『トーテム』
上演中~16年6月26日=お台場ビッグトップ、7月14日~10月12日=中之島ビッグトップ、11月10日~17年1月15日=名古屋ビッグトップ、以降福岡、仙台で上演予定
【見どころ】
『TOTEM』Photo: Matt Beard Costumes: Kym Barrett (C) 2010 Cirque du Soleil
1984年に創設以来、シルク(サーカス)の既成概念を打ち破るショーを次々に創造、現在までに世界各地で実に1億5千万人以上の人々を魅了してきたシルク・ドゥ・ソレイユ。多彩なレパートリーの中でも2010年の初演以来、既に400万人以上を動員している演目『トーテム』が日本で開幕しました。
シルクという共通項はあっても演出家によって全く異なる趣の作品がみられるのがこのカンパニーの特色ですが、今回の演出家はロベール・ルパージュ。ケベック(フランス語圏カナダ)が生んだ最も重要な演出家と言われ、映像と身体表現を組み合わせた幻想的な演出を得意とする人物です。今回は“人類の進化”をテーマに、最先端のテクノロジーと(このカンパニーでは“アーティスト”と呼ばれる)出演者たちの超人的な技を融合。日本でもしばしばシェイクスピア劇などの演出を手掛けているルパージュは歌舞伎の演出にも大いにインスピレーションを受け、本作では花道的な空間“ブリッジ”のアイディアなどに生かしています。その他にも各国の文化(ダンス、歌、デザイン)がブレンドされた舞台は、イメージの宝庫。アーティストたちの技に驚嘆しながら、人類の可能性について思索を深める、またとない機会となることでしょう。
【観劇ミニ・レポート】
命の起源である隕石を象徴する“クリスタル・マン”が天井から逆さづりになって現れ、始まる舞台。その中央に亀の甲羅を模した骨組みが登場すると、両生類や魚をイメージしたキャラクターたちがその骨組み(バー)を駆使して鮮やかな鉄棒技を披露。並列したバーを二人のキャラクターたちが完璧にシンクロしながら回転する場面はとりわけ美しく、のっけから興奮の渦を巻き起こします。
『TOTEM』Photo: OSA Images Costumes: Kym Barrett(C) 2010 Cirque du Soleil
その後も自由自在なフープ使いや、男女3人の吊り輪演技「リングス・トリオ」、背の高い一輪車の上でジャグリングをする「ユニサイクル・ウィズ・ボウル」、バーからバーへと飛び移る「ロシアン・バー」など次々に超人技が飛び出しますが、それぞれに「生物の連鎖」、「求愛」、「芳醇な秋の実りの祝祭」「無重力世界である宇宙への願望」を象徴、人類の来し方とその未来へ、自然に思いを馳せさせます。またシルク・ドゥ・ソレイユの演目として今回新鮮に感じられたのが、エスニックな要素へのリスペクト。従来、このカンパニーは普遍性を重視し、例えば歌の歌詞には人造語を用いていましたが、今回は北米先住民や他民族の歌やデザインをそのスピリットを含めて活用し、深い精神性を加味しています。特にマヤ文明の文様がライトを浴びると神秘的な光を放つ宇宙服へと転じる「ロシアン・バー」の衣裳は必見。
『TOTEM』Photo: OSA Images Costumes: Kym Barrett (C) 2010 Cirque du Soleil
ルパージュの代名詞的手法である映像はあくまで人間の技を引き立てるための黒子に徹していますが、後方のプロジェクションマッピングは赤外線によって出演者の動きと連動するように設計され、幕切れなどで心憎い存在感を放ちます。舞台空間の使い方、最先端技術と人間の関係性、普遍性と独自性のバランスなど、様々な点で刺激に満ちた舞台。ミュージカルの業界人たちにもファンたちにも、お勧めできる演目です。
『ショーガール ~こんな出会いも悪くない~』
3月13~22日=パルコ劇場
【見どころ】
『ショーガール』
1974~88年まで上演された福田陽一郎作・演出の同名ショーに影響を受けた三谷幸喜さんが、オマージュをささげる形で14年夏に新たに創造、大好評を博した『ショーガール』。この舞台が、熱いアンコールに応えて帰ってきます。前回は別作品と同時上演という形だったため、上演時間に制約がありましたが、今回は単独上演のため、前回盛り込めなかった要素もプラス。川平慈英さん、シルビア・グラブさんという華と実力を兼ね備えた二人が、小粋な短編ミュージカルとミュージカルからジャズまで歌い尽くすショーの2部構成で、存分に楽しませてくれます。ミュージカルを観慣れない異性を誘うのにも、ぴったりの作品です!
【観劇ミニ・レポート】
『ショーガール』撮影:阿部章仁
昨年は同じ三谷幸喜さん作『君となら』の家屋のセットを使い、そのミスマッチ感が面白い味を出していましたが、今年は専用の、よりシンプルなセットを使用。その分、出演者である川平慈英さんとシルビア・グラブさん、そして演奏の3名(ピアノ=荻野清子さん、ベース=一本茂樹さん、パーカッション=萱谷亮一さん)の魅力が際立ちます。
『ショーガール』撮影:阿部章仁
昨年はショータイムの前に、スタイリッシュなハードボイルド…に見えて昭和の生活感?たっぷりのオリジナル・ミュージカル「淋しい探偵」が上演されましたが、今回はそれに加えて短編が二つ。川平さん、シルビアさんは老人や料理研究家をオーバーに演じて笑わせ、“大人”の客席を少しずつ温めてゆきます。そして「淋しい探偵」再演ではシルビアさんの“地味な女”と“派手な女”、川平さんの“コミカル”と“ペーソス”の演じ分けがいっそう鮮やか。大人であるがゆえのほろ苦い恋をさらりと見せ、心憎いばかり。
『ショーガール』撮影:阿部章仁
続くショータイムではジャズから歌謡曲まで、怒涛の勢いで数十曲が登場。しっとりと聴かせるナンバーもあれば、川平さんが客席の一人一人を指さして「マリア、マリア、マリア…(男性を見かけると)マリオ」と歌う「Maria」(『ウェストサイド物語』)や、伴奏の3人が衣裳をつけ、ノリノリでマラカス参加する「バナナ・ボート」などユーモア全開のナンバーもあり、飽きさせません。その中で川平さん、シルビアさんが離れた位置で歌いはじめ、絶妙のハーモニーを聴かせたのが「More Than Words」。互いに声の重なりを慈しみ、楽しんでいるのが伝わってくる歌唱に、客席もうっとりさせられたひとときでした。
『ショーガール』撮影:阿部章仁
エンディングには先ほどの「淋しい探偵」が再登場、うん?この恋はまだまだ続く?と思わせる、心憎い演出。三谷さんのミュージカル愛もしっかりと伝わり、今後のシリーズ化が何とも楽しみなものになってきました。荻野さんによるオリジナル楽曲もジャジーなアレンジで洒落ており、期待を裏切る要素は皆無。「良質のエンタテインメント」とはどういうものかを教えてくれる、お勧めの舞台です。
*次頁で『GEM CLUB』以降の作品をご紹介します!