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「安全神話」はどこへいったのか? 三菱地所に学ぶ土壌汚染対策

規制緩和によって再開発が進む反面、「土壌汚染」というリスクが持ち上がっています。三菱地所の大阪マンション事件から、新たな課題が見えてきました。

平賀 功一

執筆者:平賀 功一

賢いマンション暮らしガイド

マンションの買い取りも選択肢に


土壌汚染
マンション住民に対する補償総額は最大で75億円にのぼる見込みだ。
「東京・丸の内の主」とも呼ばれる三菱地所が、大阪市北区の大型複合施設「大阪アメニティパーク(OAP)」内のマンションを土壌汚染の事実を告げないで販売し、本年4月に宅建業法違反の容疑で書類送検されていた事件で、三菱側がマンション管理組合(455世帯)との間で合意(和解に向けた提案)を結んだことが報道されました。


  <補償に関するガイドライン(概要)>

  • 引き続き居住を希望する住民には購入額の25%を支払う
  • 売却希望者には不動産鑑定業者の提示した金額で買い取り、さらに別途、鑑定価格の10%を補償する


OAPは三菱金属(現、三菱マテリアル)工場跡地を再開発した、OAPタワー&プラザ、帝国ホテル大阪、公園、そして分譲マンション(OAPレジデンスタワー)2棟などで構成される複合施設で、2001年1月に完成して以来、多くの人が訪れています。低迷を続ける大阪経済における再開発の成功事例として、あるいは景気回復のけん引役として期待されていただけに、こうした一連のニュースは衝撃的に写ります。


「ザル法」とされる土壌汚染対策法


今回の事件は「汚染されていることを知りながら説明せずに販売した」重要事項の説明不足により、宅建業法違反で書類送検されていますが、そもそもの原因である土壌汚染に関して、2003年2月に施行された土壌汚染対策法には問題点が多いことが指摘されています。

同法の内容を簡単に復習しておくと


鉛やヒ素、トリクロロエチレンといった人の健康に係る被害を生ずるおそれがある有害物質を製造したり、使用していた工場または事業所跡地を宅地へ用途変換する際に、都道府県知事が「土壌汚染の恐れがある」と認めた場合、当該土地の所有者等(=所有者、管理者または占有者)は土壌調査を求められ、汚染が確認されると、その除去等の措置(浄化)を講じなければならない


というものです。


「浄化作業の主体者は土地の所有者等である」ことははっきりしていましたが、同法では“いつの時点の所有者”なのかについては言及してません。分譲マンション建設において「土地の所有者等」といえば、通常はデベロッパー(マンションの売り主)と連想しますが、工場が存在していた時期の土地所有者等がマンションの売り主であるとは限りません。マンション建設を機に、第三者から取得することも珍しくないからです。

そこで、マンションの売り主が同時に「汚染原因者」であるか否かによって責任の所在が異なってくるのです。冒頭OAPの事例では、汚染原因者が三菱マテリアル、マンションの売り主が三菱地所となりますが、その他に施工業者の大林組と、さらに三菱マテリアル不動産の関係事業者4者で金銭的解決に向けた対応を取るとしており、「罪のなすり付け合い」をしない紳士的な行動は評価に値します。


安全神話よ 何処へ


容積率を初めとする規制緩和のおかげで盛んに再開発が行なわれ、経済の潤滑油の機能を果たしてきましたが、一方では「湾岸戦争」と揶揄(やゆ)されるほどのマンション建設ラッシュを併発し、供給過剰による価格の値崩れを誘引しているのも間違いない事実です。

「ベイエリア」や「ウォーターフロント」の工場や倉庫跡地に建設されている分譲マンションでは、今後同じ被害を受ける可能性があることを認識し、管理組合では知識武装しておくことが求められます。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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