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建物の耐震性能と同時に大事な地盤の強度

住宅の地震対策では「建物の耐震強度」を問題にすることが多いものの、忘れてはならないのがその敷地の「地盤強度」です。とくに古い盛土造成地では、十分な注意が欠かせません。

執筆者:平野 雅之


2016年4月に発生した一連の「熊本地震」では、度重なる大きな揺れで多くの家屋が倒壊、損傷し、甚大な被害が生じてしまいました。犠牲になられた方のご冥福を祈るとともに、被災された方が平穏な生活を取り戻し、1日でも早く復興が進むことを願いたいものです。

何年か前の話になりますが、世界最大の振動台を使った防災科学技術研究所の実験で、4階建てのビルが阪神大震災と同じ震度7に耐え切れずに倒壊したというニュースがありました。

実験に使用された建物は建築基準法による耐震強度をぎりぎり満たしていたということですが、建築基準法では震度6強~震度7以上の “極めてまれに起こる地震” に対して建物が損傷することは許容したうえで、倒壊せずに人命が守られることを想定しています。

しかし、実際に起こり得る規模の地震でも、悪条件が重なれば「耐震基準を満たした建物でも倒壊する」ということが実験で示されていたわけです。

いざ大地震が起きたとしても、地盤によって個々の敷地における実際の揺れが異なるケースは多いため、地盤が悪いところなら建築基準法の耐震基準レベルでは足りず、地盤がよいところなら建築基準法のレベルであまり心配はいらない、ということができるかもしれません。

大地震に備えるためには、建築基準法が定める「最低限の耐震基準」を守るだけでは安心できないわけですが、それと同時に考えておきたいのが敷地の地盤強度の問題です。熊本地震では活断層の問題が大きく報じられたほか、地盤強度への関心も高まったことでしょう。

建物の耐震補強を十分にしても、あるいは建築基準法で定められた耐震基準よりも頑丈に建てられた新築住宅だったとしても、その敷地が崩壊してしまっては被害を免れないのです。

地盤強度については、地形や地質などによる影響もありますが、それと同時に気をつけなければならないのは、造成地における危険性です。

国土交通省が以前にまとめた資料では、「地震のときに崩壊する危険性の高い大規模造成地(3,000平方メートル以上)」が全国に約1,000箇所あるものと推定されていました。

その後、東日本大震災などを経て、平成26年からは「既存の大規模盛土造成地の滑動崩落対策の進捗状況」を国土交通省が定期的に公表する態勢が整えられています。

しかし、平成28年1月1日時点で、「対象となる造成地があるかどうか」など基本的な調査結果を公表した市区町村の割合が、東京都、兵庫県、鳥取県で100%なのに対し、18県では0.0%にとどまっています。

さらに、その結果をホームページで公表しているのは全国市区町村の38.2%(存在しない旨の公表:24.8%、大規模盛土造成地マップの公表:13.4%)にすぎません。

箇所別の変動の「危険性確認」にいたっては0.6%(10市区町村)で完了しているにすぎず、ほとんど手が付けられていない状況だといえるでしょう。

全体からみれば危険な造成地の割合はわずかかもしれませんが、何も知らされないままで「危険な宅地」を購入している人が、いまもどこかにいるわけです。

現に危険な造成地に住んでいる人の権利の問題や、補強工事費用の負担の問題など、難しい側面も数多くあるでしょうが、少しでも早く調査が進み、その情報が適切に公開されることを願わずにはいられません。

また、これらの調査が「盛土面積3,000平方メートル以上」など、一定規模以上のものに限られていることにも留意しておきましょう。

それよりも小規模な造成地では公的な調査もされないため、とくに古い時期(平成18年に技術基準が強化されています)に造成された敷地を購入するときは十分な注意が必要です。

大地震で崩壊した地盤

大地震による地盤の崩壊は甚大な被害をもたらす


>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX

(この記事は2007年10月公開の「不動産百考 vol.16」をもとに再構成したものです)


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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