ」から、地上へと降り、“道化の祭り”の喧騒に巻き込まれてゆく「トプシー・ターヴィー」~「息抜き」~「タンバリンのリズム」までの一連のシーン。そして後半、聖職者フロローがエスメラルダに対する愛憎を制御できず、神に歌いかける「地獄の炎」です。
『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より。アニメ版へのオマージュのような構図。(C)Marino Matsushima


まずは「光の中へ」。打ちのめされたように、床に膝をついて歌いだすカジモド(海宝直人さん)の、口を歪め、表情にも声にも苦悩が見て取れる表現がまず衝撃的です。歪んだ口はこの後も終始キープされ、通常とは全く異なる姿勢で歌うこの役の要求度に圧倒されますが、海宝さんはこれまで演じたどのお役よりも力強く、ダークな世界で僅かな希望を掴み取ろうと変化してゆく青年の心模様を歌います。(その後のダメ出しでは、スコットさんから「死ぬまで独りぼっちと決めていたカジモドが一日だけ、下に降りて人々の中に入って行こうと決意するポイントをどこにするか。トリプルキャストそれぞれ、ポイントは違っていいので、めいめい決めてそれを分かるように演じてほしい」とのリクエストがありました)。
『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より、フィーバス(佐久間仁)。(C)Marino Matsushima


続く道化の祭りのシーンでは、人々が集まる中で、物乞いを装って高慢な金持ちから財布を盗むクロパン(阿部よしつぐさん、アニメ版より若々しく、行動的な風情のジプシーのリーダー)、戦帰りでちょっとはめを外したいフィーバス(佐久間仁さん、『ミス・サイゴン』のGIたちを彷彿とさせるようなリアルな軍人像で、アニメ版の人格者的なフィーバス像とは異なる印象)、彼に威厳を見せる聖職者フロロー(芝清道さん)、そしてジプシーの踊り子エスメラルダ(岡村美南さん)が順に登場。

彼女のはっとさせるような生命感と美貌にカジモド、フィーバス、フロローが同時に振り向き、魅了されるというシーンですが、岡村さんは輝くばかりに美しく舞い踊り、説得力たっぷり。(スコットさんからはアンサンブルに対して、聖衣を脱ぐ仕草に、一年に一日だけ日々の義務を脱ぎ捨てる、その解放感を出してほしい、というリクエストが。)
『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より、エスメラルダ(岡村美南)。(C)Marino Matsushima


そして「地獄の炎」では、後方の聖歌隊(クワイヤー)16名と聖衣をまとったアンサンブル8名をバックに、フロローが情欲と歪んだ正義感の間で悶える様を歌い、その声の厚みに圧倒されます。最後にフロローは両手をいっぱいに広げたまま歌い終わるのですが、それはスコットさん曰く、十字架と重ね合わせた動きであるのだとか。

「神に対して“私をお守りください”と祈っていたフロローが最後には“あなたが望むなら、(エスメラルダに死を与える)悪魔になろう”と決意する、そういう変化を表現して下さい」とスコットさんからリクエストがありましたが、フロロー役の芝さんとしてはかつて演じた『JCS』のジーザスにも、ユダにも通じるものがある役どころだけに、思い入れも格別では、と想像されます。
『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より、フロロー(芝清道)。(C)Marino Matsushima


スコットさんのダメ出しを受けて一度、二度おさらいをし、公開稽古は終了。熱気の中、取材陣はスコットさん、カジモド役共同インタビューの会場へと移りました。作品を通しての披露というわけではなかったものの、先進技術より“人間力”に依存する今回のプロダクションに必須の“圧倒的な歌声”と“人間ドラマとしての深さ”が既に備わっていることは明らか。これから数週間、稽古場所を劇場に移して芝居がどのように深まってゆくのか、またその全貌はと、さらに期待が増すひとときとなりました。

【スコット・シュワルツ、カジモド役俳優 共同インタビュー】
(読みやすいよう、話の順序を入れ替えています)
『ノートルダムの鐘』カジモド役の3人と演出のスコット・シュワルツ。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』カジモド役の3人と演出のスコット・シュワルツ。(C)Marino Matsushima


――本作の重要なテーマとして「分断の無い社会への願い」というものがあるかと思いますが、先だっての米国大統領選ではまさに「社会の分断」が公然と主張され、世界は危険な方向に進んでいるように思えます。そうした中でこの作品を上演する意義について、スコットさんはどう捉えていらっしゃいますか?(質問・松島まり乃)

