25年がかりの街再生「富久クロス」が竣工
地上55階建てのタワー棟含む3つの住棟で構成
「西富久地区第一種市街地再開発事業」である「富久クロス」(野村不動産 三井不動産レジデンシャル 積水ハウス 阪急不動産)が竣工しました。1990年の地元住民の勉強会スタートから25年。バブル期の無秩序な土地売買によって課題を抱えたままだった地域は、住民参加型の再生によって防災機能や賑わいなどが強化され、新しい街に生まれ変わりました。街を訪ねて感じたのが、「富久クロス」独特の街づくり。分譲棟のタワー棟と賃貸棟と戸建て感覚の暮らしが過ごせるペントテラス棟の3棟構成。ペントテラスの下部には大型スーパーが入り、認定こども園や新宿区防災倉庫も設置されます。こうした街づくりは、早稲田大学研究員チームの支持を受け、平成9年から全国初の住民主導による「西富久まちづくり組合」を結成し地域の居住ニーズを幅広く吸い上げた結果でもあります。
さらに、同プロジェクトでは一度完成したプランをベースに、議論の場としてのWEB上に企画会議室「Tokyoイゴコチ論争」を設置しました。4万人の参加者と10万の声をベースに「1,000のイゴコチ」アイデアをまとめ、プランを磨き上げています。
実際に、「富久クロス」の中を入ると細やかなこだわりを随所に感じます。例えばエントランスホールに入る前のエントランスコンサバトリー。中央の球形のオブジェは、アプローチのアクセントになっています。
さらに進むと二層吹き抜けのエントランスホールの壁の一面が緑化されています。ベンチに座って眺めても寛げる居心地の良い空間になっています。
エントランスホールから続く通路は、ゆったりとしたカーブ状になっていてすれ違うときも緊張感を和らげます。さらに通路に面して、10のラウンジが用意されています。
ラウンジは、それぞれのテーマでコーディネート。カフェコーナーも用意され、ゆったりとお茶を飲みながら寛ぐことも可能です。
各ラウンジは、ゆるやかにつながっており人の気配をなんとなく感じるつくりに。これならその日の気分に応じて、部屋以外のスペースとして活用できそうです。テーブルや椅子などもラウンジごとに違っていて、作り手の細部のこだわりを感じます。
43階、44階にラウンジを配置 多彩な共用施設が魅力
フィットネスルームやクリエイティブラウンジも
地域に住む住民の意見として、コミュニティづくりに関するものが多く挙げられたそうです。そうした声は、共用施設の豊富さにもつながっています。共用施設は、B1階~3階と43階・44階に配置。高層階に配置されたスカイラウンジ(43階)やパーティーラウンジ(44階)からは、新宿副都心方面の景色を一望できます。共用施設の中には、住民の個別ニーズに配慮したものもあります。例えば、ペットを飼っている方に便利なペット足洗い場や楽器を使う人に便利な防音ルーム、喫煙者用にはスモーキングルームも用意されています。
そこに暮らす人の数だけニーズがあるとすれば、全体で1,222戸、タワー棟だけでも1,084戸であることを考えると多彩な共用施設があることは、一人一人のライフスタイルの充実につながるのかも知れません。
「富久クロス」が目指したのは、良好な住環境づくり、多世代が交流するコミュニティづくり、安心・安全なまちづくりの3つ。ハード面を見ると掲げた目標の多くは、達成していると思います。「富久クロス」では、「Tokyoイゴコチ論争」で集まったアイデアをベースに、2015年9月から2017年8月の2年間で交流イベントをはじめとする様々なプログラムが用意されています。立派な、共用施設も使われてこそ生きるモノ。より居住者がマンションを使いこなせるきっかけづくりも注目ポイントだと思います。
プロジェクトが完成するまでの25年間で、バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災など多くのハードルがあったとのこと。それを乗り越えたのは、産・官・学・民一体になった取り組みと住民の思い。100世帯あれば、100戸のニーズがあり世帯数の多い再開発は、なかなか進捗しにくいものですが、「富久クロス」を見るとその難しさゆえ実現すれば、独自性の高い素晴らしい街が誕生することを実感しました。