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「電力小売りの全面自由化って何?」が分かる基礎知識

電力小売りの全面自由化が2016年4月に実施されます。契約の切り替えをしなければならないわけではありませんが、トクになるのであれば早めに検討を始めたいものです。そのために、電力小売りの全面自由化がいったいどのようなものなのか、まずは基礎知識を学んでおきましょう。

執筆者:平野 雅之


「2016年4月に電力小売りが全面自由化される」という話をニュースで聞いたり新聞で読んだりしたことのある人は多いと思いますが、何がどう変わるのか、具体的な内容はよく分からないという人も少なからずいらっしゃるでしょう。

そこで今回は、電力小売りの全面自由化をおよそ半年後に控えた2015年10月の段階で、ぜひ理解しておきたい基本的なポイントをまとめてみました。


電力小売りの何が自由化される?

これまで家庭で使う電気の契約先は住む場所によって決められていました。東京に住めば東京電力、大阪に住めば関西電力のように、既存電力会社10社が地域ごとに独占していたのです。これが自由化されることで居住地域の制約がなくなり、東京の住宅で東京電力以外の会社と契約する、あるいは大阪の住宅で関西電力以外の会社と契約するといったことが可能になります。

リビングで寛ぐ家族

電気をどこから買うのかが選べるようになる

それだけではなく、小売りが自由化されることで新規電力会社(小売電気事業者)の参入も認められ「どこの会社と契約することも自由」になるのです。

地域や利用条件が限定される場合もあるため、すべての会社の中から自由に選ぶというわけにはいきませんが、小売電気事業者として2016年4月の時点で100社前後の参入が見込まれるため、消費者の選択肢はかなり広がることになるでしょう。

実は日本において電力の部分自由化が1995年から始まっています。当初は特定区域内を対象としたものでしたが、2000年に地域を限らず2,000kW以上、2004年に500kW以上、2005年に50kW以上と徐々に自由化の対象が引き下げられてきました。

しかし、一般家庭や小規模店舗などが該当する50kW未満の「低圧電力」については自由化の対象外だったのです。これらを含めたすべての電力小売りが2016年4月に自由化されるため「全面自由化」あるいは「完全自由化」といわれています。


電力小売りの基本的なイメージ

たとえば、株式会社オールアバウトが電力子会社「オールアバウト電力」を設立して小売り事業に参入する場合を考えてみましょう。オールアバウト電力は自ら発電設備をつくる必要はなく、他の発電事業者から卸電力を仕入れたり、一般家庭の太陽光発電による余剰電力を買い取ったりすればよいのです。

そして、調達した電力を契約者である一般家庭に販売するのですが、このとき契約者へ送られる電力にブランド名があったり、タグが付いていたりするわけではありません。実際に契約者へ届けられるのは、これまでと何ら変わらない電力であり、送電線や配電線、電柱なども従来のものがそのまま使われます。

つまり、オールアバウト電力は契約者(顧客)が使った分の電力を、電力網に供給(補充)すればよいことになります。契約者は毎月の電気料金をオールアバウト電力に支払い、オールアバウト電力はその中から電力の仕入れ代金、送電線などの使用料金を支払います。

消費者からみれば、契約の切り替えによって毎月の電気料金の支払い先と、その料金体系だけが変わると考えて差し支えないでしょう。

送電線と鉄塔

小売電気事業者は既存の送電線や配電線などを借りることになる



顧客獲得のためにさまざまなサービスを付加

それでは、オールアバウト電力が契約者を獲得するためにはどうすればよいのでしょうか。当然のことながら、小売り価格の問題は重要です。売る商品は他の事業者とまったく同質の電気ですから、他よりも高ければ誰も契約してくれません。

ところが、あまり安くしてしまっては事業の採算が合わないほか、既存の送電線や配電線などを利用するために支払う「託送料金」の負担も大きいため、過度な価格競争はできないのです。

そこで、オールアバウト電力は契約者のための付加サービスを考えます。「オールアバウト電力と契約をすれば、生活全般に関わるさまざまな専門家の個別相談を無料で受けることができる」というのも一つの方法でしょう。

しかし、それだけでは相談を必要としない顧客へアピールすることが難しく、営業対象も限られるため、契約者を増やそうとするならもっと日常生活に密着した付加価値も求められます。そのため異業種の企業などと提携して、日常の買い物やネットショッピングに使えるポイントサービス、割引サービスなどを展開することが有効になりそうです。

実際に電力小売り事業への参入を予定している企業は、異業種との提携による「セット販売」を前提としているケースが多いほか、再生可能エネルギーなど消費者の意識へ働きかけるものもあるようです。すでに何らかの会員組織を持つ企業、電力以外の契約顧客を抱える企業を巻き込んで、さまざまな種類の付加価値サービスが出てくることでしょう。

また、具体的なサービス内容や電気料金体系などは2015年12月から2016年1月頃にかけて明らかになるものと見込まれます。これは、小売電気事業者が支払う「託送料金」(送電線や配電線などの使用料)が、「電力取引監視等委員会」の審査を経て2015年12月中に決められる予定となっているためです。

なお、株式会社オールアバウトに電力小売り事業への参入予定はありません。


マンションの場合は別の選択肢もある

電力小売りの全面自由化は、もちろんマンションの居住者も対象です。しかし、一定規模以上のマンションでは高圧一括受電によって割安な電気供給を受けることが、すでに2005年から可能となっています。

ファミリータイプのマンションでおおむね40戸程度よりも規模が大きければ、それぞれの住戸で個別に小売電気事業者と契約するよりも、一括受電のほうが有利なケースもあるでしょう。

すでに一括受電を導入しているマンションは契約をそのまま維持し、導入していないマンションは一括受電にするのか個別に小売電気事業者と契約するのかを選択、小規模マンションは小売電気事業者を検討する、ということになります。

なお、一括受電の場合は全戸がまとまって契約しなければならないため、それぞれのメリットとデメリットを吟味しながら管理組合でよく話し合わなければなりません。


契約した小売電気事業者が倒産したらどうなる?

もし、契約先の小売電気事業者が何らかの事情で電力を供給できなくなったらどうなるでしょうか。そのような場合でも、消費者への電力供給が止まったり停電したりすることはありません。その分を他の事業者が肩代わりして供給する仕組みとなっているのです。肩代わり分は後で事業者間において精算されます。

万一、倒産してしまった場合も同様に電力がストップすることはなく、一時的に契約先以外の電力会社へ使用料を支払わなければならなくなるでしょうが、消費者は新たな小売電気事業者を選んで契約し直せばよいことになります。

そのときに、それまでの付加サービス分が無駄になってしまうのか、それとも有効なままなのかは、そのサービス内容次第でしょう。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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