ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2016年3~4月の注目!ミュージカル(4ページ目)

各地から花の便りが聞かれるようになってきたこの頃、ミュージカル界では話題の新作が続々登場する一方で、『ジキル&ハイド』を筆頭に、さらなる深化が期待される再演舞台も少なくありません。今回はこの他、伊東えりさん考案のメソッドDVDなどもご紹介します。掲載舞台は開幕後、随時観劇レポートも追加してゆきますのでお楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

 

GEM CLUB

3月19日~4月1日=シアタークリエ、その後大阪、名古屋公演あり

『GEM CLUB』

『GEM CLUB』

【見どころ】
花も実もある出演者たちが、歌にダンス、芝居に笑いと様々な要素を盛り込んだ玉野和紀さん作・演出のショーを清々しいほどの“全力”ぶりでこなし、昨年の第10弾まで大好評を博したシリーズ『CLUB SEVEN』。その“弟分”的な存在として誕生したのが、この『GEM CLUB』です。“GEM”とは“原石”の意。紫吹淳さん、玉野さんがオーナーと総支配人を務めるシックなクラブを舞台に、玉野さんが「原石」と見込んだ若い才能たちが集結。彼らの切磋琢磨する姿を描くミュージカルであると同時に、スケッチやヒットメドレーなど、『CLUB SEVEN』でお馴染みのお楽しみ要素もたっぷり盛り込まれる模様です。「原石」たちをリードする中河内雅貴さん、相葉裕樹さんの頼もしい「兄貴」ぶりにも注目!

【観劇ミニ・レポート】

『GEM CLUB』(C)Marino Matsushima

『GEM CLUB』(C)Marino Matsushima

一幕はストーリー仕立て。特定の時代や地域には縛られない「とあるショーハウス」を舞台に、若き原石(GEM)たちが明日に向かって切磋琢磨する姿を描きます。ひたむきに稽古を積み、全力で歌い踊る彼らにオーナー(紫吹淳さん)は「何かが足りない。テーマよ!」ということで、キーワードをつぶやき、皆がそれをテーマにスケッチ(まさかの和風も)を展開。試行錯誤を重ねる彼らを「かつては私もそうだった」と見守るオーナーの姿に、作者である玉野和紀さんの視線がだぶります。その玉野さんは総支配人役でクールなタップダンスを見せ、原田優一さんはチーフマネージャー役として、ちょっとした出入りにも“遊び”を付け加えていて、さすが(お若いけれど)ベテラン!の風格が。

『GEM CLUB』(C)Marino Matsushima

『GEM CLUB』(C)Marino Matsushima

そして二幕では『CLUB SEVEN』シリーズでもおなじみ、お待ちかねの「メドレー」コーナー。J-POPからCMソングまで様々な楽曲をノンストップで、歌いながら踊る、踊る、踊る! 平均年齢が若いぶん?ハードさは『CLUB SEVEN』シリーズより明らかにアップして見えますが、最後までペースを落とさず突っ走るのが玉野作品。これに必死に食らいつくキャストの姿、その清々しさが本作第一の魅力と言えましょう。

『GEM CLUB』(C)Marino Matsushima

『GEM CLUB』(C)Marino Matsushima

GEMたちの中にも大まかに“先輩グループ”“新人グループ”がいて、二手に分かれて同じ振付を踊るような個所では、ちょっとしたポーズにニュアンスを付け加える中河内雅貴さんら、先輩たちの“巧さ”が光ります。日々それに接している新人たちが、この公演期間に何を吸収し、どんなパフォーマーに成長してゆくのか。満載の“小ネタ”にその都度笑わせてもらえるだけでなく、そんな楽しみもあるショーとなっています。

イッツフォーリーズ ファミリーフェスティバル2016『お・ど・ろ』『手のひらを太陽に』

3月24~27日=俳優座劇場
【見どころ】

『手のひらを太陽に』

『手のひらを太陽に』

ミュージカル劇団イッツフォーリーズが春に行っている、恒例のファミリー・フェスティバル。2年ぶりの開催となる今回は、日生ファミリー劇場版『三銃士』などで知られる中島淳彦さん作・演出の『お・ど・ろ』と、歌物語『手のひらを太陽に』の二本立てです。前者は森に忘れられてしまったお弁当のおかずたちをユーモラスに描きつつ、「食」の大切さを伝える作品。後者は表題曲の作者であるやなせたかしさんといずみたくさんがふしぎな男の子「リトル・ボオ」に出会い、彼を励ますために歌を作る過程を描いた心温まるショー。ほっこりした舞台づくりに定評のある劇団の舞台は、春休みの三世代観劇にもお勧めです。

【観劇ミニ・レポート】

『お・ど・ろ』写真提供:イッツフォーリーズ

『お・ど・ろ』写真提供:イッツフォーリーズ

『お・ど・ろ』のほうは森の中に置き忘れられた、とある弁当箱の物語。エビフライや卵焼き、おむすびにタコのウィンナーたちが「人間さん、私たちが腐ってしまう前に戻ってきて!」と切望する。願いもむなしく、彼らはカビやばい菌の餌食となってしまうのか…?

『うた物語undefined僕らみんな生きている』写真提供:イッツフォーリーズ

『うた物語 手のひらを太陽に』写真提供:イッツフォーリーズ

という主筋だけをとりあげると、“いかにも”なお子様向け作品に感じられるかもしれませんが、本作はそこに、置き忘れていった人間の一家“春川家”のドラマを絡ませ、特に父親の悲哀が描きこまれているのがミソ。多忙な日常の中で心がすれ違い、互いに不満だらけのパパ、ママ、娘(13歳)が、“カビの妖精”の悪戯で森の中の弁当の世界に呼び寄せられ、本心をぶつけあった末に和解する。しかし思わぬ事態が発生、彼らの絆は、そしておかずたちはどうなってしまうのか…? という展開で、子供のみならず大人も最後まで目が離せません。擬人化されたカビやサルモネラ菌の登場で「食べ物が傷む」という概念が理解しやすく、“食育ミュージカル”としての効果も。思春期特有の“パパへの冷たさ”を嫌味なく演じた“娘”役の金村瞳さん、右往左往するばかりだったのが頼れる大黒柱へと成長(?)する“パパ”役の川本昭彦さん、そして何かというと“…キュウ”が口癖の“きゅうりのキュウちゃん”役をけなげに演じる明羽美姫さんの好演が光ります。

『うた物語undefined僕らみんな生きている』写真提供:イッツフォーリーズ

『うた物語 手のひらを太陽に』では両手じゃんけんで「脳活」遊びをする一幕も。写真提供:イッツフォーリーズ

もう一つの『うた物語 手のひらを太陽に』は、作曲家いずみたくと詩人・画家やなせたかしの青春を描くコンサート。やなせさんが作った不思議な赤帽子少年キャラクター「リトル・ボオ」とのかけあいを通して、二人が心を通わせてゆく姿がほのぼのと描かれます。若きいずみたく、やなせたかしを演じる吉田雄さん、吉村健洋さんの無心の熱演、イッツフォーリーズ名物の美しいアンサンブル・コーラスが印象的。途中、『お・ど・ろ』の登場人物たちが全員登場する一幕もあり、二つの演目がうまく連動(脚本・演出はどちらも中島淳彦さん)、二つともご覧になった方は大満足のフェスティバルとなりました。

*次頁で『詭弁・走れメロス』以降の作品をご紹介します!

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