ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.28 井上芳雄、剥き出しの愛を究める(6ページ目)

今夏『エリザベート』で闇の帝王トートをダイナミックに演じ、俳優として一層の存在感を示した井上芳雄さん。彼がこの秋、取り組むのは“執着”と紙一重の激烈な愛を描く、ソンドハイムの傑作『パッション』です。稽古序盤の彼を訪ね、新たな当たり役の予感からこれまでの軌跡まで、”濃厚に”お話頂きました。*観劇レポートを掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


「ひとこと」に命をかける、という衝撃

『SHOW-ism8ユイット』写真提供:東宝演劇部

『SHOW-ism8ユイット』写真提供:東宝演劇部

――ミュージカルにとどまらず、ストレートプレイにも積極的に出演されているのは、ご自身の意向ですか?

「そうですね、お芝居が下手だった…というか、やったことがなかったので経験を積みたかったんです。デビュー以来、勢いで出来ている気がしていたし、ミュージカルには音楽の力があるので、本当の意味で芝居が成立していなくても音楽の力で出来てしまう危険があるなと気がつきまして。

人によって考え方が違うかもしれないけれど、僕は“たとえ音楽がなくてもその役がやれる自分”が、ミュージカルで芝居をしたいと思うんです。例えばトートという役は、もし歌が無かったらものすごく難しい役だと思うんですよ。でもそれでも役が成立できるくらいの演技力がないと、歌があるから演じられているというのは違うんじゃないか。でもその演技力が自分には無かったので、これはストレート・プレイをやらないと、どうにもこうにも身につかないと思って、挑戦することにしたんです」
『ミス・サイゴン』写真提供:東宝演劇部

『ミス・サイゴン』写真提供:東宝演劇部

――ストレートプレイでは言葉を発するにあたり、意味を伝えるだけでなく日本語の響きにこだわったりと、一語一語を突き詰めることが多いかと思いますが、どんな発見がありましたか?

「(ミュージカルの)歌って、メロディはもちろん、強調すべきところは大きく歌うことになっていたりと、流れを全部作ってくれているんです。いっぽうストレート・プレイでは、それを自分でやらなくてはいけないんですよね。自分で強弱とか濃淡を付けたりという作業、それはとても難しいし、クリエイティブな作業であって、お芝居をやっている人たちは常に、“この一言をどうやって言うか”を考えて、議論している。ミュージカルでは歌やダンスもあって、そこまで言葉を突き詰めているわけにはいかないので、びっくりしました。“ひとこと”に命をかけている人たちにはかなわない、自分はこの方たちの3倍やらないと。ミュージカルだけやっていたら同じところまでは行けない、と今でも思います。(インタビューを受けている)今もこうやって普通にしゃべっていますが、ふだんの行為であるがゆえに、これを人前でお見せできるレベルのことにするというのは、実はとても難しいことなんだと痛感しますね」

続けてゆく、そのためにすべきこと

『二都物語』写真提供:東宝演劇部

『二都物語』写真提供:東宝演劇部

――表現者として、今後どんなビジョンを抱いていらっしゃいますか?

「これまでたくさんのことをやらせていただいてきて、夢も叶いましたし、“これを”というものはないのですが、この状況を続けたいですね。こういうと後ろ向きに聞こえるかもしれませんが、現状維持って大変なことだと思うんです。もちろんこれからもさらに上がっていきたいけれど、経験もある程度積んでチャンスもいろいろいただいて、それに結果もついてくるようになって、ちょっと過大に評価していただいている部分もあると思いますが(笑)、今はピークだなと思っているので、願わくばこの現状を維持出来たらすごいと思うし、さらなるピークが来るかもしれないし、逆にどんと落ちるかもしれないけれど(笑)、続けていきたいですね」

――先日、WOWOWで放映されたミュージカル・コンサート番組で司会・出演をされていましたが、拝見していて、日本のミュージカル界を牽引してゆく責任感をお持ちなのだなと感じました。

「ミュージカルってまだまだ国民的なジャンルになっているとは言えなくて、もっと盛り上がれると思うんです。俳優という仕事をしていると自分のことばかり気になりがちですが、世の中ってそういうものではなくて、周りを見ながら盛り上げていくことで、結果的に自分も盛り上がっていけるのかなと思うんですね。“こんな素敵な曲がありますよ”と紹介するのもいいし、何でもできることはやって、自分も続けていけたらと思っています」

*****
その明瞭な歌唱そのままの、のびのびとして、明朗闊達な井上さん。陰陽で言えば本質的に「陽」の人でありながら、『エリザベート』では独自のアプローチで新たな闇の帝王像を切り拓いた直後だけに、今回の『パッション』では“密室劇”と錯覚できるほど濃密な恋愛模様をどう演じるか。そしてこの作品を通して彼が何を掴んでゆくのか…。興味は尽きません。

*公演情報*『パッション』10月16日~11月8日=新国立劇場 Z席1620円は公演当日10時より、ボックスオフィス窓口(電話不可)で販売。一人1枚。
*次頁で『パッション』観劇レポートを掲載しました!*
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