ヒップホップファッションの歴史
1970年代後半に、NYのサウスブロンクスで生まれたヒップホップ。地元の若者たちによって支持されたヒップホップの人気は、たちまちアメリカを超えて世界中に広がり、大きな影響力を持つ文化として育ち続けてきました。前号の記事ではヒップホップの歴史とその変貌を振り返りましたが、今回はヒップホップファッションにフォーカスをおいて、過去から現在までのトレンドの流れを見ていきたいと思います。<目次>
80年代の人気スタイルは、アディダスのトラックスーツやカザールの眼鏡、カンゴールのハットなど
ヒップホップが誕生して間もなくの70年代後半は、レザーやハイウエストのデニムなどが人気で、80年代に入るとハイトップ・フェードやガンビーといったヘアスタイルに、アディダスなどのトラックスーツやボンバージャケット、カザールの大きな眼鏡、カンゴールのバケット・ハットや大きく太いゴールドのアクセサリーなどが流行りました。この時代のファッションアイコンとして一番よく知られているのは、何と言ってもアディダスを流行らせたラン・DMCでしょう。RUN-DMC - Run's House
彼らはヒップホップが今のようにメジャーでなかった86年に、アディダスと160万ドルの契約を結びつけたのですから、どれほどのインパクトを持っていたかがわかりますね。他にも、LL・クール・ Jやビッグ・ダディ・ケイン、ソルト・ン・ペパなどがファッションの手本となり、上に挙げたようなアイテムを流行らせました。
オーバーサイズにブリンブリンのフラッシーなスタイルが好まれた90年代
90年代はドレッドやコーンロウといった髪型に、ブランドのロゴが大きく目立つXXLのオーバーサイズのスタイルが基本で、トミー・ヒルフィガーやポロ ラルフローレン、ノーティカ、カルバン・クラインなどのブランドが流行り、NBAやMLBなどのジャージも定番でした。ギャング文化が根付く西海岸では、チェック柄のシャツやディッキーズのパンツ、西海岸のスポーツチームのジャケットやキャップなどのギャングスタスタイルが好まれました。
カール・カナイやフーブーなど、様々なヒップホップブランドが誕生
多くのヒップホップブランドが出てきたのもこの時期で、PNBネイションやカール・カナイ、フーブーやエコー・アンリミテッドなどと言った、数多くのストリートブランドがより大きなマーケットで展開するようになりました。デディーやJAY-Zらを始めとするアーティスト達も自分のブランドを持ち、アーバンファッション界で成功を収めるように。女性陣も、TLCやリル・キム、ローリン・ヒルやイヴなどのアーティストたちがそれぞれのスタイルを築き、ヒップホップ界に大きなインパクトを与えました。
何といってもスニーカーが命のヒップホップファッション! スニーカーコレクター達が続々と増えたのもこの頃でした。
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数百万から1千万以上もするものまで。光輝くブリンブリンは富の象徴
また、“ブリンブリン”と呼ばれるアーティストたちの胸元や手元に光り輝くプラチナや大きなダイアモンドのアクセサリーも、よく目にしました。その値段は数百万から高いものだと1千万以上もするものまで。アーティスト達は自分の富を誇示するように、その大きさを競い合っていました。やはり、やるならとことんやるのがヒップホップ魂!細身のサイズでシンプル&シックに変化していった2000年代
2000年代初期から中期は90年代の流れを引き継ぎ、基本はオーバーサイズで、スポーツ系のジャージ、白のビックTシャツか、またはLRGやア・ベイシング・エイプなどのカラフルなトップにデニムジーンズ、ニューエラのキャップに足元はナイキのエアフォース1、などと言ったスタイルが定番でした。後期に入ると洋服のサイズが段々と体にフィットするサイズへとサイズダウンしていきます。相変わらず派手なブランドものを好む人もいましたが、洗練された感じがヒップホップファッションにも感じられるように。80年代に人気だったファッションが一周して再流行した時期もあり、ハイトップ・フェードにトライバル柄の洋服を身につけた若者たちを多く街で見かけることもありました。
ヒップホップファッションにおける大事な要素、タトゥーとグリル
タトゥーは昔から人気で、多くのアーティスト達がタトゥーを入れていましたが、顔、頭を含めた全身にタトゥーを入れるスタイルが増えてきたのもこの頃です。ゴールドやプラチナ、ダイアモンドなどでできた、歯に装着するグリルと呼ばれるアクセサリーも2000年代頃から人気を博しました。この頃からアトランタやヒューストンなどのアメリカ南部出身のアーティスト、リル・ジョンやT-ペイン、ポール・ウォールらがヒップホップ界を盛り上げていたので、より派手好きなものを好む南部の人たちに人気だったグリルが流行るようになり、今ではグリルはヒップホップファッションの大事なアイテムの一つとなりました。
ファレルやカニエなどの影響で、ストリートでもハイブランドが人気に
2010年代に入り、ヒップホップな要素をスタイルに残しつつも、シンプルでシックな着こなしをするアーティストたちが増えてきました。ファレル・ウィリアムスやカニエ・ウェスト、エイサップ・ロッキーらはハイファッションブランドとコラボレーションをしたり、広告塔になったりと、ハイファッションとの密な関係を築き、注目を置かれています。彼らのスタイルに影響されたストリートの若者の間でも、トム・ブラウンやメゾン・マルジェラ、ラフ・シモンズなどのハイブランドが人気を得ています。シャネルの広告塔にもなったファレル(中央)トップモデルのカーラ・デルヴィーニュ(左)とシャネルのカール・ラガーフェルド(右)と (c) CHANEL
もちろんハイブランドだけが人気なわけではありません。シュプリームやヴァンズなどのスケーターファッションを流行らせた、独特なスタイルが際立つタイラー・ザ・クリエイター率いる集団オッド・フューチャーらもいます。
この時代に注目を集めた女性ラッパーは何と言ってもニッキー・ミナージュ。カラフルなウィグとファッションで、いつも驚きとインスピレーションを与えてくれました。
最近のトレンドは、様々なテイストをミックスしたスタイル
ここ最近のファッションアイコンとして注目されているアーティストに、リル・ウージー・ヴァート、ミーゴズ、トラヴィス・スコットなどの名が挙げられます。彼らのように、ハイエンドからローエンドのブランド、スケーター、パンク、ゴス系などの他のスタイルをうまくミックスするのが今のヒップホップファッションのトレンドです。約40年間の時を経て、ヒップホップファッションは様々な変化を遂げました。ですが、どんなブランドを身につけようが、どんな着こなしをしようが、そのファッションからヒップホップが溢れ出ていることは、いつの時代も変わりはありません。それは着ている彼らがヒップホップを愛しているから、いや、彼ら自身がヒップホップだからなのでしょう。あなたも是非自分なりのヒップホップな着こなしを見つけてみてはいかがでしょうか。
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