トリフォノフ(ピアノ) ラフマニノフ:パガニーニ狂詩曲、変奏曲集
2010年のショパン・コンクールで第3位入賞、翌年のルービンシュタイン・コンクールとチャイコフスキー・コンクールに連続優勝したトリフォノフ。ロシア・ピアニズムの正統を嗣ぐ若きヴィルトゥオーソによるラフマニノフへのトリビュート・アルバム。透明で輝かしい音色、確実なテクニックで難曲を鮮やかに弾きこなします。共演はネゼ=セガンとフィラ管という豪華布陣。トリフォノフ自身の作曲による〈ラフマニアーナ〉も収録しています。
■ガイド大塚の感想
『パガニーニ狂詩曲』は、ネゼ=セガンの透明で精緻なバックを受け、トリフォノフが細かなニュアンスを付け、キラキラと愉悦に満ちた演奏をビシッと聴かせる。有名な18変奏は、小さく始まりクレッシェンドで劇的に熱を帯び、ネゼ=セガンの寄せては返すオーケストラと大きな歌を作る。独奏曲では、表現の幅が大きく、より深遠な世界観に引き込まれる。特にショパンの変奏曲は音楽構成上の理由から省略が行われる箇所もあり、個人的な強い思いがあるのでは?という内向的な深い共感に満ちた演奏。自作曲もトリフォノフの天才を誇らしめる内容で素晴らしい。
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水野由紀(チェロ) ハイドン:チェロ協奏曲第2番、ブルッフ:コル・ニドライ、他
期待のチェリスト待望の4thアルバムはメインの収録曲に飯森範親の指揮と日本センチュリーのサポートでチェリストにとって古典派の中でも定番の協奏曲を据え、自身の可能性に挑戦しました。デュオでは須関裕子(p)の安定感のある伴奏で、モーツァルトの親しみやすい旋律を見事に変奏しました。2曲の時代を隔てた「アヴェ・マリア」も聴き応えのある演奏。可憐な中にも凛とした輝きを放つ新星チェリストのスケール大きな演奏です。
■ガイド大塚の感想
ものすごく上手く、深く、惚れ惚れするチェロ。ハイドンは古典の構成感に時に収まりきらない甘美なチェロの歌がたまらないし、息の長い『コル・ニドライ』は官能的な艶やかな歌い回しが魅力。低音のしっかりとした腰の強さと、休符の前で吐息のように消えるヴィブラートに聴き惚れる。小品も張った太い中低音と軽やかな高音を艶やかに繋ぎ、思わずため息をつく美しさ。はぁ、変な話、アイドル的な見た目で軽い音楽と思っちゃいけないよ。
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アルテミス・カルテット ブラームス:弦楽四重奏曲第1・3番
「その音楽性は他全てのアンサンブルを凌駕する」と評される、アルテミス・カルテット。彼らの若手新感覚のブラームス像は、ロマン的なものを取り去り、長年に渡って研鑽を積んだ高度な合奏能力によって、シャープな情熱で埋め尽くされたもの。これこそ、最もモダンなブラームスと言えるのではないでしょうか。ヴィオラで中声部を支えてきたフリーデマン・ヴァイグレは、残念ながら先日(2015年7月)に亡くなられました。惜しくもこのアルバムは、彼の遺作となってしまいました。
■ガイド大塚の感想
これもかっこいい演奏だなぁ。古色蒼然としたブラームスの姿はなく、クリアな空気の彫刻を創出する。第1番終楽章のパッションから、第3番第1楽章の溌剌さに切り替わる、CDならではの対比の妙も粋。熱くはなっても乱れない知的な情感と構成力には脱帽。ところでこれが残念ながらヴァイグレの遺作とのことだが、ヴィオラのみ弱音器を付けない第3番3楽章での歌など、生命力ある美を湛えたものであり、死が信じられない。ご冥福をお祈りいたします。
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ユンディ・リ(ピアノ) ショパン:プレリュード全集
ショパン・コンクール優勝から15年を経たユンディがショパンに戻ってきました。今年のショパン・コンクールでは、史上最年少審査員を務めショパン弾きとしての存在感が更に増しています。ここに聴くプレリュード全曲は、エレガントで詩的な彼の特質がさらに磨かれた表現で聴けるのみならず、洞察力に富み、一音一音を吟味した存在感のある音楽で各曲の本質に迫り、新たなショパン演奏の地平を拓いています。11月の来日公演も楽しみ!
■ガイド大塚の感想
速い! 1曲目から柔らかくスキップするようで驚かされる。なんだこれは、蒸気のような。この人はショパン・コンクール優勝時から(「キムタク似」というのも話題となった)詩的な天才な風があり、世間と一線を画す独自の境地があるように感じるが、このプレリュードもまたそうした印象を持った。ショパンの繊細な仕事に感服し、それを聴き手に分かるように弾くのではなく、理解した上で、詩に昇華させる。そしてそこにはあざとさがない。
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