CRAFTとは?
CRAFTとは、引きこもっている本人の家族に働きかけることによって、本人が治療の場所まで出てこられるようにサポートする認知行動療法プログラムです。もともとは、アルコール依存症の患者家族に対して行われるものでした。アルコール依存症者は、自分がアルコール依存症であることを否認し、治療を受けようとしない傾向にあります。そこで、何もかもを失ってしまう「底付き体験」をしてしまうまでは、治療に対するモチベーションが起こらないと考えられていました。しかし、底付き体験を待っている間はとても辛く、もっと積極的なアプローチはないか?と考えられるようになり、このアプローチが誕生したのです。日本では、アルコール依存症の家族や、日本特有の問題である引きこもりに対して応用が進んでいるプログラムです。
典型的なCRAFTでは、1回90分のセッションを12回実施します。今回は、その中でも特に重要な「機能分析」、「コミュニケーション戦略」、「自分自身の生活を良くする」の3つの要素を紹介します。
機能分析
機能分析とは、子どもや患者本人の行動を、その直前・直後に何が起こったか?という視点で分析していく方法です。その結果、増やすべき行動・減らすべき行動を選別し、どうすれば増やすべき行動を増やし、減らすべき行動を減らせるか?を考えていきます。なぜこのような方法をとるかと言うと、増やすべき行動なのに、実際にはその行動を減らす関わりをしてしまうことが多いためです。
例えば、引きこもりの本人が「あー、もうこんな生活、嫌だ。抜け出したい!」と言ったとしましょう。この発言は、今を抜け出したいのですから、増やすべき発言(行動)ですが、ついつい家族は「自業自得でしょう」などと言ってしまいます。こうすると、本人がせっかくやる気を出しているのに、その芽を詰んでしまうことになるのです。機能分析では、このように、その行動を増やした方がいいのか減らしたほうがいいのかを分析していきます。
引きこもり本人との対話からはじめてみましょう
コミュニケーション戦略
機能分析でも紹介したように、多くの引きこもりの親がしてしまいがちな関わり方の悪循環があります。コミュニケーション戦略では、8つの視点からコミュニケーションを改善していきます。その中でも注目すべき戦略のひとつに、『本人との会話は30秒以内に終わらせる』というものがあります。多くの引きこもりの親は、本人と会話ができる機会をなんとか作ろうとねらっていて、その会話ができる機会に「なんとか、本人をひっぱり出せないか?」と焦ってしまいます。その結果、ひきこもり本人との会話をなんとか長くしようと関わります。
そうなってくると、「昔は、○○していたのにね」「あのとき、○○しておけば、こんなふうにはならなかった」などのように、過去の話を蒸し返してしまいやすくなります。ひきこもりの本人は、やる気を無くして更に引きこもってしまうかもしれません。そこで、会話を30秒以内で終わらせられるように意識をし、今の話題だけで会話が収束できるようにします。そして、この30秒程度の会話の回数を増やしていくことが、ひきこもりの本人を支援していく上では重要になります。
自分自身の生活を良くする
ひきこもりの家族の心理的負担というのはとても大きいのです。特に、子どもの将来について考え、悲観的になることも多いと思います。また、子どもをおいて外出できないなど、ひきこもりの本人を中心とした生活を余儀なくされてしまいます。そのため、家族も自分自身の生活を送れずに疲弊してしまいます。この状態が続けば、家族にひきこもりの本人との対応方法を指導しても、実行に移してもらえないことになります。そこで、自分自身の生活を取り戻してもらうという必要があるのです。この「自分自身の生活を良くする」というパートでは、家族が自分自身の生活を取り戻すための方法を学びます