ペットを飼えば、別れの日はいつか必ずやってきます。その辛さを乗り越える過程で、まず、失ったという事実をしっかり心に受け入れる必要があります。そのためにはしっかり悲しむことが重要です
今回は、ペットをなくしたとき、それをトラウマ化しないための精神医学的な基礎知識を詳しく解説します。
失う辛さはペットが病気になったときから始まることも
これまで楽しい時間をともに過ごし、辛い時期も一緒に乗り越えてきたペットも、この世のさだめで、時が来れば病気になります。見違えるように元気がなくなったり、場合によっては、体に痛いところができて、苦しそうな声を上げたりすることもあるかもしれません。何とか治してあげたくても、その症状に対して効果的な治療法がない場合も少なくありません。治療できないということ自体に罪の意識をおぼえてしまうかもしれません。ペットが病気になれば、なくしたあとを考えやすくなります。もし家族の一員のような存在ならば、その悲しみは言葉で表わせないかもしれません。
実際、ペットを失うことは、その人のライフ・イベントのなかでも、ストレスのレベルが最も深刻になる可能性もあります。ストレスが深刻になれば、病気になりやすくなるなど、心身にもさまざまな悪影響が現われてきます。
なくしたことを受け入れるためには、悲しい気持ちを我慢しないで
ペットを失ったことを乗り越えるということは、悲しい気持ちがうすらぎ、毎日を前向きに生きているような感覚が得られることでしょう。自然と顔に笑みが浮かぶようになることと言えるかもしれません。そこまで回復するまでには、かなり時間がかかることもあります。その原因は多々ありますが、そのひとつに、ペットをなくした事実を心がはっきり受け入れていないということが考えられます。
ペットをなくした悲しみは抑圧されることなく、はっきり表出することが望ましいです。悲しみの声は大いにあげて、悲しみの涙は大いに流したいものです。それはまわりに誰もいない時になるでしょうが、しっかり悲しんだということは、ペットをなくした事を現実の事として心がしっかり受け入れたことになります。見方をかえれば、ペットをなくした事を心がしっかり受け入れるためには、しっかり悲しむことが必要だということです。
その際、何らかの儀式めいた事も役に立つかもしれません。たとえば、ペットの肖像や名前の入った墓を作るなどが挙げられます。そのときの自分にできる範囲で一種のセレモニーを行なうことは、ペットをなくしたことをしっかり受け入れるために良いことだと思います。
また、ペットが死んでしまったことを、親御さんが小さなお子さまにはっきり言わないこともあるかと思います。基本的には真実をいう事が望ましいですが、それは状況にもよります。でも、子供が成長すれば、本当のことに必ず気付くことにはご注意ください。
ペットを悲しむ気持ちが続いても焦らないこと
ペットをなくして、しばらく悲しい気持ちが続いても、まったく自然なことです。その期間は人によってかなり違いが出ますが、もしペットの存在が生きがいになっていたら、回復にはかなり時間がかかるかもしれません。その際、回復を遅らせやすい心理的傾向には要注意です。場合によっては、ペットを悲しむ気持ちが続いていることに、「自分は弱い人間だ」と自分自身を恥じるような、あるいは、そんな自分に当惑するような心理が生じる可能性もあります。悲しい気持ちが続くことは、ショックに直面したときの自然な反応だということは、はっきりと認識しておきましょう。
また、場合によっては、まわりの人がペットをなくした事をあまり重大なことだと受け止めていないかもしれません。実際、ペットを飼ったことのない人ならば、ペットをなくすことが、どんなにつらい事か、あまり実感がわかないものです。そうした周囲の反応を見れば、悲しみすぎる自分には、何か問題があるような気がしてしまうかもしれません。
そうした際に力になるのが、これまでのペット生活を通じて知り合った友達です。ペットを飼っている人ならば、失う辛さは十分わかっています。自分をなぐさめてくれるだけでなく、かつてそうした状況をその人はいかに乗り越えたかも話してくれるかもしれません。貴重なアドバイスを得られる機会は逃さないでいたいです。
最後に、悲しみから早く回復するためには、心身のコンディショニングもたいへん重要です。栄養のバランスの取れた食事、十分な睡眠時間、そして定期的な運動といったことは当たり前のようですが、可愛がっていたペットを失うような大変なことが起きれば、しばしば食事の内容は片寄りすぎてしまい、睡眠時間も不足しやすくなります。ふだん以上に心身のコンディショニングにはご注意ください。
また、悲しみがいっこうに引かず、日常生活などに支障が大きくなってきたような場合、うつ病など精神科的な治療が必要になっている可能性もあります。その際は精神科(神経科)受診もご考慮してみてください。