ピアノとサックスの火に出るようなやり取りと言えば…
ピアノとサックスの火の出るようなやり取りと言えば、なんといってもソニー・スティットとバド・パウエルの丁々発止のやり取りで有名な「ファイン・アンド・ダンディ、テイク1」(「スティット・パウエル・JJ」に収録)。この「今宵の君は」はその演奏を思わせ、ゾクゾクします。この時もスティットのバックで乗りに乗ったバドが割り込むようにアドリブに入るさまが、これぞカッティング・セッション(真剣勝負のセッションのこと。ビ・バップ黎明時に下手なものは落とされるところからこの名前がついた)といった、最高に興奮させられる部分でした。
この「今宵の君は」でも、マイルス・バンドで売り出し中だったピアノのウィントン・ケリーが、何もさせてもらえず、うずうずして飛び出すさまが、興奮を生んでいます。
これには、さすがのグリフィンも押されて、サビの部分をウィントンに渡そうと演奏を止めます。これは、スティットとパウエルの再現かと思った矢先に、驚いたことに、その飛び出したはずのウィントンがソロを止めてしまいます。
伴奏だけが聞こえるシーンとしたサビの部分。一瞬あれってグリフィンがずっこけてしまった様子がうかがわれます。ドラムのアート・ブレーキーによる、どうなってんの?というリムショットを聞いて、えっ俺?とようやく弾きはじめるウィントン。時すでに遅し、速いテンポなのであっという間にサビは終わってしまい、最高の見せ場を失ってしまいます。
こういったところも、あまり取り決めをせずに行うジャズの醍醐味なのかもしれません。ぜひ、もう一度この「今宵の君は」をプレイヤーの立場を考えながら聴いてみてください。演奏中に会話をするようにプレイする名人たちの人間味を感じることができれば、ジャズに対する興味もさらに深くなってくるはずです。
さあ、あなたも、早速好きなミュージシャンでぜひブラインドフォールドテスト・ゲームをやってみてください。ではまた次回お会いしましょう。