マンション管理

自由化前?自由化後?マンション一括受電への切り替え

マンションの一括受電のしくみやメリットはもちろん、これに伴うリスクまでを正しく理解している方は極めて少ないと思われます。一括受電導入の際の要件や検討すべきポイントは何か、また電力小売りの完全自由化を目前に控えて留意すべき点をご案内します。

村上 智史

執筆者:村上 智史

マンション管理士ガイド

電力自由化の年表

段階的に進んだ電力小売りの自由化<東京電力のホームページより転載>

電力の小売り「完全自由化」が、平成28(2016)年4月に実現します。ただ、あまり一般には知られていませんが、電力自由化は平成7年(1995年)以降段階的に進められており、市場全体の6割強はすでに自由化されています。

来年の「完全自由化」とは、個人・家庭部門を中心とする残り4割のマーケットが自由化されることを意味しています。

マンションの一括受電とは

既存のほとんどのマンションでは、各住戸の居住者が電力会社と個別に契約しているのが一般的です。しかし、部分的な自由化の一環として、平成17年(2005年)に高圧電力を購入できる契約者の基準が変わり、それまでの500kw以上から50kw以上へと大幅に緩和されました。

その結果、一定の規模(※ファミリータイプで40戸程度が目安)を超えるマンションなら全住戸分の電力をまとめ買いすることができるようになりました。これを「高圧一括受電」と言います。

高圧一括受電のしくみ

高圧一括受電のしくみ

一括受電のメリットは、高圧の従量料金が低圧のそれに比べて3割ほど安いために費用負担を大きく下げられる点にあります。ただし、その一方で乗り越えなければならない条件が4つあります。

一括受電実現の条件

1)  全居住者からの同意取り付け
一括受電導入を正式に決定するには、まず管理組合の総会決議が必要です。さらに、居住者の個別契約を管理組合との一括契約に変更するため、すべての居住者から同意書を取り付けなければなりません。

2)  変電設備等の取得
高圧の電気はそのまま利用することができません。建物内に低圧の電力を供給するために、管理組合自らが変電設備(キュービクル)を所有・管理することが必要になります。

また、一括受電に際して各居住者の電力会社との既存契約を一旦すべて解除するのに伴い、電力会社が提供している各住戸の検針メーターやアンペアブレーカーも撤去されるので、それらも新たに購入しなければなりません。

3) 電気料金の請求・出納の管理
毎月の使用量の検針や料金の請求についても、一括受電実現後は電力会社の代わりに管理組合が自らやるか、外部に委託するかを選択する必要があります。

4) 設備の保守点検
自家用の電気工作物を所有する場合には、電気主任技術者を選任のうえ設備の予防保全を行うため点検計画などを作成し、国に提出する必要があります。ただ、有資格者のいない管理組合は、電気保安協会などの専門業者に委託するため、別途保守点検費用を負担しなければなりません。

また、3年に1回の頻度で約1時間程度、建物全体の停電を伴う設備の精密点検が義務づけられている点にも留意する必要があります。

一括受電業者に委託するスキームが主流

しかしながら、実際に管理組合自らが事業者となって一括受電しているケースは非常に稀です。高圧一括受電を提供する事業者が現れ、管理組合が投資負担なく電気料金を削減できるサービスを提供するようになったからです。

契約スキーム

一括受電事業者の契約スキーム

具体的なしくみはこうです。一括受電業者が、自らの負担で変電設備をマンション内に設置し高圧で受電します。マンション全体の電力を安く仕入れるため、その価格メリットの一部を管理組合に対して「共用部の電気料金の値下げ※」として還元します。(※管理組合のリクエストに応じて、各専有住戸への還元プランも用意している場合もあります。)

一方、専有住戸に対しては地域電力会社の料金体系にしたがって請求するため、料金の差益が得られます。さらに、使用量の検針から料金の出納請求業務を受託することで安定した収益を得ることができます。

管理組合にとっては一切の費用負担がないまま確実に電気料金を削減できるというメリットがあります。ただし、専有部の削減メリットの多くは、一括受電業者が事実上享受する点に留意する必要があります。

また、事業者との契約期間は10~15年(以降は3年毎の更新)が多く、中途で解約を申し入れた場合には違約金を請求されるのが一般的です。また、契約更新の際には、当初の契約条件が変更になる可能性があります。

その場合、たとえ管理組合にとって不利な条件を提案されてもそれを覆すのは困難かもしれません。というのも、最終的に交渉が決裂して契約を解除することになった場合、現設備の撤去費用を組合側が負担することを契約上求められているからです。

なお、管理組合が自ら事業者となる場合と、一括受電事業者と契約する場合の比較を下記の通りまとめましたので、ご参考にしてください。 

スキーム比較表

一括受電 2つのスキームの比較


気になる来年の「完全自由化」の影響は?

冒頭にもご案内したように、いよいよ来年4月から家庭・個人などの小口需要家を対象に電力の小売りが自由化されます。

これまで地域の電力会社と契約するほかに選択肢がありませんでしたが、自由化後はたとえば他の電力会社、あるいはガス会社や通信会社などの新規参入企業から購入することも可能になります。

したがって、一括受電によらずとも各人が契約先を他社に切り替えてより有利な条件にできる可能性があります。

では、各自で個別に選択するのと、管理組合でまとめ買い(一括受電)するのとではどちらがお得なのでしょうか?

率直に言って、それを判断するのはたいへん難しいと言わざるを得ません。ただ、一括受電業者のスキームの場合、専有住戸だけを対象に料金削減分を還元しても現状の5~10%ダウンが一般的です。

この程度なら、新規参入企業による値引きプランが登場した場合にはその優位性を失うことが予想されます。まして一括受電するには全戸承認を取り付けるという高いハードルがあるため、少々の差であれば個別に契約を切り替える方を選択するのが自然な流れかもしれません。

ただ、管理組合が事業者となるスキームの場合には、設備償却費の負担を考慮しても電気料金が10数パーセント下がることが多いです。さらに、今後自由化が進んでPPS(大規模電気事業者)などの選択肢が豊富となった場合には、100戸や200戸単位のバイイング・パワーを梃子により有利な条件で電力を購入できる可能性も期待できます。

全戸承認の取り付けや多額の設備投資の負担など、乗り越えなければならない条件は決して容易ではありませんが、組合事業者型のスキームによる一括受電なら小口需要家の自由化メリットを上回ることは十分可能ではないか、というのが私の見立てです。

管理組合としては、来春の自由化以降さまざまな既得権が発生する前に、一括受電を選ぶのか、あるいは各家庭で自由に選ぶのか方向性を決めておくことが重要かもしれません。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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