学費・教育費/子どもの貧困問題

貧困の連鎖を断ち切るために…キッズドアの無料学習塾

親の収入が少なく十分な教育が受けられない。そんな子どもたちを「無償の学習塾」という形で応援する団体があります。貧困の連鎖を断ち切ろうとする、その活動内容を紹介します。

鈴木 さや子

執筆者:鈴木 さや子

学費・教育費ガイド

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生活に困窮している子どもが増えている

「子どもの貧困」が悪化しています。厚生労働省「国民生活基礎調査(2012年)」によると、年間所得が122万円未満の世帯で暮らす18歳未満の子供の割合が16.3%と過去最悪の数値に。中でも、ひとり親家庭の子どもの貧困率は54.6%と、2人に1人以上の子どもが経済的に苦しい環境で暮らしています。

この日本でそんなに多いの? と思う人も多いかもしれません。貧困の大きな問題は「周りに見えづらい(わかりづらい)こと」なのです。

今回はそうした問題に真正面から取り組み、あらゆる角度で支援を行っているNPO法人キッズドアをご紹介します。

貧困が教育格差につながっている

貧困は子どもの学力や進路、就職に大きな影響を及ぼします。NPO法人キッズドアの資料によると、貧困世帯の子どもの学力低下の理由は、お金がなく塾に行かせられないという理由だけではないとのこと。

「家がせまくて勉強部屋がなく、きょうだいに勉強を邪魔される」「母親のダブルワーク・トリプルワークで、帰宅が深夜になって、子どもがテレビばかり見ている」「家にパソコンがない」といった生活環境が大きく影響していると指摘しています。保護者の年収と家庭での学習時間には、大きな因果関係があることを次のデータが示しています(画像のグラフ参照)。
家庭での学習時間と保護者の年収

年収が高いほど学習時間が長い。文部科学省 お茶の水女子大学委託研究(平成21年度)より作成

さらに問題なのは、「お金がないから」とあきらめてしまった子どもたちは、自己肯定感が低く、将来に対して希望を持てず就職が難しくなるケースも少なくないということ。収入の高い職業に就けないため、その子ども世代も貧困になる「貧困の連鎖」が起こってしまうのです。

イギリスでの経験から「日本は教育費が高過ぎる」と痛感

そんな「貧困の連鎖」を断ち切るために立ち上がった団体が「NPO法人キッズドア」。理事長の渡辺由美子さんは、自身も2人のお子さんがいるママです。

お子さんが小さい頃、転勤で1年間住んだイギリスで通った小学校では、ほとんど集金がありませんでした。家にあるモノで工作やバザーをし、みんなが持ち寄った文房具で助け合って勉強をする経験をした後に帰国し、「日本の教育にはなぜこんなにお金がかかるのか」と驚いたそうです。また、身近にいた母子家庭の子どもが、学年が上がるにつれて勉強が不得意になるのを目の当たりに……。

最初は学習支援ではなく、大変なママの代わりに子どもたちを預かったりしていたとのこと。そして、いまや年間のべ2万人以上の子どもたちが、キッズドアが開催する無料の学習会やキャリア教育、体験活動に参加しています。

小学生から大学生までを対象に無料の学習塾を運営

キッズドアでは教育格差を縮めるために、小学生から大学生まで縦断的にその時期に応じた必要な支援を積極的に行っています。

小学生:学校・学童、児童福祉施設、地域での無料の学習支援
中学生:高校受験対策講座[タダゼミ]と進学意欲向上ワーク
高校生:大学受験対策講座[ガチゼミ]
大学生:自立した社会人をめざすキャリア教育、大学生ボランティアの採用

また、学習会だけでなく、「教育費準備・教育相談」「食料(健康)支援・家計相談」などの窓口となり、関係専門機関へつなぐという大きな役割も果たされています。

無事合格し、進学の夢をかなえた子どもたち

実際、キッズドア主催の[タダゼミ][ガチゼミ]を受けて、志望校に合格した子どもたちも増えています。2014年度には中学生・高校生計219名が受験し、全員が見事、進学を果たしました。そんな子どもたちの喜びの声をピックアップします。

「僕は[タダゼミ]で、得意な教科は伸ばして、苦手な教科を克服して、都立高校に合格することができました」
「本当に親身になって私を支えてくれました。そのおかげで今年岩手大学に合格し、今は楽しく大学生活を送っています」

大学生ボランティアが身近なロールモデルに

経済的事情で十分に受験対策に取り組めていなかった子どもたちを支えるのは、キッズドアに所属する学習ボランティアスタッフです。

その多くが現役大学生であり、子どもたちにとって身近なロールモデルとなっています。「大学に行く」ということを現実的に考えることができ、受験のモチベーションもアップ。また、貧困家庭の子どもたちは、知っている世界が狭くコミュニティが少ないことが多いので、「大学生って本当にいるんだ!」と驚くのだそうです。

今後のキッズドアの活動は?

現在、東京の23区の一部と、東北地区でのみ活動されていますが、全国の貧困家庭の子どもたちのために、今後はエリアを拡げたいとのこと。そのためにも、キッズドアの理念・活動に賛同できる方にはぜひ地域を越えて事業をつないでいきたいとのことです。

また、ボランティアスタッフは300人以上が活動中ですが、さらに募集しています。勉強を教えるボランティアだけでなく、受付や教室の管理をするボランティアも重要で、多くの主婦の方も参加しています。気になる方はキッズドアのHPにアクセスしてみてください。

新たな取り組みとしては、無料の中学生英語学習会が今年度から始まっています。中学生で一番つまづきやすい、英語への教育が学力低下を食い止めるためには必須とのこと。今後ますます広がっていくでしょう。

最後に渡辺さんから、経済的に苦しい家庭の方々に向けたメッセージをいただきました。

「いま、非常に苦しい状況にいらっしゃると思います。しかし、社会的構造の中で、『ひとり親や子だくさんの家庭は本当に大変なんだ』と理解され始めているので、これからはますます支援が広がるはずです。現在も支援の手はいっぱいあるので、どんどん求めてほしい、声や手を挙げてください。お金がないことは恥ずかしいことではありません。皆さんが悪いわけではないのです。くじけずにがんばってほしいです」

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