スコット「ちょうど来日してすぐ、俳優たちにはその話をしたところです。僕自身がこの作品を通して政治的な主張をしようとは思いませんが、最近は政治的リーダーが“壁を作らなければならない”などと、排他的な主張をしています。これは実は、『ノートルダムの鐘』でフロローが考えていることなのです。2年前に米国で世界初演を行った時より、本作は世界にとってタイムリーな作品になってしまったと言えます。悲しいことですが。本作では、様々な問いかけをしていますが、たやすく答えを出そうとはしていません。御覧になった方一人一人が、自分と異なる者に出会ったときどう対処するべきかを考えていただくきっかけになれば、と思っています」

――舞台版の演出ポイントを教えてください。
スコット「ユゴーの原作、そしてディズニー・アニメ版双方に基づいて作ろうと思いました。原作は西洋文学の中でも卓越した作品ですが、非常に残酷な物語。ユゴーの世界観はシニカルかつ悲観的で、ディズニー的には難しい部分もあります。しかしその中核には瞬く淡い光のような“希望”もあり、それを表現したいと思いました。また本作は4つの愛が絡み合う、非常に複雑なラブストーリーでもあり、ミュージカルでは珍しいと言えます」

――演出の見どころは?
『ノートルダムの鐘』稽古より、クロパン(阿部よしつぐ)。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より、クロパン(阿部よしつぐ)。(C)Marino Matsushima


スコット「演技と歌にフォーカスした演出です。伝統的な手法を使い、テクノロジーには頼らず、人間の真髄を表現しようと考えました。具体的には、聖歌隊がずっと舞台上に存在し、彼らにスコアを表現させます。お客様の想像力に訴えかけることで、完成された演劇を観ながらも小説を読みほどくような感覚を楽しんでいただければと思います」

――日本版の手ごたえは?また、開幕までの抱負は?
『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima


スコット「劇団の皆さんは準備、献身ぶりが非常に素晴らしく、これまでのところとても楽しく仕事が出来ています。今後は各登場人物からより、深みや複雑さを引き出したい。上演する秋劇場を先日見学しましたが、“壮大にして親密”なものを目指す本作にぴったりだと感じています」

――キャストの皆さんに。今回の音楽で、お気に入りは?

海宝直人「アラン・メンケンの音楽は小さいころから好きでしたが、とりわけ本作は重厚感があり、音楽が役の気持ちを引き出してくれます。“陽ざしの中へ”はカジモド野思いが表現されている曲。大事に歌っています」

飯田達郎「“石のように”という曲は舞台版のオリジナルで、映画版だと10秒くらいで終わるシーン。自分に対する怒りを外に出す難しさを感じながら歌っています」

田中彰孝「どの曲にもストーリーがあるのが本作の魅力。さきほどの稽古でスコットさんの言葉を聞きながら、改めてそう感じました」

――役作りについてお聞かせください。
『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima

『ノートルダムの鐘』稽古より。(C)Marino Matsushima


海宝「カジモドはとにかくピュアで、真っすぐな心を持った青年。そのために傷つく繊細さと、肉体的にはパワフルである点を表現したいです。歌が多いので、しっかり聴いていただけるよう、稽古しています」

飯田「僕は通し稽古を観る度、涙が出ます。心のボリュームがエンディングに連れて上がってくる。それを自分が演じる時にも伝えたい。海宝さん、田中さんはテノールの役をやってきたけれど、僕はこれまで低音域の役が多かったので、今回は新境地にトライしています」

田中「どこまで役に近づけるか。思い切りやることで、メッセージが伝わるのかなと思います。とにかく一生懸命やるのみ、です」

――これまでの稽古の道のりを振り返ってみて。

海宝「稽古が始まるまで不安な部分もありましたが、スタッフにも応援していただき、例えば自分でもどんな発声なら喉に負担がかかりすぎないか研究したりしてきました。今は通し稽古をするたび、精も根も尽き果てて(笑)、どれだけ濃密な作品なんだ!と思える作品です。自分の中では大きな転換点になるかもしれません。とにかく作品のメッセージを伝えきれるよう、頑張りたいです」

飯田「(海宝さんと)ほぼ同じです。(背を丸めるので)腰が痛くなると自然に上がってきてしまったり、いろいろと気をつかうことが多いので、クリアしていかないといけません。僕は芯の役を務めるのが初めてで、思えば人生で初めて買ってもらったビデオがアニメ版の『ノートルダムの鐘』でした。そんな点でも、ご縁を感じる作品です」

田中「オーディションの時、(歌審査だったので)カジモドの動きも求められているとは誰も思っておらず、スコットさんに“まず、やってみてください”と言われた時には本当に驚いたし、緊張しました(笑)。それから(今日にいたるまで)ずっと、彼の動きも、内面も探し続けている気がします。これまで演じたどの役より、内向きな役と感じていますが、そこに存在するだけで彼の哀しさや喜びが伝われば。それによって感動をお届けできればと思っています」

*次頁で6月の製作発表、最終ページで4月のオーディションのレポートを掲載しています。