海外版よりさらに洗練された舞台が予想される『ドッグファイト』
『ドッグファイト』稽古にて、春風ひとみさんと。写真提供:東宝演劇部
「私も中学、高校の時にはぽっちゃりしてて、“モテる”感じじゃなかったですよ(笑)。映画版を観ると、ローズは“普通の女の子”、男の子からすると特に目を留めず、素通りしてしまうような女性という感じですが、女性なら誰でも彼女の気持ちに共感できると思います。女性って外見で判断されることが多くて、“そこじゃないところを見てよ”と思ったりするじゃないですか。それは“きれい”と言われてる子でも同じで、常に外見ばかり言われることは、決して気持ちのいいことじゃありません。まだ最終的にどういうビジュアルにするかは決まっていませんが、わざとらしく誇張する表現は違うかなと思っています」
――では“どことなくあか抜けない”雰囲気を醸し出す、とか?
「そこなんですよね。工夫することには全く抵抗ないけれど、それをやることでフォーカスが外面的な部分に行ってしまうようなことは避けたい。“美しくない”ところじゃなくて、ローズの内面をハイライトしていけたら、と思っています」
――音楽的にはこの作品、いかがですか?
「冒頭に海兵隊の男の子たちのすごくきれいなコーラスがあって、そこでぐっと引き込まれると思います。ローズのソロは70年代的な繊細なギターの音色を利かせたフォークっぽい曲だったりして、全編ポップスでもクラシカルでもなく、入り込みやすい音楽のような気がします」
――ちょっと(スティーブン・)ソンドハイムっぽくも聴こえましたが。
「(ソンドハイムの)影響は受けているのかなと思います。彼の音楽ほど難解ではないし、歌っていて“今の音、合ってる?”みたいなことも無いけれど、『ウィキッド』のようにキャッチーなポップスではなく、特定のメロディを複数のナンバーにちりばめた緻密な作りがソンドハイムっぽいんですよね。ローズが最初に歌うメロディも後で出てきますし、海兵隊たちが出征前の最後の晩に観た夜景と、ベトナムで最後に目に焼き付ける風景のシーンのメロディも同じだったりと、繊細に作られているなと感じます」
――稽古が始まって今、2週間ほどということですが、どんな舞台になりそうでしょうか?
『ドッグファイト』稽古より。写真提供:東宝演劇部
――ご覧になる方々に、どんなことを感じてほしいですか?
「本作は、人と人とのふれあいのお話なんだと思います。今はモノや情報が溢れていて、人と向き合う時間がおろそかになりがちですよね。スマホにゲームにと、時間の使い方が多様化していて、自分の好きなことだけやっていても生きていける世の中です。でも、世界にはいろんな人がいて、その中には価値観が相容れない人もいるかもしれないけれど、わかりあうことは大事で、それをあきらめちゃいけない、というメッセージが本作の根本にあるのではないでしょうか。今の世界情勢を見ても、“どうしてあんなことをするんだろう”という人たちに対して“残虐で頭のおかしい人たち”と切り捨てるのではなく、その裏に何があるのか、想像する力を持たないと解決には至らないですよね。
そこまで深刻に考えながら観る必要はありませんが、ふとした瞬間にそんなことをちょっとだけでも感じていただけたら嬉しいです。本当に、いい作品なんですよ。屋良さんはすごくいい方なので、デリカシーのないエディーというキャラクターを演じるのに苦労されていますが(笑)、私も自分の世界を飛び出したことがない冴えない女の子というキャラクターで、そういう“魅力的でない部分”をお互い忠実に演じてゆけば、逆に物語が魅力的に見えてくるのではないかと思うので、繊細に、丁寧に取り組んでいるところです」
*次頁ではエマさんのこれまでをうかがいます。アメリカの大学でエマさんが専攻したのは、ちょっとマイナーな学問。しかしそれが、今のミュージカルのお仕事にとても生きているのだそうです。