3位:五嶋みどり(ヴァイオリン) バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
みどり集大成の、練りに練られたバッハ無伴奏
久:冒頭から、グッと引き込むようなところはないのですが、聴き進めると、それぞれの楽章ごとに完結させず、ソナタ全体パルティータ全体という構造をものすごく考えた解釈だなと感じました。有名なシャコンヌも直前のジークからアタッカ(休みなく演奏されること)で入るのですけれど、そこなどとてもかっこよかったりする。
あと、録音が変わっていて、良し悪しはともかく左右にブレるんですよ。ヘッドフォンで聴くとよく分かるのですが、一番のフーガが主題ごとに音の出る位置が違って聴こえるんです。それも面白かったです。
峯:それ絶対に狙ってやってますよ。ヴァイオリン1本で聴かせる難しさがありますし、彼女だったらそういうアイデアを入れる気がしますね。極めてオーソドックスな演奏なのですけれど、聴いていて「あぁ、五嶋みどりだな」と間違いなく分かるんですよね。一つひとつの音の溜め方や流し方とか、彼女の表情が見えるような。随分と温めてきたのではないかと思える、一つの集大成のような演奏という感じがしました。
北:確かに、これまでの五嶋みどりの音楽を集大成的に出し切れる時期になり、一番完成度の高いものを出してきた感じがします。
峯:発売以来ずっと一定の売上が続く、久しぶりに出てきたクラシックらしい売れ方をする新譜ですね。
北:そうですね、この曲の外せない一枚として、これからも長く聴かれるでしょうね。
久:聴けば聴くほど発見がある、味わい深い良い演奏です。
峯:演奏だけでなく慈善活動などもいろいろされていますしね。アメリカで生きてきた自分の生き様というか人生の考え方のようなものがこの演奏に表れているような感じがします。
大:国内アーティストが3位に入ったというのも嬉しいですね。
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2位:ユジャ・ワン(ピアノ) ラヴェル:ピアノ協奏曲、左手のためのピアノ協奏曲、他
カリスマのスターが楽譜から埃を取り払う、煌めくラヴェル
峯:ラヴェルの協奏曲でユジャ・ワンと言ったら「それは決定盤だろう」「いつやるんだろう」というCDだったと思います。これは“ユジャ・ワン”を聴くアルバムですね。デビューの時からずっと聴き続けていますけれど変わらず素晴らしい。今回のラヴェルも彼女にぴったりだったと思います。比較的録音されることの少ない『左手のためのピアノ協奏曲』を録音したのも驚きましたね。とても面白かったです。
久:この盤は素晴らしかったですね。聴いていて興奮するような。
峯:クラシック・ファン以外の方に聴いていただきたいですね。「クラシックってこういう音楽なんだよ」というのを示す一つの例ですね。
北:ようやくアルゲリッチの呪縛が解けたというか。彼女がドイツ・グラモフォンと録音した2枚のうち、特に最初のアバドと演奏した盤は未だに買われていますが、そうしてアルゲリッチをずっと聴いていた方にようやく今のピアニストで紹介できるものが登場したのかな、と。
峯:自分に合うレパートリーというのを本当に分かっていますよね。見せ方や表現の仕方など自分の特質をうまく表現でき、このCD1枚とっても考え抜かれている。彼女は表参道のアップルストアで行われたイベントも大盛況で話題になりましたけれど、クラシックだけではなくて、ジャズも即興でやりますし何でも弾ける。そして、見たら忘れられない衣装で来日公演は常に満員。技術はもちろん、ピアニストの在り方というのを根本から変えたすごいアーティストですよね。
久:人柄も気さくですしね。なんであんな派手な格好をしているんだろうと知り合いと話をし「やはり目立つためじゃない?」と。上手いピアニストがいっぱいいる中で。
峯:ネットが発達している時代、視覚から入るというのも一つの重要な要素ですよね。今回のショパン・コンクールの上位入賞者の演奏を聴いていても、順位ほどには区別がつかないのですよ。だからどこで特徴を出すか。ユジャ・ワンは技術も当然すごいですけれど、表現力を自分でちゃんと分かっている。誰かにプロデュースされた感じが全くない。自分でちゃんと考えている。そこがすごいですね。
北:それはヒラリー・ハーンにも当てはまり、やはり上位に来ている方というのはそういうところがありますよね。
大:僕もお会いしたことありますが、本当にフレンドリーでよく笑い、ファッションも「何で派手なの着ちゃダメ?」という明るくポジティブな感じでしたね。
峯:「クラシックを変えよう」というより「自分がこうやりたいからやっているんだ」という感じなんですよね。
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1位:クルレンツィス(指揮) ストラヴィンスキー:春の祭典
鬼才クルレンツィスによる新時代の『ハルサイ』
北:昨今ソリストのアルバムが上位に来ることが多いですが、そういう中でこのハルサイは面白かったですね。ジャケットの奇抜さも注目ですが(笑)、元々ハルサイは版による違いが大きく、ちょうど1年くらい前にジンマンによる初稿による世界初録音盤が出ましたけれど、そうした研究を含めたものが出る中で、これは一般的な47年の改訂版を用い、潔いなと。
ハルサイは難曲として認識されてきていて20年くらい前までは演奏のスリリングさを求めていたユーザーもいると思うのですが、この演奏を聴くともはや初演から100年経ち、ようやくベートーヴェンやブラームスなどのように伝統的なクラシックの位置づけとして解釈されるようになったのだなと感じました。
久:小編成でモーツァルトを演奏しているような、一つにまとまってリズミカルな良い演奏ですよね。リズムが激しく、速いところは速く、逆にものすごくなまめかしい妖艶な表現もあったりして、解釈の面も本当に面白いですよね。
北:ようやく楽譜から離れられた感じがしますよね。縛られすぎてきた気もしますから。ハルサイの解釈ってあまり論じられてきませんでしたよね。演奏の正確さ、精密さ、オケの上手さなどが言われ続けてきましたが、ようやくそれを超える演奏が登場した。きちんと正統的に評価できる時代のさきがけの演奏ではないかなと。
峯:普通にこういろいろな解釈が出てくるようになったのは、やはり技量が上がったんでしょうね、指揮者もオケも。もう若い人が普通に演奏する時代なのかなと。
北:ハルサイは良い盤が続いていますよね。
大:本当にこの曲のリリースは毎年進化しているなと思います。2013年のラトル盤がベルリン・フィルを率いた現代オケによる完璧な演奏を聴かせ、翌2014年にはロトとジンマンによる初演当時を再現する演奏が。そして今回、北村さんが仰るように楽譜を超えていくという。ある種、ロマンティックになるというか。クラシック演奏の歴史が生きていることをとても感じる、今本当に聴いてほしい盤でした。1位の選出、ありがとうございました!
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ということで2015年に発売されたCDの中からCD屋さんが選んだオススメ盤のランキングでした。どれも本当に見事な人生を変えてくれるような盤でした。ぜひ気になったものから聴いていただけたらと思います。ということで2016年も素晴らしい音楽・演奏を紹介していきます。毎月の注目新譜は下記コーナーで紹介してまいります。こちらもぜひチェックをお願いいたします!
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