電気を自由に選べるといっても、その比較は難しい
それでは、小売電気事業者をどのように選び、どのような手続きをすればよいのでしょうか。その主なポイントを確認しておくことにしましょう。なお、電力小売り全面自由化の基本的な内容については ≪「電力小売りの全面自由化って何?」が分かる基礎知識≫ をご参照ください。
小売電気事業者のプランは多種多様なものが用意される予定
経済産業省から10月8日に公表された事前登録の40社には、NTTグループ、東京ガス、大阪ガスが出資する「エネット」、中部電力や三菱商事が出資する「ダイヤモンドパワー」のほか、昭和シェル石油、東燃ゼネラル石油、出光グリーンパワーなど石油元売り会社など大手とともに、「一般財団法人神奈川県太陽光発電協会」や「東京エコサービス」なども名を連ねています。「神奈川県太陽光発電協会」はその名称のとおり太陽光発電などによる再生可能エネルギーを取り扱っています。また、「東京エコサービス」は東京23区清掃一部事務組合と東京ガスの共同出資による会社であり、23区内のごみ焼却による熱エネルギーを利用して発電しています。
それ以外にもすでに申請をしている事業者は多く、2016年4月には100社前後が出揃うものと見込まれていますが、それぞれの具体的なサービス内容や料金体系などは2015年末から2016年1月頃に明らかにされるでしょう。
これは電力取引監視等委員会による「託送料金」(既存の送電線や配電線などの利用料金)の審査が12月末までに終わる予定となっているほか、経済産業省による政省令の整備やガイドラインの策定も年内がめどとされているためです。
これまでに報道されている主なサービスやセット販売などは次のようなものです。
□ ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど通信会社との提携(東京電力、JX日鉱日石など)
□ 共通ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」「Tポイント」との提携(東京電力)
□ インターネット回線サービスと電気のセット販売(関西電力系通信会社など)
□ ガソリン給油代などの割引(石油元売り各社)
□ 電力と都市ガスのセット販売(東京ガス、大阪ガスなど)
□ LPガス大手との提携(東京電力)
□ USENとの提携による音楽配信サービス(東京電力)
□ 利用者のライフスタイルに合わせた柔軟な料金メニュー(九州電力)
□ 定期券利用者や沿線のケーブルテレビ加入者を対象にセット割引(東急パワーサプライ)
□ 住宅設備のトラブルに対応するサービス(関西電力、東京ガスなど)
□ 高齢者の見守りサービス(中部電力)
□ 独自のポイントサービス(東京ガス)
また、「楽天が丸紅と組んで電気小売りに乗り出す計画」であることが報じられました。当面は「楽天市場」に出店する事業者を対象とするものの、それが軌道に乗れば一般家庭への電力小売りを検討するのだそうです。
各地の生協(生活協同組合)による組合員への電力販売や、自治体による再生可能エネルギー購入支援制度などもいくつか計画されているほか、さらに特長のあるサービスもこれから明らかにされてくるでしょう。
小売電気事業者を選ぶときの手続きはどうなる?
2016年1月には一部の小売電気事業者で事前予約手続きが始まる予定ですが、とくに急ぐ事情がないかぎり、一般的には全面自由化後の手続きで構わないでしょう。2016年4月の全面自由化実施に合わせて「スイッチング支援システム」が運用開始される予定であり、利用者は自分が選んだ小売電気事業者に申し込みをするだけで、従来の契約廃止を含めた変更手続きなどを済ませることができます。ただし、電気設備の変更を伴う場合は別の手続きも必要となるようです。
利用者は専用のWEBページ、事業者の店頭(提携会社などの店舗を含む)あるいは郵送などで「新たな事業者へ申し込み」をします。利用者からの申し込みを受けた小売電気事業者は、「スイッチング支援システム」を使ってこれまでの電力契約状況などの情報を入手し、切り替え手続きを進めるのです。
また、申し込みの際における利用者の本人確認方法なども、2016年3月までに明らかにされる予定となっています。
なお、スマートメーターへの取替工事が必要となる場合は申し込みから切り替えまで1か月近くを要するケースもあるようですが、それが必要なければ申し込みから数日中には切り替えられます。ただし、申し込みが殺到すればそれなりに期間がかかることもあるでしょう。
最適なプランは世帯ごとに異なる
電力小売りの自由化によってさまざまなサービスが展開されますが、その中からどれを選ぶのかは難しい問題です。民間の「電力比較サイト」なども開設されるようですが、サービスの中身が小売電気事業者ごとに違うため、単純な優劣は判断しにくいでしょう。まずは、住んでいる地域を供給エリアとする小売電気事業者であることが前提となりますが、電気料金プラン、付帯サービスなどを総合的に判断しなければなりません。もちろん、「既存の電力会社のまま契約プランを見直す」というのも一つの選択肢です。
小売電気事業者を選ぶというよりも、付帯サービスなどを主眼に選ぶほうが判断しやすい場合もあるでしょう。自分がすでに持っているポイントカードを活用するならA社かB社、自動車を運転する機会が多いならガソリンが安くなるC社かD社、自分のスマホ契約に合わせてE社かF社、地域密着サービスを優先するならG社、再生可能エネルギーにこだわるならH社、といった具合です。
いずれにしても「自分が使えるサービス」が付いていなければ、小売電気事業者を選ぶメリットは生まれません。契約の切り替えを急ぐ必要はありませんから、これから発表される詳細な料金プランや付帯サービスをじっくりと検討するようにしましょう。
なお、それぞれの小売電気事業者による供給予定区域などは「資源エネルギー庁」のホームページに掲載される予定となっています。
電気料金プランだけで選んでもよい?
小売電気事業者を選ぶ際には、当然のことながら毎月の電気料金が気になります。少しでも安くしたいと考えるが普通でしょう。しかし、電気料金の単価が固定されるわけではなく、将来的に「いつ変わるか分からない」ことにも注意しなければなりません。2016年4月に実施される電力小売り自由化の後も、当分の間は送配電業務を既存大手電力10社(旧電力)が担います。これを旧電力から切り離す「発送電分離」は2020年4月の予定となっていますが、この時点で国による電気料金規制が撤廃され、料金体系を含めた自由化が完了するのです。
電気料金の自由化により「価格競争が起き、電気料金は下がる」と期待する向きもあるようですが、自由化が先行した欧米では逆に電気料金が上がった事例が多いことにも留意が必要です。規制が撤廃されれば、電気料金を下げることだけでなく、経営環境に応じて値上げすることも自由なのです。発電のための燃料費が高騰すれば、すぐに電気料金が上がることもあるでしょう。
そのとき、事前の周知がしっかりできるかどうか、小売電気事業者によって対応が分かれることも考えられます。十分に知らされないまま「急に電気料金が上がっていた」という問題が起きるかもしれません。
電気料金の問題だけにかぎらず、小売電気事業者にはあらゆる場面で契約者に対する細かなフォローなどが求められます。したがって、そういったことのできる会社かどうか、というのも小売電気事業者を選ぶ際の一つの視点として挙げられるでしょう。