ピアフ

2月7日~3月13日=シアタークリエ、3月19~21日=森ノ宮ピロティホール、3月23日=JMSアステールプラザ大ホール、3月26~27日=中日劇場
『ピアフ』

『ピアフ』

【見どころ】

フランスを代表するシャンソン歌手、エディット・ピアフ。社会の底辺で生まれ育ち、歌手として成功するも悲劇に見舞われ続けた彼女の波乱の人生を、パム・ジェムスが戯曲化。78年にロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで初演以来、世界各国で人気の本作が11、13年に続き、待望の日本公演を行います。

『バラ色の人生』『愛の讃歌』をはじめとするピアフの代表曲を多数織り交ぜながら、どん底からスターダム、そしてその47歳の死に至るまでを描く本作は、奇をてらわずシンプルな構成ゆえ、ピアフ役のキャスティングがカギを握るといっても過言ではありません。筆者が90年代に観たロンドン・リバイバル版では(『キャッツ』グリザベラで知られる)エレイン・ペイジが「現代のピアフ」と思わせる圧巻の歌唱を聞かせていましたが、日本版で彼女を演じるのは日本を代表する舞台女優の一人、大竹しのぶさん。「ピアフが降りてきた」と称賛された渾身の演技、歌唱で、力の限りに生き切ったピアフを再び体現してくれそうです。彼女を巡る男たちとして登場する伊礼彼方さん、碓井将大さんら、男優陣それぞれの持ち味を生かした演技も見逃せません。

『ピアフ』観劇レポート 
観る者の“人生の本気度”を問う、
壮絶な生きざまの音楽劇

*いわゆる「ネタバレ」が若干含まれますので、ご鑑賞前の方はご注意下さい*

司会者が舞台中央にスタンドマイクを運び、スター歌手ピアフを呼び込むと、カーテンの間から力なく白い手が、そしてピアフその人(大竹しのぶさん)が現れる。その顔に生気は無く、彼女は歌いだす前に崩れ落ちてしまう…。
『ピアフ』写真提供:東宝演劇部

『ピアフ』写真提供:東宝演劇部

薬物に侵された晩年の痛々しいこの姿から、舞台は路上で歌う少女“エディット・ガシオン”がナイトクラブのオーナーに見いだされる場面へと時を戻し、その波乱の生涯を辿リ始めます。ピアフ(小雀)という芸名を得、歌手として成功をおさめながらも、恵まれない生い立ちにより決して癒えることのない“孤独”を背負うエディット。それを男たちへの“愛”で埋めようとする彼女は、彼らに全身全霊を捧げるあまり傷つき、一瞬の安堵を得るため手を出した薬物に徐々に体を蝕まれてゆきます。

常に“裸の心”で人生に立ち向かったこの主人公を力強くも繊細に、“憑依”と呼ぶにはあまりに自然に演じる、いや“生き切る”大竹さん。この演技を得たことで、ピアフという稀有な人物の物語は鮮やかなリアリティを持ち、観る者に迫ります。また、あけっぴろげに春をひさぐも後年は家庭を持ち、ピアフとはまた別のバイタリティを見せる友人トワーヌ役・梅沢昌代さん、一見近寄りがたいオーラを持ちながらもピアフとなぜか気が合い、破滅に向かう彼女を気遣うマレーネ・ディートリッヒ役・彩輝なおさんらの女優陣、そしてピアフの恋人や市井の人々を次々と演じ分ける男優陣の演技も過不足なく、的確。中でも、横田栄司さん演じるマルセルとピアフが互いに孤独感を吐露し、共感を深めるくだり、また愛ゆえにピアフが伊礼彼方さん演じるシャルル・アズナブールに厳然と別れを告げるシーンが美しい余韻を残します。
『ピアフ』写真提供:東宝演劇部

『ピアフ』写真提供:東宝演劇部

芝居の部分では奇をてらわず、俳優の演技をしっかり見せることに集中しつつも、折々に差し挟まれるピアフの歌唱シーンで彼女のシルエットを背景に大写しにするなど、骨太のドラマ空間を立体的に印象付ける演出(栗山民也さん)。薬物中毒の壮絶な描写を経て、物語は肉体を抜け出したピアフの魂がその人生を振り返って歌うラスト・ナンバー「水に流して」へと集約されてゆきますが、その終盤、天井からはひとひらの木の葉が落ちてきます。かつて(今は亡き歌舞伎俳優の)中村勘三郎さんから伝記本を渡されたことからピアフと大竹しのぶさんの縁が始まったというエピソードを知る身には、この木の葉に勘三郎さんの代表作の一つ『研辰の討たれ』のラストでも降っていたひとひらが重なって見えずにはいられません。

一つの“伝記ミュージカル”の枠を超え、“あなたは懸命に生きているか”と、観る者の“人生の本気度”を問うてくる舞台。観劇の衝撃はその後、じわじわと“生きる勇気”へと窯変してゆくことでしょう。

*次頁で『Marry Me A Little』以降の作品をご紹介します!