ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2016年3~4月の注目!ミュージカル(5ページ目)

各地から花の便りが聞かれるようになってきたこの頃、ミュージカル界では話題の新作が続々登場する一方で、『ジキル&ハイド』を筆頭に、さらなる深化が期待される再演舞台も少なくありません。今回はこの他、伊東えりさん考案のメソッドDVDなどもご紹介します。掲載舞台は開幕後、随時観劇レポートも追加してゆきますのでお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

  詭弁・走れメロス

4月29日~5月8日=新宿シアターサンモール、5月14日=京都劇場

【見どころ】

『詭弁・走れメロス』

『詭弁・走れメロス』

太宰治の名作をベースに“腐れ大学生”の逃走劇を描いた森見登美彦の短編小説『新釈 走れメロス』。その文章全てを台詞化し、小説をまるごと舞台化という画期的な手法が話題を呼んだ13年初演の音楽劇『詭弁・走れメロス』が、企画制作会社の倒産という不運を乗り越えて復活! 土屋玲子さん作曲の親しみやすい音楽もさることながら、本作で非常に魅力的なのがそのステージング。パントマイムをベースとした動きはアイディア豊かに次々と展開し、ほぼ何もない舞台を大学の構内や京都のあちこちへと変えてゆきます。膨大な台詞を終始溌剌と発する主人公役・武田航平さんの、エネルギッシュにしてナチュラルな演技も見逃せません。

【観劇ミニ・レポート】

『詭弁undefined走れメロス』撮影:撮影:山平敦史

『詭弁 走れメロス』撮影:撮影:山平敦史

太宰治の『走れメロス』といえば、妹の結婚式に出席するため処刑まで三日の猶予を得た主人公が、人質となった友人のため激走、残虐な王を感動させる物語。けれどもこちらのダメ主人公・芽野はというと、大学の権力者と対立、“ブリーフ一丁で学園祭で踊る”まで一日の猶予を得るも、友人を人質として出発すると、約束を守る気はさらさらなく、ひたすら京都の町を逃げ回る……という、何とも人を食ったお話です。

『詭弁undefined走れメロス』撮影:撮影:山平敦史

『詭弁 走れメロス』撮影:撮影:山平敦史

この“逃避行”の疾走感をどう舞台で表現するのか。小説に書かれた文章をすべて台詞化、俳優たちが終始膨大な言葉を発し続けるとともに、舞台上では絶え間なく通行人から駅の改札、人力車まで、芽野が通り過ぎる光景を俳優たちが滑らかな動きで身体表現してゆきます。一つ一つの動きは人間の日常的な動作の延長線上にあり、また時折差し挟まれるオリジナルの歌も音域は狭く、どちらかといえば平易なメロディですが、これを手練れの俳優たちが一丸となって演じることで、3D映画も真っ青の迫力が生まれ、客席を包み込みます。気が付けばあっという間の1時間半、帰途はずっとテーマ曲の“キベン、キベン……”のフレーズが耳に残ることに。

『詭弁undefined走れメロス』撮影:撮影:山平敦史

『詭弁 走れメロス』撮影:撮影:山平敦史

初演に続いての主演・武田航平さんは、ちゃらんぽらんに見えながらも“友情に見えない友情”のために疾走する芽野役に“確信犯”的な茶目っ気をプラス。小野寺修二さんはこれまでも目覚ましい振付を見せていますが、俳優たち、観客双方のイマジネーションを引き出し、豊かな表現空間を作り出した本作は、これまでのベストかもしれません。今後ミュージカルでの活躍もますます増えそうな予感、ぜひチェックを。
 

 DVD『Heart Beat Singing

(発売中)

『Heartbeat Singing』

『Heartbeat Singing』

【見どころ】
「歌うこと」で社会を元気に、という思いを胸に集まった幅広い世代のミュージカル俳優たちが、より良い声を出すためのメソッドを伝えるDVD「Heart Beat Singing」を作り上げました。『ミス・サイゴン』『ルルドの奇跡』など数々のミュージカルで活躍する伊東えりさんの監修のもと、光枝明彦さん、青山明さん、田中利花さん、岡幸二郎さん、吉沢梨絵さん、原田優一さん、平川めぐみさん、工藤広夢さん、松本拓海さんがラテンのリズムに乗り、ストレッチやエクササイズを伝授します。

『Heart Beat Singing』より

『Heart Beat Singing』より

「素」に近い俳優たちの豊かな表情(特に近年、舞台ではクールな役柄の多い岡さん!)も新鮮ですが、メソッドの方は易しく見えて、DVDを見ながら一緒にやってみると(運動不足の身には)意外にハード。「声」を目的としない一般の方でも、広く「健康法」として取り組む価値のあるDVDに仕上がっています。

【監修・伊東えりさんインタビュー】

『Heart Beat Singing』より

『Heart Beat Singing』より

――ご出演者を子供からシルバー世代まで、幅広く集めた理由は?

「老若男女、年齢問わず楽しめるメソッドであることを知っていただくためです」

――こちらのメソッドはどの程度オリジナルで、どの程度ミュージカル俳優の方々が一般的になさっていることでしょうか?

「オリジナルと言える大きな点は、ラテンのリズムに乗せて全てのステップをリズミカルに行うことです。HeartBeat は、英語で 鼓動 ですが、Heart Beat Singingは、ビートに乗って発声、という意味が含まれています。

ミュージカルは、ダンス、お芝居、歌の三要素の総合芸術です。ミュージカル俳優は、長期の公演に耐えうる体力づくりと、叫んだり泣いたりしても壊れない発声づくり、そして喜怒哀楽の表現訓練を、普段から(お稽古や舞台本番の実践の場から) 行っています。このメソッドは、その要素を取り入れて、一般の方にもわかりやすくアレンジしています。

『Heart Beat Singing』より

『Heart Beat Singing』より

――一般の方々が実践すると、どんな効果がありますか?

「いくつかのポイントを正しく理解し訓練した場合、予想される効果は、第一に、呼吸が深くなることです。それによって精神が安定し(キレやすさ軽減)、内臓が活性化し免疫力アップにつながります。

第二に、表情が豊かになります。口腔、鼻腔、咽頭腔を広げようと普段使っていない顔や頭の筋肉を動かし、声を出すことで、表情が出しやすくなります。表情が豊かになれば、他の人に好印象を与え(パワフルに見られる)、特に笑顔が増えれば、健康寿命も延びるかもしれません (あるご長寿の方が、長生きの秘訣は笑うこと!健康の秘訣は笑うこと、と仰っていました)。

第三に、声が力強くなり滑舌がよくなります。話す内容が、ハッキリと一度で相手に伝わるようになり、自信もアップするかもしれませんね。学校や会社、冠婚葬祭でのスピーチ、などの為にもお役立てください!」


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