ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2016年1~2月の注目!ミュージカル(2ページ目)

あけましておめでとうございます。今年も数々の大作、新作、意欲作が目白押しのミュージカル界ですが、初芝居には肩の力を抜いて思いっきり「初笑い」というのもいいかもしれません。今回はそんなコメディ・ミュージカル『THE STOMACH』から魂の歌唱劇『ピアフ』までをご紹介。恒例、松島まり乃的「2015年ミュージカル大賞」も発表します!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

『漂流劇 ひょっこりひょうたん島

1月9日~10日=まつもと市民芸術館、1月15~17日=シアターBRAVA!、1月23~24日=キャナルシティ劇場、2月3~11日=Bunkamuraシアターコクーン
『漂流劇undefinedひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司

『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司

【見どころ】
1964~69年までNHKで放映された、山元護久さん、井上ひさしさん作の人形劇『ひょっこりひょうたん島』。遠足で訪れたひょうたん島が漂流を始めてしまい、サンデー先生と子供たちがあちこちで繰り広げる冒険物語は、かわいらしくユーモラスなビジュアルとは裏腹のシュールでドライな世界観が、多くの人々を魅了しました。
『漂流劇undefinedひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司

『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司

この物語が初回放映から半世紀を経て、「漂流劇」として舞台化。串田和美さんの演出で、原作のエッセンスを汲んだ場面をワークショップで少しずつ創造し、紡ぐ形をとっています。井上芳雄さん、安蘭けいさんを筆頭に白石加代子さん、小松政夫さんら多方面から集結したキャストと、宇野誠一郎さん、宮川彬良さんによる無国籍風で躍動感あふれる音楽の化学変化も見逃せない、原作への詩的オマージュ。昨年末に東京で開幕し、松本、大阪、福岡公演を経て2月に再び東京へ帰ってきます。
『漂流劇undefinedひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司

『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司


【観劇ミニ・レポート】
「トイレに入れ歯のお忘れ物がありました」等、人を食ったような場内アナウンスに続いて始まる舞台。光をあてると薄く向こう側が透けてみえる板に囲まれたステージには、荷物を持った人々がとりとめのない台詞をしゃべりながら登場、マシンガン・ダンディが井上芳雄さん、サンディ先生が安蘭けいさん等おおまかな役割はあるものの、舞台は原作のエピソードをなぞるというより、カラフルな出演者たちが奇妙な椅子取りゲームを始めたりそれぞれ体を開放して歌い踊ったりと、抽象的に展開して行きます。
『漂流劇undefinedひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司

『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』撮影:細野晋司

遊び心たっぷりに客いじりをしながらナンセンスソング(?)を歌う井上さん、人形を思わせる奇妙なお尻突き出しポーズが美しい安蘭さんらが次々繰り出す不思議世界で、狐につままれたような心地を味わっているうち、いつの間にか舞台は終盤へ。全員がある行動をとり始め、延々と繰り返してゆくそのさまは人生の象徴のようでもあり、彼らの愚かしくも無心な姿が次第に愛おしく見えてきます。『ひょっこりひょうたん島』という作品世界から生まれた、哲学的思索。21世紀の演劇人たちによる、原作への素敵なオマージュとなっています。

『音楽劇 星の王子さま』

1月16~17日=兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール
『音楽劇undefined星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

『音楽劇 星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

【見どころ】
1943年に刊行以来、世界的に愛され続けるサン=テグジュペリの『星の王子さま』。平易な文章で書かれながら、その内容は人生についての示唆に満ち、子供のみならず大人たちの間でも広く読まれています。映画版、アニメ版も数多く作られ、日本でも音楽座のミュージカル版等たびたび舞台化されていますが、今回は青木豪さんの脚本・演出、笠松泰洋さんの作曲・音楽監督による音楽劇版が誕生。昆夏美さんの王子様、伊礼彼方さんの飛行士、廣川三憲さんの飛行士の親友役にピアノとコントラバスというシンプルな編成で、作品のメッセージが豊かに描き出されそうです。
『音楽劇undefined星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

『音楽劇 星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

【観劇ミニ・レポート】
不揃いの台を集めたミニマリスティックな舞台に作者(サン=テグジュペリ)の友人(廣川三憲さん)が現れ、自分にあてて書かれた本を紹介する形で、物語は始まります。砂漠に墜落し、飛行機を修理中の飛行士(伊礼彼方さん)の前に唐突に現れた少年(昆夏美さん)は、「羊の絵を描いて」と言い出し、彼が渋々描く絵にいろいろと注文をつける。砂漠の迷子なら「喉が渇いた」とでもいうところを、この少年はなぜ羊の絵を求めるのか? ありえない展開に戸惑いながらも、徐々に物語の世界に引き込まれる飛行士。少年は実は別の星からやってきた王子様だと言い、これまで訪れた星での様々な人々(生き物)との出会いを語り始めます。それらははじめ他愛無い物語に聞こえますが、やがてそこには人生についての深い洞察が潜んでいること、そして王子がかけがえのない存在であることに飛行士は気付く…。
『音楽劇undefined星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

『音楽劇 星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

振付家と作曲家(兵庫公演では作曲家)のワークショップを経た子供から20代までの市民から成るアンサンブルがいくつかの場面で歌い踊ったり、二人編成のバンドとは思えない厚みのある音でロックンロール風のナンバーが展開したりと様々な趣向が凝らされながらも、舞台は昆さん、伊礼さん、廣川さんの安定感ある演技を主軸に、終始力強く進行します。とりわけ、現代音楽風の予想のつかないメロディものびやかに歌いこなし、無心に、まっすぐに思いを言葉にする昆さんの王子様が出色。伊礼さん演じる、身勝手な面もある人間臭い飛行士役、廣川さんによる、友人のみならず様々な役の柔軟な演じ分けも魅力的です。
『音楽劇undefined星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

『音楽劇 星の王子さま』写真提供:水戸芸術館

原作については政治的な物語である等、様々な解釈があるようですが、青木さんによる今回の『星の王子さま』では、人と人とが結ぶ絆――その素晴らしさと責任、そして不可避の悲しみ――に焦点が当てられ、わかりやすく描かれます。ささやかだけれどこの上なく美しい演出の幕切れに、観る者は心温まるものを感じずにはいられないでしょう。

*次頁で『ピアフ』以降の作品をご紹介します!
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