“ロックする”ことで自由が生まれるフォッシー・スタイル
抜群のスタイルを生かしたダイナミックなダンスに定評のある湖月さん。筋骨隆々のアメリカ人男性ダンサーたちの中で彼女のしなやかなダンスがどう映るか、も見どころです。(C)Marino Matsushima
「大きくジャンプしたり回ったりというような技術を見せるというよりは、その人自身を見せるダンスなのかなと思います。一つ一つの動きはストーリーを表現していて、例えば両肘を内に寄せて手先は動かすという振りがありますが、それは自由の無い監獄、そして禁酒法に縛られた時代のなかでも気ままに生きようとした人々の姿勢を意味しているんですよね。(フォッシー・ダンスの特色である)内股に立つ姿勢というのもクラシック・バレエとは真逆ですが、ある部分をロックすることによって他の部分がすごく動くんですよ。筋肉の動きが見えてくるんですね。これは演じる側にとってはなかなか難しくて、特に劇場が大きいと大きく動きたくなっちゃうのですが、ぐっと我慢して振りに忠実に踊っています」
――前回の宝塚OGバージョンは全員が女性でしたが、今回は筋骨隆々な男性もいらっしゃる中でのダンスということで、見せ方も変わってくるでしょうか。
「これまで、ダンス公演で何度か海外の方とご一緒する機会があったのですが、共演することで“連れて行ってもらえる”ことがあるんです。『アルジェンタンゴ』という公演でアルゼンチンの方と共演した時には、彼らの顔を見ただけでアルゼンチンの人になった気分になりました。今回もきっとカンパニーの中にはいってゆくことで、彼らにいざなわれて自然にシカゴの住人になれるのではないかな。“自分で世界を作らなきゃ”と思わず、自然にそこにいられたらいいのかな、と思います」
2014年『アルジェンタンゴ』撮影:阿久津知宏
「ないです!(笑) ただ、そんなふうに自然にいられれば最高だな、と。特にヴェルマは皆さんをいざなう役ですし、頑張っていることを見せない人だと思うので、余裕感を漂わせられたら。大きな船に乗ったつもりでできたら最高です」
――こつこつと努力を重ねることで「夢は叶う」ものなのですね。
「私は日ごろ、心配性ということもあって(笑)準備することをとても大事にしています。俳優って、どんな作品と巡り合うかわからないじゃないですか。宝塚在団中から、“夢に向かって一生懸命頑張っていたら、きっと誰かが見ていてくれる。たとえ理想とは違う形になったとしても、努力は自分を裏切らない”と信じて、何が来てもできるように、日ごろから準備をしていくことを自分のポリシーにしていました。実際、今回の公演を知ってから英語のレッスンを始めても絶対間に合わなかったと思うので、“いつかヴェルマ役に絶対役に立つ”と信じて英語にも取り組んで、こんなに新たな世界に出会うことができ、胸がいっぱいです」
――今回の舞台を、お客様たちにどうご覧いただきたいですか?
「6年前の来日公演で大澄さんが日本人としてただ一人出演され、その後、米倉涼子さんがロキシーを演じた舞台も拝見し、感動をいただきましたが、今回自分が(来日版に)挑戦させていただくなかで、ほんとうにお二人はものすごいプレッシャーを乗り越えていかれたんだなと感じます。そこから勇気をいただいて臨ませていただきますが、私がこのカンパニーの一員として出ていることで、お客様にも何か感じていただけたらとても嬉しいです」
*次頁からは湖月さんの「これまで」を伺います。活発で野球選手に憧れていた(!)という彼女ですが、小学生の時にひょんなことから運命の出会いをすることになり…。