作品特有の「濃密さ」のなかで
新たな当たり役を創り上げたい
『パッション』撮影:熊谷仁男
「まだわからない部分もありますが、この作品はすごく小さい劇場でもできるような作品だと思うんです。ほぼ(ジョルジオ、クララ、フォスカという)3人の話で、人間関係がすごく濃密。できるだけ濃くやりたいけれど、今回は大きな劇場で演じるので、その濃密さをお客様とどう共有していくか、これから宮田さんの演出のもとで考えていきたいな、それが面白くなるところなんじゃないかなと思いますね。ミュージカルとして音楽的要素もあるし、そこに演劇の魔法がかかってゆくのが楽しみです」
――私は以前、ロンドンでこの作品を観ましたが、ロンドンの劇場は円形がかっていて、舞台を客席が囲っているような形状のため、本作の“逃げ場のない”感覚が非常に強調されていたような気がします。それに比較すると、新国立劇場は開放的です。
「そのあたりは宮田さんの担当になると思いますが(笑)、どうやって見せるのか、楽しみですね。この作品はほぼほぼ3人の芝居で、登場人物は多いけれど、ほとんどは箇所箇所にしか出てこない。その中でジョルジオは出ずっぱりで、今のところそれほどダイナミックな動きがあるわけでもないし、驚くような装置が出てくるわけでもない。ドラマで見せるしかないんです。今は“とりあえず立って動いてみよう”と、自分たちの感じてみたことをやって宮田さんに観ていただいているところ。この先、もっともっと濃くなって劇場を満たすぐらいになるといい、というかしなくては、と思いますね」
――ご自身にとって『パッション』をどんな経験にしたいと思っていらっしゃいますか?
『パッション』撮影:熊谷仁男
――真実の意味での男のかっこよさ、それは本作の一つの隠しテーマかもしれませんね。
「どうでしょうね。昨日の稽古で1幕を通してやってみると、僕(ジョルジオ)はほとんど舞台からハケない(退場しない)んですよ。そうなるとお客様はきっと僕の目線で物語を体験すると思うんです。ずっと集中力をきらさず舞台に出ていると大変なんだけど、うまく行けば僕の感じたことをお客様も感じてくれるようになる、という面白さがあります。例えば僕と驚きを共有したり、最後にお客様も価値観を変えるまでに至るかもしれない。最後に“どうしてそうなっちゃったの”じゃなくて、願わくば“そうだよジョルジオ、それしかないよ”“意外だけどわかる気がする”と思っていただけるようになったら、とても面白い体験になるのではないかなと思います。
こういう作品はとかくフォスカのようなキャラクターが注目されがちで、ジョルジオのようなキャラクターは物語を運ぶ役割だし、受け身なので派手なことは無いんですけど、すごくやりがいがあると思います。いい役だなと興奮しながら稽古していますね」
*次頁からは井上さんの“これまで”を伺います。ミュージカルに目覚めたのは小学4年生のとき。すぐに夢中になるタイプだった芳雄少年は、九州でただ一人の“ミュージカルおたく少年”だった?!