ミュージカル・ファンであれば「絶対におさえておくべき」作品
『アニー』グレース役
――はじめは単に「大富豪」とその「優秀な秘書」という関係でしかなかったウォーバックスとグレースの間に、ロマンティックな空気が生まれてゆくのも本作の面白さですね。
「その過程は台本では明記されていないので、本当に難しいです。でも演出家とも話していて、ウォーバックスがアニーとグレースを連れてブロードウェイに繰り出すナンバー「NYC」を一つの転機として捉えています。グレースはウォーバックスとの関係を「上司と部下」としかとらえず、彼を男性としては全く見ていませんでしたが、アニーに向ける彼の様々な表情や抱きかかえるしぐさを見守るうちに、そこに「男性」を感じてドキッとするんですね。
その変化は明確に描かれているわけではありませんが、グレースが冗談を言ったりと次第に近しさを覚え、ウォーバックスのほうも知らず知らず、グレースへの信頼が深まって距離が縮まっていきます。大人の恋というより、アニーの幸せを思うゆえの連帯感ですね。だから孤児のアニーの両親探しをして、本物と思しき夫婦が現れたときには、二人ともものすごく悩むんです。アニーという一人の子供のために、どうすることが一番いいのか。きっとそのことを一晩中、真剣に意見交換したのでしょうね。そういう過程を経て(同志愛のような)感情が育まれるのだと思います」
――ウォーバックス役は三田村邦彦さん。これまでは恰幅のいい方が演じてこられた役なので、3年前に初登板されたときには驚きました。
「三田村さんのウォーバックスさんはとても優しくて、笑顔も素敵。男性的な魅力あふれる方です。お芝居も素晴らしく、私はそこに乗っかってグレースを演じさせていただきました。アニーを連れてくる前のウォーバックスは仕事一筋で、彼本来の色気は全く封印されていたけれど、グレースが「この子となら気が合うんじゃないか」と考えて連れてきたアニーと触れ合う中で、少しずつ変わってゆく。それを踏まえてアニーを選んだグレースは、洞察力のある頭のいい女性なんだなあと思いますね」
『アニー』2015年公演より
――昨年、初出演を前にした会見でグレース役について「ソプラノらしいソプラノ・ナンバーが歌えるので楽しみ」とおっしゃっていましたね。
「はい、グレースは私の音域にぴったりのソプラノで、のびのび歌わせていただきました。最近のミュージカルは地声で歌うナンバーが多い傾向があるのですが、『アニー』はその意味ではクラシカルなミュージカルで、楽曲が素晴らしいんです。有名な『トゥモロー』は、前奏が聞こえてくるだけで泣けてきますね(笑)。1公演終わるたび、ハッピーな気分になれます」
――今回、ご自身の中でテーマにしていることは?
「お稽古が始まってからという部分もありますが、今回、キャストも違うので全く違う『アニー』になるのではないかと思います。グレースも、今回の河内桃子さん、池田葵さん(ダブルキャスト)が演じるアニーに向き合うなかで、いろいろ新たな発見をしていきたいです。どうなるか、楽しみですね」
――お客様たちに、どんなものをもって帰っていただきたいですか?
「暗い時代背景の中でも明日を見て進んで行こうと歌う『アニー』は、ものすごいパワーを持つ作品だと思います。歌詞は単純だけど、すごく大切なことですよね。このメッセージ、作品力をダイレクトに感じていただいて、お客様にも「笑顔になって、頑張って生きていこう」と思っていただけたら嬉しいですね。
もちろん親子連れでも楽しんでいただけますが、(出演するまで)観ていなかった身としては、むしろ大人の方にこそ来ていただきたいです。「ミュージカル好き」なら絶対観たほうがいい…というか、ミュージカル・ファンなのに『アニー』を観ないなんてダメです!(笑)それくらい、お勧めの作品です」
*次頁では木村さんのプロフィールをうかがいます。実は当初、木村さんはミュージカルを目指していたわけではなかったのだとか!